陰キャの俺が席替えでS級美少女に囲まれたら秘密の関係が始まった。

一章「席替えから始まる学園生活」 ②

 おにの山田が竹刀しないを片手に言うと、ビビった生徒たちは大人しく席に着く。

 山田の後に来たくろも、自分の席である俺のみぎどなりに座った。

 くろめ……お前のせいで、俺はこんな最悪の席に座ることに……。


「席えは終わったみたいだな。お前ら、あんまりかれるんじゃねえぞ」


 山田がするどい眼光で生徒たちを見回す。


「今回は委員長のくろが『どうしても』と言うから特別に席えを許可したが、席えなんてなものは二度とないと思ってろ。今日はれんらくこうがないので朝のHRは以上だ」


 山田は床に向かって竹刀しないをパシンッと一発たたくと、教室から出ていった。

 はぁ……今日はあっさり山田のHRが終わったな……って、待て。

 今、山田のやつ、席えは〝二度とないと思ってろ〟って言わなかったか?

 まさか、2年の最後までこの席のままなのかよ!? 俺のへいおん……ちがいなく死んだ。


「──いずみくん、久しぶり」


 俺が顔面そうはくになっていると、みぎどなりからんだれいな声が聞こえてきた。


「今日からわたしたち、となり同士だね? よろしく、いずみくん」


 こ、この声は……くろ……。



 今回の一件における全てのげんきようであり、このクラスの委員長。

 緑なすくろかみストレートは大和やまと撫子そのもので、やさしそうなまなしにたんせいな顔立ち。

 陸上部に所属しており、そのスレンダーな身体からだつきはモデルのようにスラッとしている。

 そんな美人委員長さんが急に話しかけてきたことに、俺は正直びっくりしている。

 言っておくが、俺とくろはこの一度も話したことはないのだ。


ちゃん、なーに話してんのー」

「……、そいつと知り合いなの?」


 美少女三人衆の他二人がそうたずねながらくろの席まで歩み寄ってくる。

 いちに関しては、俺を「そいつ」呼ばわりしながら、指を差してきた。


「うーん。今まで話したことはなかったけど……実はわたしといずみくん、だったから」


 そう……俺とくろは同じ中学出身なのだ。

 中学時代からくろの一挙手一投足は周囲の注目を集めており、生徒会長に陸上部部長、さらには全国模試1位のかたきをげ、人気や人望をほしいままにしていた。

 だからこそ、あのくろが俺みたいな底辺いんキャの名前を覚えていたこと自体が意外だ。

 なんでくろは俺にせつしよくしてきた?

 たまたまとなりの席になったからか?

 何はともあれ、俺は絶対にお前を許さねえぞくろ……。

 俺がにらむと、それに反応するようにくろは不敵なみをかべた。

 な、なんだよその顔っ!

 くろにらんでしまった俺は、そのままくろと会話をわすことなく、机から取り出したラノベを読み始める。

 くろはなんていうか不気味な感じもするし、下手にかんしようしない方がいいな。


「うわ、えっちな絵の本だ」


 俺がラノベを読んでいると、やまが興味本位で俺のラノベを見てくる。


「ねえ、これ絶対えっちな本だよー」

「…………」

?」

「……なんつうか、人のしゆをイジるのはちがう。ほっといてあげな」

「なーにやさしいじゃん」

「そういうのじゃないから」


 意外にもいちのフォローのおかげで、やまのイジリは終わった。

 もしかしていちは俺を守ってくれたのか……?

 いや、さすがにそれはないか。すぐに「自分を助けてくれた」なんて思うのはオタクの悪いだ。

 三人はそのままくろの席でガールズトークを始める。


「てか今日、あたしコスメ買いに行くんだけど二人はどう?」

「わたしは陸上部もお休みだからだいじようだよ? あいは?」

「あ、あいは……えっとー」


 さっきまでとはちがい、急に歯切れが悪くなるやま


「ごめん今日はパス! か、かれが放課後にスタバに行きたいって言っててー。あはは」

「そっか。それなら仕方ない」

「うん、ほんとごめんっ」


 へー、やまってかれがいるのか。

 まぁこんなバカみたいに乳のデカいばくにゆうおんなを世のイケメンが放っておくわけないもんな。

 このデカい胸を好き放題める男の背徳感は計り知れないだろう。


「おーいお前ら席着けー。授業始めるぞー」


 1限目の教師が教室に入ってきたことで、美少女三人衆の会話は終わり、おのおの席へもどっていった。


☆☆


 ──放課後。

 ゆうを背に高校から出ると、校門の前で大きなため息をつく。


「はぁ……なんて一日だ」


 こくしそうになったり、席えで美少女たちに囲まれてしまったり、他の男たちからのしつの視線が痛かったり……。

 今日一日をそうかつすると、とにかく最悪の一日だった。


「仕方ない。らしにアニメイト行くか……」


 残金2000円。まんかラノベを何冊か買える額。

 さいかくにんした俺が駅のアニメイトへ向かって歩き出すと、いかにも陽キャな見た目のカップルが前から歩いてきた。


「なあ、今日お前の部屋行ってもいい?」

「えー、私の部屋散らかってるよー?」

だいじよう、俺がもっと散らかしてやるから。特にベッド」

「もー、えっちー」


 チッ、このクソリアじゆうが。

 見せつけられてイラついたが、だいじようだ問題ない。俺にはまんやラノベの世界がある。

 三次元の女子はみんないんキャの敵だが、二次元の美少女は俺の味方だ。

 俺が脳内でいかりをおさめていたその時、一人の女子生徒が俺の真横を小走りでけていった。

 あれ? この甘ったるいこうすいにおいは……やまあいだよな。


「やばやば……店長におこられるっ」


 やまはごまんばくにゆうをたゆんたゆんとらしながら、やけに急いで行ってしまった。

 店長……? よく分からないが、そういややまは放課後に、デートでかれとスタバに行くとかなんとか……ってあれ?

 おかしい。やまが走っていった方角にはスタバはない。