幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった

【一章】幼馴染がVTuberになっていた ⑦

『配信見れば分かることだし、隠す必要もないでしょう……まぁ、ですから。レイがそこまでしてるいさんを誘う意味というものも、少しだけ考えてみてもいいかもしれませんね』

「意味…………ですか」

『はい。私からは以上です。それでは動画の編集があるので、この辺りで失礼させていただきますね』

「……」


 ぶきさんはそうとだけ言って、ブツッと電話を切るのだった。


 そして電話が切れてから、お互い無言の気まずい時間が流れていた。いや、なんであやは配信で俺のことをしやべっているんだ? 別に怒っているわけじゃないけど……その理由が分からなくて、ただ俺は困惑していた。


「……なぁあやぶきさんが言ってたことって本当なのか?」

「……」


 あやは何も答えず、俺から視線をらした……ああ、小さい頃からそうだ。あやは言いたくないことがあったら、どれだけ待っても答えてくれないんだよな。


「教えてくれないなら調べるぞ。お前のだって、切り抜きが上がってないわけじゃないだろ……」

「……っ、ああ、もう! 分かったってば!」


 俺が言うと、食い気味にあやは口を開いた。きっとそのことについて話すのは嫌なんだろうけど、目の前で動画を見られる方がもっと嫌だと思ったんだろう。

 そしてあやは顔を赤らめながら……小さな声で話し始めた。


「わ、私は……時々、配信でるいのこと話してるよ」

「……それはどうしてだよ?」

「だって……るいとの思い出はとっても面白いものばかりだし……るいは私の自慢の、尊敬できるおさなじみだからっ……!」

「……」


 ……前者は百歩譲るとしてだよ。俺が自慢のおさなじみって……冗談だろ?


「……うん。その目だよ……るい。いっつもるいは卑下するんだ。『俺なんかよりすごい人はたくさんいる』って。『俺は優しい人なんかじゃない』って……そんなこと、そんなこと全然ないのにっ!」

「……!」


 俺は目を見開いた。そのあやの言葉がうれしかったのと同時に……心のどこかが苦しくなっていたからだ。


るいはとってもすごい才能を持ってる。それをみんなに知ってもらいたくて、私はるいとゲーム配信したんだよ?」

あや……」


 あやのただの自己満で放送に誘っていたと思いこんでいた俺は、途端に恥ずかしくなってしまった……でもそんな俺を見てか、あやは徐々に笑顔を取り戻して。


「……そしたら、配信は想像以上に成功してさ! 事務所から声が掛かったのは、流石さすがに私も予想外だったけど! 逆にこれは運命なんじゃないかって、私思ったんだよ!」

「運命?」

「うん、運命! るいがこの世界に入ってくれたら、きっと色んなことが経験できて……毎日新鮮なことだらけで、とっても楽しいと思うんだよっ!」


 ……新鮮なこと、かぁ。そういや毎日のようにあやと遊んでいた頃は、ずっと楽しかったよなぁ。

 あいつが新しい公園を見つけたのなら、俺が先に大きな秘密基地を作って。あいつが新しいゲームを買ってもらったのなら、俺も同じのを買ってそれを極めて。しょーもないことだけど、あやを驚かせたいという信念だけで行動していた俺は、今よりも明確に充実していたはずだ。

 ……それからあやと遊ばなくなってからは、家と学校を往復するだけの生活。それが今は学校がバイト先に変わっただけ……この生活が楽しいとは言いにくい。

 …………俺は。退屈な日常から、違う世界に踏み出してもいいのだろうか……?


「もちろん、分からないことだらけで不安もあるかもしれないけれど……るいには私が付いているでしょ?」

「えっ……?」

「この超人気VTuberの私がさっ!」


 そしてあやはわざとらしく、女児アニメに出てくる決めポーズを取った。そのポーズが……幼い頃のあやの影と、ピッタリ重なったように見えたんだ。


「……ははっ。あははっ! ……ああ、そうだな。俺にはお前がいる。これは俺の持っている、一番の才能かもしれないな」

「えっ、えへっ!? いやぁ……それは大げさなんじゃないかな……?」

「いいや、大げさなんかじゃない。これなら俺は胸を張って言えるよ」


 そしたら……さっきより何倍も顔を赤らめてしまったあやは俺に背を向けて、置いてたクッションに顔を埋めるのだった。


「……~っっ! ああーもう! るいってホントズルいなぁ……!」

「何がだ?」


 言うと、置いてあったもうひとつのクッションで顔面をたたかれた。


「いてっ」

「……まぁいいよ! これでるいがVTuberになるのに、納得してくれたってことでいいんだよね!」

「うーん……まぁ、そういうことになるのか?」

「ふふっ。よーし、言ったね! それじゃあマネージャーさんに伝えとくから!」

「ま、マネージャー……? え、お前そんな人まで付いているのか!?」

「そうだよ! 聞きたいことがあったら、大体はマネージャーさんに連絡するんだ!」


 VTuberにマネージャーなんて付いているのか……もうそれ、マジのタレントと変わらないんじゃないのか……?


「芸能人みたいだな……」

「ふっふっふー。るいももうちょっとで、その芸能人の仲間になるんだよー?」

「……なんかもう緊張してきた」

「大丈夫だよ! こんな私でも、何とかやれてるんだから!」


 そう言ってあやは俺の背中をたたいた。この瞬間、俺はあやのことを心強いと本気で思ってしまったんだ。


「そうだな……分かった。少しくらいあやの言葉を信じてみるよ」

「うんうん、それでいいのっ! るいはもう少し楽観的に生きてみるべきだよ!」

「ああ、だな」


 俺の言葉にあやは笑みを浮かべる。数分前の表情とは段違いだ。


「よーし! じゃあ時間もあるし、今日もコラボ配信しよっか?」

「それはしない」

「えーなんでさー!」

「もう少しと話したいからな」

「……も、もぉーっ! いつからるいはそんなカッコつける人になったのっ!?」

「え、別にそんなつもりないんだが……」


 そんなに変な言い方だったか? VTuberとしてじゃなく、普通にしやべりたいってニュアンスだったんだけど……まぁ何かあやうれしそうだしいっか。

 …………それから俺はあやからVTuberの話を色々と聞かせてもらって。そして帰る時にあやの母が作ってくれたポテトサラダを頂いて、あやの家を後にするのだった。



 そしてVTuberになることを決意した俺は、あやを通じて事務所とやり取りをし……数ヶ月後、俺はそこの偉い人と会うことになった。

 あやは「全然怖くない人だから大丈夫だよ! そんなに心配なら私がついて行こうか?」と軽い感じで言ってたから、そんなに恐れる必要もないだろう……ちなみにそのあやの提案は断っておいた。おさなじみ同伴で行くのは、流石さすがに恥ずかしいからな。

 ──で、そんなこんなで迎えた当日。俺はスカイサンライバー事務所の前にたどり着いていた。ここはネットとかにも知られていない場所らしく、あやからも「事務所の場所とかしやべっちゃダメだよ!」と念を押されていた……まぁ、俺がそんなことするわけないけどな。


「よし……行くぞ」