陰キャの俺が席替えでS級美少女に囲まれたら秘密の関係が始まった。

二章「秘密を知って動き出す」 ⑤

「は? いや、その方がいちとしても都合がい──」


「だってあたしも……お、オタク、だからっ!」


 いちとうとつなカミングアウト。

 ちちきゅんみたいな激エロアニメをてる時点で、相当変わってるとは思ったが……まさかオタクだったなんて。

 オタクにやさしいギャルどころか、だったとは……ビックリだ。


「つ、つまり……今まではかくれオタクだったということか?」

「別にあたしはかくしたくてかくしてたわけじゃない。ただ……あいの前でこのしゆをオープンにするのは……ちょい厳しいっていうか」


 そりゃそうだろう。

 かんぺきちようじんくろはオタク文化とはえん大和やまと撫子であり、キャピキャピばくにゆう美少女のやまあいは(実は苦労人だが)常にわいいを追い求めているだれもが認める美少女……この二人に自分がオタクだとカミングアウトするのは、少しハードルが高いようにも思える。

 そもそもいちだって彼女たちと同等に容姿たんれいであり、胸も太もももかんぺきなスタイルばつぐん美少女なのだが……むしろそういう存在だからこそ、話せないのかもしれない。


「アニメが好きってだけなのにそれが理由で大切な友達がはなれていくのは……もう二度といやっつうか。だからあたしはかくしてる」


 そうつぶやいた彼女の目は、プリクラのエリアではしゃぐJKたちの方を向いていた。

 くわしいことは分からないが、いちは過去に何かしらのつらい経験をしているように思えた。

 オタクが生きづらいというのは、オタクとして生きていればだれもが通る道だし、仕方ないのかもしれない。


「そんなにアニメが好きなら、逆にギャルをやめようとか思わなかったのか?」

「それはない。だってネイルもコスメもファッションも、アニメと同じくらい好きだから」

「……そう、だよな。ごめん、すいなことを聞いたかもしれない」


 さっき好きなことをかくす必要はないと言ったのは俺の方だしな。


「あんたの名前、いずみだっけ」

「う、うん」


 やまの時といい俺はクラスカースト最底辺だからか、名前を覚えられていないらしい。


いずみお願い。あたしがオタクだってことはだれにも言わないで。特にあいには絶対」


 なんかやまの時にも似たようなこと言われたな……。


「お、俺はだれにも言うつもりはないけど」

「ほんとに?」

「ああ。そもそも俺がそんなこと言ったところでだれも信じないと思うし」

「……ああ、それもそうか」


 何が「それもそうか」だよ! その反応はシンプルに傷つくのだが……。


「まぁそれなら安心。オタクのことがバレたら……あたしもいつかんの終わりだったから」


 いちは急にいつものダウナーでよくようのない話し方にもどる。


「でもさ、ある意味これで、あんたの前ではってことだよね?」


 いちおもむろに自分のバッグを開くと、中から1冊の本を取り出して俺に見せてきた。


「これ、あたしもさっき買ったから。あんたが朝読んでたラノベ『異世界でS級美女のおっぱい吸いまくってチートスキルも吸い上げてやった』の1巻」

「お、おぱ吸い!? なんでそんなこと……って、まさか!」


 いちが言ってきた『覚えたから』っていうのは、もしかしてこのこと!?


「朝、あんたが読んでたラノベのタイトル覚えたから。それでさっきこのせつ内にある本屋で買ったの。残り1冊だったけど」


 残り1冊!? やはりおぱ吸いの人気はすごい……いや、今はそうじゃなくて!


「い、いちも、それ読むのか?」

「あ、当たり前。ちょうどあたしも新しいラノベ探してたから」


 それでオタクの俺が教室で読んでたラノベのタイトルを覚えたと。


「仮にそうだとしても……かくれオタしてるならわざわざ俺に『覚えたから』とか言うなよ」

「それは……まぁ、なんつうか。しようどう的に言っちゃったというか」

「いや、意味分からないんだが」

「それよりも、ラノベの感想とか、言い合いたいからあんたのLINE教えてよ」

「ら、ラノベの感想だって?」

「うん。あたしはだんオタ活ができない分、これからはあんたにあたしのオタク談義に付き合ってもらうことに決めたから。たった今」


 冷めた口調でさも当たり前のように言ういち。ハルヒと同じくらい自分勝手である。


「そんな……俺が、いちとオタ活するだなんて」

「付き合わないなら、いずみがあたしのことで見てることみんなにバラすから」

「え、エロい目ぇ?」

「この際だから言っとくけど、授業中にあんたが横目でジロジロ見てるの、全部分かってるからね?」


 なっっっ!? ば、バレてた、だと……?

 正直に話そう。俺はやまのデカパイと同様に、いちの太ももも「はさまれテェ」と思いながらチラチラ見ていたことが何度かあった。

 どうやらそれは、バレバレだったらしい。


「あんたはあたしの秘密を守って、あたしはあんたの秘密を守る。あたしたちはこれからになったから。いいよね、いずみ?」


 いちはニヤッと口角を上げて、いたずらっ子みたいにほほむ。

 こうして、やまとはまた少しちがった関係をクラスカーストトップのギャル・いちと築いてしまう俺だった。


☆☆


「まさかクラスカーストトップでダウナーギャルのいちがオタクだった……なんて」


 となりまちのゲーセンでいちの秘密を知ってしまい、これからはオタクしゆを共有する関係になってしまった俺は、家に帰ってからもベッドの上でそのことばかり考えていた。

 ばくにゆう美少女のやまが実は苦労人というのも意外だったが、あのダウナーギャルのいちがオタクだったのはもっと意外だった。

 しかも二人の秘密を知ったことで、あのエロボディを持つ二人とれんらく先をこうかんする仲にまで発展してしまっている現状。

 数日前まではラノベを読んでるだけのオタクいんキャだった俺が、全男子のあこがれであるクラスの美少女トップ3の二人と秘密を共有する関係になっている……ったく、まるでラノベだな。

 それもこれも、あの席えでやまいちが俺をにんしてしまったのが原因だ。

 この先、どうしたものか。

 そんなことばかり考えていると、ポケットのスマホに通知が入った。