幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった

【一章】幼馴染がVTuberになっていた ⑨

「それで……えーっと。せっかくだからついでにるいくんの立ち絵も見てもらおうか。急ぎで作ってもらったから、もう完成してるんだ」


 ああ、きっと俺のために徹夜でして作ってくれたんだろうな……ごめんよ、イラストの人とかモデルの人……(VTuberの知識が無いから、どんな人が携わっているかあんまり分かっていない)。

 そしてしおさわさんはパソコンを操作し、また画面を見せてきた。その画面には……長いハットと黒のローブを身にまとった、魔道士の格好をした少年の立ち絵が描かれていたんだ。その黒髪に隠されたオレンジ色の瞳はマジで……めちゃくちゃカッコいいものであった。思わず俺は声が漏れる。


「すっ、すげぇ……!」

「ふふ。このキャラの名前は『ルイ・アスティカ』。あの配信でレイちゃんが描いてた絵をモチーフにして、作ってもらったんだ。ルイくんの設定としては、レイちゃんと同じ魔法学校に通うエリート少年って感じかな」

「え、エリートですか……?」


 あやに言ったら鼻で笑われそうな設定だ。エリートなんて、俺に似合わない言葉トップ10に入るぞ……まぁでも。このビジュアルなら、最強じゃなきゃいけないよな。


「まぁ真面目系じゃなくて、ちょいワルな感じの。天才型って言うのかな? 授業はサボるけど、魔法の実技試験で満点を取る……みたいなね」

「あー……何となく理解しました」


 それってオタクくんがめちゃくちゃ好きな設定じゃないか……クールで最強だなんて、誰しもが憧れるキャラじゃないか。なんて最高なキャラクターなんだ……俺がやるという点を除けばな!


「まぁ、詳しい設定はまた渡すから読んでてね。それと……魔法学校の生徒だから、レイちゃんも所属する『オーウェン組』の一員にもなるね」

「いやぁ……グループって色々あるんですねぇ」

「やっぱりみんな組み合わせって好きだから……」


 ……と、そこまでしおさわさんが言ったところで、会議室の扉が開かれた。俺としおさわさんは同時に扉に目を向ける……そこに現れたのは。


「よーっす! 遊びに来たぞ、よーじろー!」


 明るい金髪の、大きなリボンを頭頂部に付けた少女が、笑顔で立っていたんだ。


 一体誰だ、この少女は……と俺が困惑していると、しおさわさんは彼女に手を向けて。俺に紹介してくれた。


「おお、丁度いいところに来たね。この子がゆうなぎリリィの中の人だよ」

「えっ、よーじろー!? そんな大事なこと、知らない人にしやべっていいのか!?」


 少女は俺のことを指差して言う……そしたらしおさわさんは優しく諭すように。


「大丈夫だよ、この人がるいくんだからね」

「るい……?」


 それを聞いた少女はもう一度、じっくりと俺の方を見る……そして何かを思い出したのか「ああー!」と大きな声を上げるのだった。そして彼女は続けて。


「そうだったのかっ! あたし、レイとやってた配信見てたぞ! すっごい面白かった! 腹が引きちぎれてもう爆発するくらい笑ったぞ!」

「そ、それはどうも……」


 なんだかこの子は独特の感性を持ってるな……爆発するくらい笑うって言う?


「それでリリィちゃんはどうして来たの? 今日は特に打ち合わせも何も無かったはずだけど……」

「ああ、それはな! 今日は何でも物をぶっ壊せる店に行ってきたんだ! それで、この近くに事務所あったのを思い出して、遊びに来たんだよ!」


 ええ、よく遊びに来れるな……だってまだ一回も配信やっていない、俺と同じ新人さんなんでしょ? どんだけ度胸あんのよ……そんな困惑してる俺をよそに、しおさわさんは彼女を褒めて。


