陰キャの俺が席替えでS級美少女に囲まれたら秘密の関係が始まった。

一章「席替えから始まる学園生活」 ③

 そもそもうちの高校の生徒なら、高校の真横にある商店街のスターバックスに行くのが自然だ。

 しかしやまの走っていった方角は真逆で、スターバックスはない。

 いや、どうせかれが別の高校にいるからそっちに向かっているのだろう。どちらにしても俺にとってはどうでもいいな。

 それ以上、やまのことは考えず、俺はアニメイトに向かうのだった。


☆☆


 高校から徒歩15分の場所にある駅前のアニメイトにとうちやくした俺は、ずっとしかったラノベを探しに来ていた──のだが。


まことに申し訳ございません。ただ今『異世界でS級美女のおっぱい吸いまくってチートスキルも吸い上げてやった』はご好評につき品切れ状態でして」


 レジでアニメイトの店員からそう言われてしまう。

 俺が好きなWEB小説『異世界でS級美女のおっぱい吸いまくってチートスキルも吸い上げてやった』が、しよせき化されたので買いたいと思って来たのだが……まさかの在庫切れ。

 さすがWEBで人気の異世界モノ……数万フォロワーをほこる注目作だったから仕方ないか。

 俺はかたを落としながら帰路にく。

 アニメイトには限定特典があるので、できればここで買いたかったが……はぁ。


「今日の俺、つくづくついてないな」


 電子しよせきというせんたくもあるが、休み時間に読みたいし、やっぱ本で買いたいよな。

 俺はスマホを使って近くの本屋をけんさくする。

 おっ、人気の少ない裏通りにツタヤがあるな……ここならワンチャンあるかもしれない。

 アニメイトですら品切れだったんだ。ツタヤも品切れの可能性がある。

 一応、行く前に電話で在庫かくにんしてみよう。

 俺はアニメイトを出ると、ツタヤの方へ歩きながら電話をかける。


『はーい、ツタヤでーす』

「あ、すみません。ラノベの……え、えっとそのぉ……『異世界でS級美女のおっぱい吸いまくってチートスキルも吸い上げてやった』って本の在庫を知りたくて」

『お、おぱっ? と、とりあえずりょーかいでーす』


 なんかやけにノリが軽い女性店員だな。

 それにどこか聞き覚えのある声質……気のせいか?


『えっとー、おっぱいなんたらって本なら残り4冊あるっぽいですー』

「分かりました。わざわざありがとうございます。これから向かいます」

『はいはーい』


 ブチッと電話が切れる。つうはお客様が切るまで待つものだろうに。

 やけに若い女の子の声だったし、きっと新人アルバイトなんだろう。

 俺はバイトしたことないから、大変さはよく分からないしあまり責めないでおこう。

 そもそも俺の高校は、許可がないとバイト禁止だから、やりたくてもできないんだけどな。

 ツタヤにとうちやくした俺は、そのまま入店する。

 ちょうどレジでは店員が何やら作業していたので、俺はそのままレジへ直行した。


「あの、さっき電話した者なのですが……っ!?」

「ああ! お客さん『異世界でS級美女のおっぱい吸いまくってチートスキルも吸い上げてやった』なら……って」


 白いブラウスの上にこんいろのエプロンを着けたツタヤの女性店員は、俺の顔を見るといつしゆんで苦虫をみつぶしたような顔になった。

 明るいかみ色のツインテとかかえた本の上にどっさり乗っかるむなもとの大きな果実。

 このおっぱい……ちがいない。


「み、やま?」

「うわっ、後ろの席の……」


 理由は全く分からないが、なぜかやまあいがツタヤでバイトしていたのだ。

 やまかれとデート行くんじゃなかったのか?

 やまあいは放課後、かれとデートするからいちたちのさそいを断っていたはず。

 それなのにどうしてこんなところでバイトを……。

 ツタヤの制服姿で本を持つやまを見てしまった俺は、ぜんとしてその場にくす。

 うそをついていたってことはきっと何かしら深い事情があるのだろうが、俺みたいな部外者には関係のないことだ。

 よし。ここは見なかったことにしてげ──。

 げようと思ってきびすかえしたせつ──やまかかえていた本をレジ前に置き、俺のかたを思いっきり引っ張った。


「ねえ、何しに来たの?」


 俺を引き留めたやまは、げんそうにまゆひそめながら俺の方をにらんできた。

 お、俺はただ本を買いに来ただけなんだが!


「もしかして……あいがバイトしてるのをみんなにバラすつもり?」

「はあ?」

「い、言っとくけど学校の許可はもらってるし、校則で決められた労働時間内のバイトだから! 後ろめたいことなんて……何も……」


 じよじよに顔がくもって、最後には今にも泣きそうな表情に変わるやま

 どうやらやまは、バイトしていることを俺が悪いように広めると思い込んでいるようだ。

 オタクいんキャに対するへんけんがいもうそうたいがいにしてしいと思うが……まぁ、ごろの行いを考えたらとうか。


「あの……さ。何かかんちがいしてないか?」


 どう話すべきか分からずに、俺は辿たどたどしい口ぶりで話しかける。


「お、俺は単にラノベを買いに来ただけで、やまのことは何も」


「お願いだからッ!!」


「えっ……」

ちゃんには、このこと……言わないでっ!」


 やまおおつぶなみだを流しながら必死な形相で俺にたのみ込んできた。


「お願い……お願い、だからっ」


 な、泣くほどなのか?

 ど、どどど、どうしたらっ!

 オタクいんキャに女のなみだけないぞ!


「──はいはい。アンタらげんはそこまで」


 いつの間にか俺たちの間に割って入ってきたきんぱつショートの女性店長。


やまちゃんさ、バイト中にげんはマジでアウトだから」

「……っ」


 やまえつらしており、反論できないようだ。

 いやいや、お前が「こいつはかれじゃない」って反論してくれないと場が収まらないんだが……。


「ったく仕方ないなぁ。やまちゃんはいつたんきゆうけい室入って。彼ピくんも付いてきて?」

「え、あ、はい」


 俺は場の空気を読んで、反論せずに付いていくしかなかった。


☆☆


 レジ裏にあるスタッフのきゆうけい室に通された俺たちは、部屋にあった小さなパイプに向かい合って座らされる。

 こんな所に連れてこられるなんて、まるで万引き犯みたいなあつかいだな。


げんなら、この部屋でごゆるりと〜、あっ、でもきゆうけい時間はバイト代から引かせてもらうから」


 きんぱつショートの女性店長はニヤリとみを残して行ってしまった。