そりゃ俺としても、このまま市之瀬に嫌われたままでは席で居心地が悪いからはっきりさせたい気持ちもあるが……まさか海山のやつ、俺に上手いこと言って市之瀬が一人で何やっているのか偵察させようとしてるとか……?
いや、それはさすがに俺の考えすぎか?
半信半疑になりながも、俺は隣町の駅の商業施設内にある大きめのゲームセンターに足を進める。
ここのゲーセンは俺が小学生の頃、母が毎週セパタクローをやるために隣町まで通っていたことがあり、それについていってはよく遊んでいた記憶がある思い出の場所だ。
何かと思い出深いゲーセン……ここに市之瀬がいるなら早いところ捜して目的を果たそう。
ま、ギャルがゲーセンに来る理由なんてどうせプリクラとかだろ?
そんな偏見を持ちながら、俺はまずプリクラのエリアへと向かう。
「おお、ここが……プリクラコーナー」
最近はコスプレをしながら撮る『コスプリ』なるものが女子の間では流行っているらしく、プリクラコーナーにはプリクラだけでなくコスプレ衣装のレンタルコーナーもあった。
プリクラのコーナーに入っていくのは髪の色が明るいギャルJKばかり。
陰キャの俺にとっては場違い感が半端ない。でも、市之瀬はここにいるかも……。
俺はギラギラと目を光らせながら、しばらくプリクラコーナーの前で出待ちしていたが、市之瀬は一向に姿を見せない。
そろそろ普通に怪しいやつだと思われてもおかしくないので、一度その場から離れることにする。
でも、よく考えたらプリクラを一人で楽しむわけないか……。
それにプリクラなら、黒木や海山も誘って行くだろうし。
そう考えると、市之瀬が一人でゲーセンに来ているのは、あの二人に話せない何かがあるからこそなんじゃないかと思えてくる。
「はぁ……分かんねえ」
そもそも何で俺がこんなに考えなきゃいけないんだよ。
あー、もういい。全部どうでも良くなってきた。
明日、海山にはいなかったと言っておこう。
でもせっかく160円の電車賃を払って隣町まで来たんだ、遊んでから帰るとするか。
俺はそのまま近くにあったUFOキャッチャーのエリアへと移動する。
「そういやSNSでウマJKの新作フィギュアが入荷したとか言ってたような……」
せっかくならそのフィギュアを獲ってから家に帰ることに──っ?
UFOキャッチャーのコーナーの角を曲がろうとしたその刹那、曲がり角の方向に見覚えのある女子生徒の姿が目に入った。
明るい栗色の髪に海山に負けていない豊かな胸とスカートから垣間見えるでっかい太もも。
あの胸と太ももは間違いない。市之瀬優里亜だ。
どうやら市之瀬はUFOキャッチャーをやっていたようだ。
一人でゲーセン来てUFOキャッチャーって……陰キャとやってること変わらんぞ。
俺は別のUFOキャッチャーの陰で身を隠しながら彼女の様子を窺う。
「……ちっ。全然上手くいかない」
どうやらかなり苦戦しているようだ。
しばらくすると、市之瀬は財布から1000円札を出して両替機の方へ行ってしまう。
俺が見つけてからも10回近くやってるし、あそこまで注ぎ込むくらい何が欲しいんだ?
市之瀬が両替で退いたことで、やっていたUFOキャッチャーの景品が見え……。
は? 噓だろ……? なんで……ギャルの市之瀬が、これを。
それはあまりにもギャルに似つかわしくない、俺好みの一品。
長方形の黄色い箱に女の子のキャラが印刷されており、その箱には──『超絶爆乳美女アニメ・乳きゅんプライズ限定美少女フィギュア』と書かれていた。
「ばっ……ばば、爆乳!?」
超絶爆乳美女アニメ・乳きゅんは土曜深夜にやってる紳士淑女向けの激エロR17・9999のアニメであり、常に水着姿の美少女たちが国の存亡をかけて自慢の爆乳で殴り合いをするというカオスな内容で、円盤売り上げは令和最高を記録した名作(意味深)だ。
どうしてこんな、大きいお友達しか興味のない激エロフィギュアの台で、市之瀬はUFOキャッチャーをやっていたんだ?
まさか……市之瀬は、このフィギュアを転売しようとしていた?
確かに乳きゅんは昨年の夏アニメクールで覇権を握った超人気(エロ)アニメだ。
しかし作品の人気と関係なくプライズのフィギュアなんて転売したところでせいぜい1000円から2000円くらいだろう。
それに対して市之瀬は、既に3000円近くこの台に注ぎ込んでいる。
利益にならないのは一目瞭然なのに、果たして意味があるのだろうか。
全く理由が分からない。こんな水着の爆乳金髪美女のフィギュアを手に入れたところで、市之瀬に何のメリットが──。
「ちょいあのさ。そこはあたしがやってた台……でって」
前のめりになるくらいUFOキャッチャーの中を覗き込んでいた俺の真横には──。
「「あ」」
生まれてこの方十何年。
これまでも色んなことがあったが、間違いなく人生で一番気まずいことになった。
ゲーセンの騒がしさが一気に静まる。
周りの騒音が聞こえないくらい、俺はこの状況に肝を冷やした。
隣にいるのは、俺の目の前にある爆乳フィギュアにも負けず劣らずの豊満な胸元と太もものムッチリ感を持つ美少女。
「なんで、あんた……」
オタクとギャルは〝水と油〟の関係であり、互いに交わることがないはずだった。
それなのに俺と市之瀬は、『乳きゅん』の爆乳美少女フィギュアを前にして鉢合わせてしまったのだ。
いや、鉢合わせただけならまだ救いはあったはずだ。
オタクの俺がこのフィギュアを狙っていたという状況なら、こうして市之瀬と鉢合わせても『オタクまじキモい』と言われて終わりだっただろう。
だが市之瀬は、俺を見かけて開口一番に『そこはあたしがやってた台』と自白してしまった。