幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった

【一章】幼馴染がVTuberになっていた ⑧

 覚悟を決めた俺は、めちゃくちゃ大きなビルの中に入っていった。情報によると、このビルの中に事務所が入っているらしい……俺は丁度来ていたエレベーターに乗って、その事務所が入っている階まで上がっていった。

 ……エレベーターを出ると、目の前にはひとつの白い扉。そして隣に置かれている小さなソファーには、社員証みたいなものを首にかけている、Tシャツ姿の男性が座っていた。見たところ結構若く、そしてどこか天才的なオーラを放っていた……もしかしてこの人が……?


「……おっ、こんにちはー」


 男性は俺に気づいたようで、スマホから視線を上げ、挨拶をしてくる。俺はたどたどしく、挨拶を返した。


「こ、こんにちは。あの、俺……」

「話は聞いてるよ。君がるいくんでしょ?」

「あっ……そうです」


 どうやら俺のことを知ってくれているらしい。そして俺の正体を知った男性は、にこやかにほほんでくれて。


「ふふ、あのレイちゃんとの回は最高だったね。俺、久しぶりに腹抱えて笑ったよ」

「ありがとうございます……見ていただけたんですね……!」

「うん、もちろん。アーカイブで全部見たよー。感想とかたくさん言いたいけど、ここで話すのも何だし……場所を変えようか。ついて来て?」

「は、はい!」


 言って男性は立ち上がり、カードキーっぽい物でその扉を開けて、俺を中へと入れてくれたんだ。


 そして彼の後ろをついて行き、俺は小さな会議室のような場所に案内された。


「そこ、座ってていいよー」

「あ、はい!」


 促されて俺はオフィスチェアに座る。そして男性は対面側に座り、丁寧に自己紹介をしてくれたのだった。


「じゃ、改めて……俺はしおさわようろう。一応このVTuber会社の代表って立場にいるんだ。ま、社長みたいなものだと思ってくれていいよ」

「しゃ、社長……!? そんなトップの方だったんですか……!?」


 俺はのけぞって驚く。あやからは『偉い人』としか伝えられてなかったため、ここまでトップの人が対応してくれるなんて、全く想像していなかったんだ……そしてしおさわさんは笑顔で首を振って。


「ああ、いやいや。そんな全然かしこまったりしなくていいから。俺の顔でコラ画像作って、動画のサムネに使ったりするライバーもいるぐらいだからさ」

「そっ、そんな無礼な……」


 いくらVTuber会社のトップとはいえ、そんなことを許すのは心が広すぎるというか……ってかそれ、ライバー側の頭のネジが飛んでない? それくらいするのが普通なの? もう俺の常識が通用しない場所に来てしまったというの?


「あはは。それで、こっち側がスカウトしたぐらいだからさ。もうるいくんの合格は決まっているんだけど……どうして急に心変わりしたんだい? 君がVTuberになる気は全然ないだろうって、レイちゃんの方から聞いてたんだ」

「あ、えっと、それは……ぶきさんと話したからですかね……?」


 俺がぶきさんの名前を出すと、しおさわさんは「おお」と興味深そうにうなずいて。


「なるほど。やまぶきちゃんと話したんだね。どう? 彼女、氷の国のお姫様みたいだったでしょ?」

「ええ。すごく……そんな感じでした」


 俺が心を込めて言うと、しおさわさんは笑ってくれて。


「ははっ! だよねー。それでぶきちゃんからなんて言われたの?」

「イヤイヤやるなら入らないでくれって、はっきり言われました」

「あはははっ! 流石さすがぶきちゃんだ!」


 しおさわさんは手をたたいて、更に笑いを見せた。きっとその光景が容易に想像できたのだろう。


「……でも、彼女はレイが俺のことを放送で自慢してることを教えてくれたんです。そして、そこまでしてレイが俺をVTuberに誘う意味を考えてみろって言ってくれたんですよ」

「ほー、なるほどねぇー。それでレイちゃんの反応は?」

るいには才能があるから、一緒にやってみないかって言ってくれたんです。それからは……まぁく乗せられたって感じですかね?」


 俺は笑いながら答える。自分で言うのが恥ずかしかったからだ。


「なるほど……いやーすごいね。一度決めたことなんて、簡単には変えられないからさ。それが出来た君は、確かに才能があるかもしれないよ」

「いやいやそんな……! 俺が根負けしたからですよ」

「ははっ。まぁやってみればきっと、レイちゃんの言いたかったことも伝わるんじゃないかな?」

「まぁ……そうかもしれませんね」


 そしてしおさわさんは笑顔でうなずいて、いくつか紙の資料を机に置いた。


「よし。それじゃ、早速本題に入っていくけど……るいくん。実は君の初配信の日はもう決まっているんだ」

「えっ、それはいつですか……?」


 そしたらしおさわさんは俺に三本の指を見せてきた。ああ、三週間後か……いや、三ヶ月後って可能性もあるのか…………。


「三日後だよ」

「みっ…………!? えっ、三日後って早すぎないですか!?」

「いやーそれは俺も本当にそう思うよ。ごめんねぇ」


 俺の言葉に、しおさわさんは手を合わせて謝ってくる。いや、そんな謝られても困るんすけど……三日後ってどうにかならないのか……?


「なっ、なんでそんなに早いんですか?」

「いやあのねー。実は今週にデビューする子がいたんだけど、その子の準備中にるいくんを見つけちゃってさ。せっかくなら同時にデビューさせようってなって、急いでるいくんのモデルを作ってもらったんだ。それで、もう一人の方はデビューを待ってもらってる状況なんだよ」

「そ、そうだったんですか……」


 デビューするはずだった人を待たせているのなら、俺が駄々こねるわけにはいかないか……それなら甘んじて受け入れるしかないけど。でも三日後ってバイト入ってたっけ……?


「そういやるいくんって学生?」

「いや、自分はフリーターです。カラオケでバイトしてます」


 今更だが、俺はカラオケ店でバイトをしている。別に楽なバイトではないのだが……辞めるタイミングを完全に見失っている状態なのだ。


「そうなんだ。まぁウチは配信のノルマとかは特に無いから、バイト続けたままでも構わないけど……結構専業の人も多かったりするんだよ?」

「ああ、そうなんですか……?」


 ……とは言ってもVTuberで食っていけるとは全く思っていないし。今すぐにバイトは辞められないんだよなぁ。


「まぁまぁ、強制とかはしないから安心して。それで……今のとこまでで何か質問とかあったりする?」

「ああ、じゃあえっと……俺と同時期にデビューする人って、どんな人なんですか?」


 とりあえず俺は同期とやらについて聞いてみることにした。そしたらしおさわさんは「おっ」と一言発して。


「やっぱりそこ気になるよね? 後で紹介しようと思ってたんだけど……待ってて」


 そしてカバンからノートパソコンを取り出し、設計資料のような物を俺に見せてくれた。そこには……金髪ロングでれいな青目をした少女のイラストがあって、次のページには表情や衣装の差分なんかも描かれていた。


「この子、ゆうなぎリリィって子ね。ギターの演奏が得意なハーフの女の子で、設定としては結構ありきたりな感じだけど……選んだ子がとっても面白かったから、期待してて」

「は、はぁ……」


 期待しててと言われても……女の子かい。せめて同性だったら、色々相談し合えると思ったんだけどなぁ……。


「そうそう、同時期にデビューした人達でグループとか組むことになるから、リリィちゃんとも仲良くしてあげてね?」

「あ、はい。それはもちろんです」