──翌日。
「んん……? もう、朝か」
俺はカーテンから差し込む朝日で目が覚めた。
ふう、今日は金縛りに遭わなかったので遅刻はしないだろう。
それにしても昨日はとんでもない一日だったな。
昨日は席替えで、クラスカーストトップの美少女三人に囲まれたり、美少女グループのデカパイ担当・海山愛莉の過去まで知ってしまったりと散々だったからな。
海山はただのデカパイ美少女だと思っていたが……まさかあんなに苦労していたとは。
人は見かけで判断してはいけないってことか。
「ちょっと諒太ー! 早く朝ご飯食べないと姉ちゃんがあんたの分も食べちゃうよー」
「はいはい」
姉に急かされて俺は朝食へ向かうのだった。
☆☆
優雅な朝食を済ませてから高校にやってきた俺は、自分の席に座ってバッグからラノベを取り出す。
昨日海山のおかげで買えた念願の『おぱ吸い』書籍版。
書籍版はどこまでエロ描写があるのか非常に楽しみだな。
「ったく、なんであんなオタクが……」
「だよな、席替えした意味ねーよ」
「あいつオタクだし二次元にしか興味ないだろ? ほんと替わって欲しいよなぁ」
俺が一人でラノベを読もうとしていたら、どこからか嫉妬に満ちた陰口が聞こえてきた。
どうやらクラスメイトの男子がわざと俺に聞こえるように言っているようだな。
はぁ……こうなるからあの美少女三人と近い席になるのは迷惑なんだよ。
そりゃ爆乳美女とダウナーギャルと黒髪清楚に囲まれてる俺の席は、他の男子にとっては垂涎ものかもしれない。
しかし、オタク陰キャの俺にとっては最悪の席だ。
百歩譲って海山の身体を性的に見ていたことは認めるが、そもそも俺はあの三人と親しい関係になりたいとはあまり思っていない。
下手にあの美少女たちに干渉したら、俺の平穏な高校生活が失われるからだ。
さて、周りの騒音は無視してラノベに戻るとしよう。
ほうほう……やっぱ主人公が女性冒険者たちのおっぱい吸ってチートスキル奪いまくるシーンは圧巻だな。エロさ100点。シコ●ティも100点。うん満点合格だ。
なんて考えながら鼻の下を伸ばしていると、俺の席の前に人影が……ん?
「……あんた、たしか泉谷だっけ」
ラノベをじっくり読んでいると、いつの間にか目の前に市之瀬優里亜がいた。
……は? 市之瀬優里亜!?
制服のブレザーを着崩して右肩のワイシャツだけ露出させながら、肩にバッグをぶら下げて持つダウナーギャル。
薄ピンク色の魅惑的な唇に光沢のあるネイルと、相変わらず目立つ明るい栗色の髪。
「あんたの名前は泉谷なのかって、聞いてんの」
「え、あ、はっ、はいっ」
「……っ」
「あの、市之瀬……?」
市之瀬は俺の手元にあるライトノベルに目を向けると、ジトッと目を細めた。
な、なんだなんだ?
「……覚えたから」
市之瀬はボソッと呟くと、俺の左隣にある自分の席に座る。
お、覚えた……って、どういう意味だ!?
よくヤンキーが言ってる『お前の顔覚えたからな?』みたいなヤツか?
やべぇ……さっそく市之瀬から嫌われてるじゃねえか。
やはりオタクに優しいギャルは存在しない。
ただ海山はまぁ……オタクに優しいギャルというより誰にも優しい爆乳ギャルみたいなものだから例外だな。
ん? そういや海山といえば……俺、何か忘れているような…………あっ。
そうだ。今日の昼は海山と一緒にランチだった。
「おはよー優里亜ー? あっ」
市之瀬に朝の挨拶をした海山は、次に俺の方を見ると、何も言わずに俺の方へ右目でウインクしてくる。
「ちょい愛莉、なんでウインクしたん?」
「あ、いや、なんとなく? 今日も愛莉は可愛いっしょ?」
焦り気味に誤魔化す海山。
お、おいおいおいおい! なんか裏で付き合ってるカップルみたいじゃねえか!
もしも俺が、勘違い陰キャオタクだったら一瞬で堕ちていたが……ふっ、全然大丈夫だ。心臓の鼓動が激しくなるくらいで済んだな。
ったく、この調子だとランチはもっとやばいことが待ってそうだな……。
☆☆
「カツカレー特盛! ルーだくだくで!」
4限終了後に昼休みに入り、昨日交わした約束通り、海山と学食に来た俺は全く遠慮のない海山にカツカレー特盛(1000円)を奢らされていた。
約束をしてしまった以上、俺は文句を言わない。というか言えない。
いくらオタク陰キャな俺でも男としてのプライドがあるんだ。
というか、うちの学食のカツカレー特盛ってかなりの量だと思うが。
そう思った矢先、受け取り口から出てきた特盛のカツカレーは、大盛の白米に8切れの分厚いカツと、香ばしいカレーが溢れるスレスレまで注がれていた。
見た目からしてかなりボリューミーで、見てるだけで腹がいっぱいになる。
今日は俺(残金的にも)おにぎり1個でいいや……。
俺と海山は各々昼食を持って二人席に向かい合って座った。
海山愛莉とランチ。こんなイベントが起きるなんて、過去の自分に言っても信じないだろう。
こうやって海山と向かい合うのは昨日以来2回目だが、何度見ても海山の顔面偏差値は東大合格レベルだし、胸に関してはハーバード首席レベルだ(断定)。
それに陰キャの俺は、女子とのランチなんて中学の給食以来だ。
とにかく緊張がヤバい……。
食事のマナーにはより一層気を遣わねばならぬ。
「今日は奢ってくれてあんがとね? あと、結構高めのメニュー頼んでごめんね?」
「別に、昨日のお礼だから……」
「諒太はおにぎり1個でいいの?」
「俺、少食なんで」
残金的におにぎり1個で我慢しなければならないんだが、それは言わないでおこう。
「諒太って律儀だね」
「律儀? 俺が?」