終末世界のプレアデス 星屑少女と星斬少年

第一章 空の光は全て敵 ⑨

「落下するほしくずじゆうとはこうさくするしゆんかんが勝負だ。ただし無理はするな。いちげきたおせなかったらそくだつだ。どうせ放っておいても地上に落ちるほしくずじゆうだからな」


 高速こうてい『アクイラ』船内。

 この高速こうていアクイラと第二特務隊を任されているギニアス・ライオネルが自室に呼び出した二人に作戦を伝えると、しようひげを生やした男がまゆをひそめて口を開いた。


「それだけか? カリナを呼ばずに俺たち二人をわざわざ部屋に呼びつけたんだ。他にもなにか言うことあるんだろ?」


 彼のするどてきにギニアスは小さくうなずく。


「俺は明日、完成した新しいスターライト『ポラリス』とその使い手を連れてくる。んで、そいつの教育係をディンかグアルデにたのみたいんだが」

「やっぱりめんどうな話かぁ」


 しようひげの男──ディン・ジネはぼりぼりと後頭部をき、


「ぼ、僕が新人の教育係?」


 もう一人のグアルデ・モラウはあからさまなこんわくがおを作っていた。

 予想はしていた反応なので、ギニアスはあらかじめ用意していた台詞せりふを放つ。


「仕方ねぇだろ。じゃあお前らはなにか? カリナに新人押しつける気か?」

「そう言われるとなぁ……」

「うぅ……」


 口ごもる二人をながめながら「もうひとしか」と次の一手をギニアスが口にしようとすると、横から割って入る声がした。


「ねぇねぇ、新しい使い手ってイケメンかしら?」

「ロゼ、お前を呼んだ覚えはねぇよ」


 こうしん丸出しでその場にすわっている女性を、ギニアスはにらみつけた。

 高速こうてい『アクイラ』の船内は非常にせまい。かつてこのこうていを造った地上の人間が、ただ速く飛ぶという性能を追求した結果なのだろう。通路はパイプがしになっており、すれちがうのにたがいに横向きにならなければ通れないような場所もある。せまい船内はギニアスの部屋も例外ではなく、ただでさえせまい部屋に大人四人が集まるとかなりきゆうくつであった。

 顔をしかめるギニアスを気にもとめず、ロゼは口をはさむ。


「別にいいじゃない。私も話に混ぜてよ」

「イケメンや美少女だったらなんだ? 俺らのやることになにか変わりがあるのか?」

「うわっ、つまんないわねぇ」

「使い物になればそれでいいんだよ。まあ最初のうちは期待できないだろうが」

「わかんないわよぉ。ヒナみたいのが来るかも?」

「ありえねぇよ。もしそうなら今すぐ俺の代わりに隊長やってもらうっつーの」


 この場にいない人間の名前を出されて、ギニアスはてるようにつぶやく。

 以前この第二特務隊を指揮していたヒナ・ロックハート。ギニアスにとっては訓練生時代からの同期であり、仲間であり、ライバルでもあり……常に自分の少し先をいく、複雑な存在であった。

 他の三人も思うところがあるのか、せまい部屋がみようちんもくに包まれてしまう。

 気まずい空気をばすようにロゼが話題を変えた。


「っていうかカリナのことだけどさ。ギニアスってば、ちょっと過保護じゃない?」

「たしかに。むすめを持った父親みたいだな」

「ぼ、僕は愛情を持って接していて、いいと思うよ」


 三人から口々に言われて、ギニアスは小さくたんそくした。


「大事にはあつかうさ。あいつを失うわけにはいかないって、お前らもわかってるだろうが」

「例の『新生星浮島ノア計画』のかくになるのがあの子だものね。人類がほろびをかいするための計画っていうけど、そんなこと本当にできるの?」

「俺が知るかよ。俺たちはあたえられた命令に従うだけだろ……ん?」


 投げやりに答えていると、とびらがノックされる。

 入ってきたのはメガネの男で、せまい部屋に四人もいたことにわずかにおどろいていたが、すぐさまギニアスに視線を向けた。


「ギニアス、あのさ、カリナのことで一応報告しておこうと思って……」

「なんだよ。言っとくが俺は過保護じゃねぇからな。皿割ったとか、かみかわかさずにから出てきたとか、そんなこといちいち報告しなくていいぞ」


 ぶつちようづらのギニアスに、メガネの男は言いにくそうに切り出した。


「そろそろほしくずじゆうの落下どうとぶつかる時間なんだけど……」

「どうした? カリナならほしくずじゆうおびえてげたりしないだろ」

「そういうことじゃなくて……」

「じゃあなんだよ?」

ほしくずじゆう目がけて、飛び出していっちゃったんだけど……」

「…………」


 しばしのちんもく

 窓の外では赤いかたまりが暗い夜空を流れている。

 直後、白銀のせんこうくらやみき、落下していた赤いかたまりが花火のように散った。

 やがて白銀のせんこうは見えなくなる。

 外は風が強くいている音だけがした。

 みなが顔を見合わせる中、一目散にギニアスは部屋を飛び出した。


 ☆ ☆ ☆


 まぶたの裏にほんのり熱を感じ、僕はうつすら目を開いた。

 しばと土のにおいがこうをくすぐる。どうやら外でねむってしまったらしい。

 おぼろげな頭で昨夜のことを思い出す。

 いつものようにれいスターライトよるおそくまで訓練をして、つかてててしまった……?

 いや、それだけじゃなかったような……たしか女の子が空から降ってきて……。スターライトと初めて同調できて……あれは夢だったんだろうか。

 ぼんやりと身体からだを起こすと、カリナがすぐそばで僕の顔をのぞんでいた。


「あ、目が覚めたのね」

「……夢じゃない?」

「おはよう」

「うん、おはよう……って、あれ?」


 なにか大切なことを忘れている気がしている。

 えない頭をひねる僕に、カリナはたずねてくる。


「朝は起きたらおはようじゃないの?」

「そうだけど、そうじゃなくて……え? 朝って……大変だ! もう朝!」

「そう、大変よ。朝ゴハンを食べないと。おなかが空いたわ」

「大変なのはそこじゃないよ!」


 今日がスターライトの使い手を決める大切な日だ。

 幸い太陽の位置はまだ低いのでせんの時間には間に合うだろう。それでもこんなところで朝をむかえるとは思っていなかったので、気持ちがいて落ち着かなかった。

 あわただしく立ち上がる僕をカリナがじっと見つめてくる。


「おなかが空いたの。まさか朝ゴハンを食べない気? ゴハンは大事よ」

「まさか、とか意外そうに言われても……わかった。ちゆうでなにか買って食べよう」

「よかった。やっと目が覚めたのね」


 さっきから目は覚めてるけどね。