陰キャの俺が席替えでS級美少女に囲まれたら秘密の関係が始まった。

一章「席替えから始まる学園生活」 ④

 おいおい。やまが泣いたままなのに、置いていかないでくれよ店長。


「ごめん、ね……あいのせいで」

「あ、いや、なんていうか、俺もごめん」


 俺には謝る必要性が全くないのだが、流れでつい謝ってしまう。

 泣いてまで、バイトのことをだまっておいてしい理由があるのだろうか。

 やまは落ち着いてくると目元のなみだを指ではらって俺の方を見つめてくる。

 あのやまあいが、俺を一心に見つめて……。

 10文字以内で今のそつちよくな感想を述べるなら『おっぱいでっけえ』。

 顔やかみがたもファッション誌のモデル並みにわいいが、おっぱいはグラドルのそれと堂々、いやそれ以上にエロい……って、こんなじようきようで何をよこしまなこと考えてるんだ俺は!

 すぐに目をらし、俺は視線を泳がせる。

 いんキャにこのきよで向かい合うのはやはり無理が──。


あいね、急にこわくなっちゃって」


 ここに移動してからあまり会話がなかったが、やまは自分からゆっくりと話し始めた。


「また昔みたいに、って言われたらどうしようって思ったの」

「び、びんぼう……? それってどういう」


 俺が聞き返すとやまはグッとくちびるんで、また話し始める。


「実はあいの家、めっちゃびんぼうなの。小さいころにお父さん死んじゃって、お母さんが女手一つで育ててくれたんだけど、色々大変でさ。昔からおづかいとかもらえないから……つらい思いすること多くて」


 やまおもむろに身の上話を口にした。

 それはこれまで俺が思っていたやまあいのイメージとは、かけはなれたきようぐうだった。

 想像してた100万倍ほど激重な話が始まったんだが……。


「中学の時にね、友達がみんなおしようとか始めたのに、あいだけおくれてたくさんつらい思いした。高校からはそんな思いしたくないから、必死にお金めてオシャレやメイクもいっぱい勉強してわいい自分になれたの。おかげで自分でもあいが一番わいいって思ってたけど、わいい自分を演じるにはお金がるって現実に直面したっつうか」


 なるほど。だからバイトをしてるのか。

 今までのやまあいはファッションの最先端にいるようなイメージだった。

 身に着けている物がすぐに様変わりして、センスに富んだ物ばかり着けていた。

 でも、まさかそれほどまでに苦労人だったなんて。

 バイトしてる=びんぼうとはならないと思うが、本人からしたら気になるものなのだろう。


「べ、別にあいびんぼうって馬鹿にされても平気だし! 周りからびんぼうって言われるのには、慣れてる……でも、せっかく1年の時から友達になってくれたちゃんには、絶対にバレたくないのっ! だから」


 どうやらやまはまだ俺が馬鹿にすると思っているみたいだ。

 実に心外だ。オタクいんキャの代表として、ここはしっかり言っておかないとな。


「お……俺は! やまのこと尊敬するっ。馬鹿になんて絶対しない」

「……え?」

「だって俺なんか! 自分でかせいだ金で物を買ったことなんてないわけで……だ、だから、なんていうか、やまは俺なんかより何倍も大人だ。そんなやまを俺が馬鹿にはできないし、絶対にしない」


 オタクいんキャの俺にはこれくらいのフォローしかできないが……これで俺が馬鹿になんてしないと伝わってくれればいいが。


「……なんだ、意外とやさしいんだね」


 やまの顔に、じんわりとみがもどった。

 これは伝わったということでよろしいか?


「もうあいは仕事にもどらないと。本買いに来たんでしょ? ほらなんたらおっぱいって本」

「あっ……忘れてた」


 思い出したたん、俺は部屋を飛び出して売り場へと直行した。


☆☆


 ない……ないぞ!

 俺の『異世界でS級美女のおっぱい吸いまくってチートスキルも吸い上げてやった』がない!

 ラノベコーナーではすでに俺の目的のラノベがなくなっていた。

 在庫はあったはずなのに……はぁ。

 今日は最後の最後まで運がなかったってことか。


「ねえ、お目当ての本あった?」

「……いや、売り切れてて」

「ぷっ、ぷぷっ、あははっ!」


 俺が残念そうにかたを落としながら言うと、やまはゲラゲラと笑い出した。

 腹立つ……だれのせいでこんなことになったと思ってやがる。

 こうなったらやっぱ腹いせにこいつの過去を言いふらして──って、ん?


「これ、なーんだ?」


 やまは俺に1冊の本を差し出した。

 なんだなんだ?

 俺はしぶしぶそれを受け取って、そのしゆんかんハッと目を見開いた。


「こ、これ、『異世界でS級美女のおっぱい吸いまくってチートスキルも吸い上げてやった』の1巻じゃないか」

「これがしかったんでしょ? 残りわずかだったから取り置きしておいてあげたの」


 マジか。天使かよ……。

 腹いせに過去を言いふらすとか思ってた数秒前の俺をなぐりたい……。


「もー、取り置きのお礼は?」

「あ、ありがとう……ございます」


 ありがたすぎて、俺は敬語になってしまう。


「お礼ってそうじゃなくて」

「え?」

「サービス精神で取り置きしてあげたんだから、その代わり何かおごってって話」

「は、はあ?」

あいほんしようがバレちゃったからハッキリと言っとくけど、あいは現金な女なの。だから明日学食で何かおごって?」


 こ、この女ぁ。やっぱ天使じゃなくてあくだ! このばくにゆうあく! ドスケベサキュバス!


「ねえ、キミって名前、なんていうの?」

「えと、いずみりよう……っす」

「ふーん、りようねっ。とりあえずりようさ、あいとLINEこうかんして?」

「LINE? あ、はい」


 俺は言われるがまま、LINEのコードをやまに見せる。


「うん、これでこうかんかんりよう〜。ありがとりようっ、明日の昼休み楽しみにしてる〜」


 やまに見送られて、俺はそのままツタヤから出……って、おいおいおい!

 なんか流れでLINEこうかんした上に、明日は学食であのばくにゆう美少女・やまあいとランチ!?

 俺のへいおん……ちがいなく終わった。