「おお、もう体験レポのネタをめてるんだね。感心だよ」

「レポ? いや、ただ遊びに行っただけだぞ?」

「一人で?」

「ああ! だって複数人で行ったら、壊せる物が減るだろ!」

「……」「……」


 ……これは相当ぶっ飛んでるな。さっきしおさわさんが言っていた「期待してて」の意味が、少しだけ分かった気がするよ。


「……うん。それじゃあ、せっかく新人の二人がそろったみたいだし。ここで初配信の話でもしておこうか」

しおさわさん、初配信って……どんなことすればいいんですか?」


 俺はしおさわさんに尋ねた。おそらく配信の内容は自分で考えるべきなんだろうけど……あいにく俺は、VTuberについての知識を全く持ち合わせていないのだ。だからそれぐらい聞いても、多少は許してくれるだろう……そしたらしおさわさんはのほほーんと。


「まぁ自己紹介だねー。初期の頃はみんな簡単な数分の動画でやってたけど、今は気合入れて一時間くらい配信してる人が多いかな。君達にも配信をやってもらうつもりでいるよー」

「一時間って、そんなにですか……?」


 ゲーム配信とかならまだしも、しやべりだけで一時間も持つとは思えないんだけど……大丈夫だろうか……?


「まぁ思いつかなかったらあらかじめ質問とか用意してもいいし、気楽にやって大丈夫だよ。でも初配信でこれから追いかけるか決める人もいるから……気合を入れるに越したことはないと思うけどね?」

「そうですか……分かりました」


 俺が言うと、リリィは割り込むように手を上げて。


「あ、はいはい! あたし初配信で歌ってみたい!」

「おお、それは面白いね。動画でも流すの?」

「いや、もちろん生で歌うぞ! じゃないとみんなの心をつかめないもん!」


 何だそのロックンロールは……でもこれくらいこだわりがあった方が、視聴者も喜ぶんだろうか……? いや、全然分かんないけど。


「それは構わないけど、音源とかも用意する必要があるよ? 間に合う?」

「……じゃあアカペラでいくぞ!」


 たくましいなこいつ。そのポジティブさ、少しくらい俺に分けてほしいよ。


「あははっ。それで……るいくんにも『つぶやいたー』と『YooTube』のアカウントを渡しておくよ。基本的に運用は君達に任せてるけど、発言には気を付けてね。まぁ、詳しいことは資料を確認すれば分かるはずだよ」

「あ、はい、分かりました」


 そこで俺は置かれた資料にを通していった……そんな中。


「なぁなぁ、初配信ってどっちからやるんだ? 同じ日にやるんだろ?」

「それは二人で決めてもらっていいよ。今日の夜にスカサン公式つぶやいたーで、新ライバーの情報と配信日を告知するつもりだから……じゃ、今決めようか?」

「だったらあたし先にやりたいぞ!」


 またリリィは手を挙げてそう言う……そしてしおさわさんの目は、俺に向けられるのだった。ああ、これは俺に委ねられてるってことだろうか……?


「いや、別にいいけど……どうして先にやりたいんだ? 緊張しないの?」

「全然しない! あたしが先にやりたい理由はただひとつ! ルイの配信をゆっくり見たいからなっ!」

「あ、そうっすか……」


 そんな理由かい……まぁでも。ぶっ飛んだゆうなぎリリィが先に配信をやってくれれば、視聴者も盛り上がって。良い雰囲気で、俺の配信にも流れて来てくれるかもしれない。だから……先にやらせるのは大いにアリだと思うんだ。


「じゃあるいくんがその後ってことでいいかな?」

「はい、大丈夫です」

「んふふー、ルイー。楽しみだなー?」


 ……それから俺は規約など、しおさわさんから色々と詳しい説明を受けて(おそらく前日に説明を受けてたであろうリリィも、なぜか真剣に聞いてた)配信の方法やマネージャーのことなど、VTuberやる上で最低限のことを教えてもらったのだった。



 そして次の日。俺は配信に必要な機材を購入しようと、近所の家電量販店にやって来ていた。


「久しぶりに来たけどすごい変わったねー。ゲーミングコーナーとか出来てるよ!」