陰キャの俺が席替えでS級美少女に囲まれたら秘密の関係が始まった。

二章「秘密を知って動き出す」 ④

 つまりそれは、ばくにゆう美少女をろうとしていた事実からのがれができないじようきようを自分で作ってしまったことになる。


「あっ、あんたまさか……あたしの弱みをにぎるために……」


 いちどうようで顔を真っ赤にしながら、俺に向かって人差し指をてながら言う。



 また始まった。オタクへのへんけんタイム。

 やまもそうだったが、どうやらオタクは弱みをにぎりたがる生き物だと思われているらしい。

 俺みたいなオタクが弱みをにぎったところで、言いふらす相手もいないだろうに。


「ねえ……何とか言ったらどうなの」


 ごとのようにだまってせんきようを見守っていると、いちふるえた声で俺に言った。


「あたしがフィギュアねらってたこと言いふらして、めつに追い込もうとするつもり?」

「落ち着いてしい。俺がここに来たのは別にそんなことが目的じゃない」

「じゃあなんでここにいるの? こことなりまちだけど?」


 それをげんきゆうされると俺も弱い。

 朝のことを聞くために、やまから情報を得たなんて言えるわけない。

 こうなったら……だ。


「じっ! 実は俺も、このフィギュアをりに来たっつうか」

「え、あんたもミルクたんの……?」


 よし、どうやら少しは誤解が解け……ちょっと待て。

〝ミルクたん〟って呼んでるということは、転売とかじようが目的じゃないってことか?


「と、ところでいちは、なんでこのフィギュアをねらってたの?」


 問いかけても返事がない。

 いちかたに垂れたかみをクルクルといじりながら、ばつの悪い顔をして目をらす。

 答える気はない、とその態度が物語っていた。


「えと、だれかにあげるとか? それとも、まさかするのが目的とか──」


 そう言いかけると、急にいちきよめてきて、俺の制服のむなぐらをグッとつかんだ。


「あたしをあんなゲスろうたちといつしよにしないでっ!」


 だんはダウナーないちとつぜん感情的になった。

 どうやら『転売』というワードがらいだったらしい。


「あたしは……転売にくつしないためにこうやってろうとしてたの! あんな転売ヤーみたいな人間といつしよにすんな!」


 いかり心頭のいちは、きする勢いで顔を近づけながら俺のむなぐらをグッと引っ張った。

 いちの整った顔が近づいてくると、つい照れてしまう。

 やっべぇ……こわいというよりいちの顔が良すぎる。てかめっちゃいいにおいする。

 これがギャルの香り……やまとはまたちがう、ほうじゆんな香り。


「ちょっと聞いてんの?」


 かなりおこった様子のいちは、もう今にもなぐってきそうなふんがあった。ヤバいな。

 どうすればこの場が収まるのか考えた時、俺に残されたせんたくは一つしかなかった。

 俺はむなぐらをつかまれたまま、制服のしりポケットからさいを取り出して、そのままUFOキャッチャーに100円入れる。


「ちょっ、何を勝手に!」

むなぐらから手をはなしてもらえるか? 今は集中したい」


 集中モードに入った俺は、指をポキポキさせながらえらそうに言う。

 すると意外にもいちは、すんなり手をはなして俺の横に立った。


「な、なんか……あんた、ふん変わったね」


 そう、俺はUFOキャッチャーを始めると別の人格モードが出てしまう。

 ガキのころからるためだけにきたえてきた、極限の集中力とUFOキャッチャーのテクニック。それを発揮するには集中モードに入らないといけないのだ。

 UFOキャッチャーは一発でれるほど甘くない。とにかく〝でる〟作業が大切なのだ。

 景品をでてれるポジションに動かしてから、あとはアームで押し切る。


「……よし、これで」


 俺は慣れた手つきでアームを動かし、わずか5回のプレイで目の前のフィギュアを落として見せた。


「すっご……あ、あんたマジですごいじゃん」


 見たかギャル? これがスポーツや勉強ではだんイキることができないオタクの力だ。

 俺は取り出し口からフィギュアを手に取ると、いちむなもとにフィギュアを押し当てる。


「はい、これ」

「い、いいの? でもこれはあんたが落としたし……あんたもしかったんじゃ」

「これがれたのはいちがこの台でがんっていたおかげだ。だからこれはいちの物だ」


 俺はそう言いながら、むなぐらをつかまれた時に乱れた制服を正す。

 内心は『今日のところはこのフィギュアでかんべんしてください!』という気持ちだった。

 さて、フィギュアをいちに上納したことだし、その代わり今日のことはおたがいになかったことにしてもらおう。

 まさかダウナーギャルのいちが『ちちきゅん』のファンだったなんて……むしろ知りたくなかった。


「あのさいち、今日のことはおたがいに忘れ──」

「あんたは……馬鹿にしないの?」


 俺がいことまとめようとしたら、いちがそれをさえぎってくる。


「女の子が、それもあたしみたいな女子高生が……こんなエロアニメのこと好きなの、どう考えてもおかしい、よね?」


 いちはグッと歯を食いしばりながら苦い顔をする。

 この様子からして、過去に何か言われたことがあったのだろうか。

 仮にそうだとしても、いちと思う。


「たとえ、母乳を発射するようなエロアニメでも、好きなものを好きと胸を張って言うのは何もちがってない……と思う。現に俺は、自分の好きなものがずかしいなんて思ったことない」


 俺はラノベだってカバーをしない。何もじることはない。それがオタクだからな。


「別にしゆかくすことが悪いとは思わないけど、その作品が好きなのに自分からけなすのは、やめた方がいいと思う」


 ついさとすようなことを言ってしまったが、現実では俺がクラスの最底辺で、いちはクラスカーストトップだから、あまりえらそうなことを言える立場じゃないんだが。


「とにかく、今日のことはおたがい忘れよう。それが一番だし」

いやだ……」