幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった

【一章】幼馴染がVTuberになっていた ⑥

「あっ! るいも笑った!」

「いや笑ってねぇって……」

「いやいや、そんな強がらなくていいって! ここには私しかいないんだからさ!」


 何気なく言ったあやの言葉に、俺はハッとしてしまう。そうだよな。あやの前でさえ、感情を隠そうとするなんて……俺らしくないよな。


「……ああ。だな」

「ふふっ、それでいいの。るいるいのまんまでさ!」

「……ははっ」

「あははっ!」


 ……そして俺らは他の動画にも飛んで、ぶきの切り抜きを見ていった。あやの母親が晩ごはんが出来たことを俺らに知らせるまで、その時間は続いたのだった。


 そして夕食を終えた俺らは、またあやの部屋に戻っていた。俺は料理の感想を口にしつつ、さっきの丸椅子にまた腰を下ろす。


「やっぱりあやのお母さんって料理上手だよな。すげぇかった。まぁ……相変わらず強烈なキャラしてたけど」

「あははー……ごめんね。ママ、るいのことも自分の子みたいに思ってるからさ」


 ちょっとだけ申し訳なさそうに、あやは笑って言う。食べてる最中、今は何をしているのかとか、どうしてずっと遊びに来なかったのかなど、俺はずっと質問攻めにあっていたのだ。まぁ昔は本当に毎日遊びに来てたから、そう思うのも仕方ないことなんだろうけど……。

 ちなみに質問に関しては、しておいた。全部正直に言うと、余計に心配されそうだったからな。


「ま、それは全然いいんだけど……どうして引き止めたんだ? 俺完全に帰るつもりだったんだけど」


 ……それで、なんでまた部屋に戻ってきたのかというと、あやから「まだ帰っちゃダメ」と引き止められたからで。多分俺が「VTuberになる」と言うまで帰さないつもりなんだろうけど……。


「いやー、まだVTuberになるって返事を聞いてないなって思ってね?」

「だから……なる気はないって散々言ってるだろ?」


 俺はVTuberになるつもりもないし。そもそもなれるわけがないと何度も言っているのに、あやはそれを分かってくれないらしい。全くどうしたもんかと、俺が頭を悩ませていると……あやは次なる作戦に移ったようで。


「……ふーん。それだったら私にも考えがあるよ……!」


 そう言ってあやはおもむろにスマホを取り出した。そして画面をポチポチといじった後、それを耳に押し当てて……。


「えっ、お前何を……?」

「…………あ、もしもし、いぶっきー? 今大丈夫?」


 ……まっ、まさかこいつ……さっき見た動画のVTuber、やまぶきに電話を掛けてるというのか……!?


「あっ、良かったぁ! それじゃあちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

『はい。レイがそんなこと言うなんて珍しいですね。何ですか?』


 途中であやはスピーカーに切り替えたらしく、彼女の声がここまで届いてきた。その声はさっき動画で聞いたそれと、全く同じものだったんだ。


「うん! あのね、近いうちにスカサンから新ライバーが登場するらしいんだけど、それが私のおさなじみなんだよ!」

『へぇ、そうなんですか。それは面白いですね……でもなんでそれ、レイが知ってるんですか?』

おさなじみが私の配信に出て、それを見た運営さんがスカウトしたんだよ! それで……」

『あの、今更ですけど、私が聞いても大丈夫なやつですか? それって、まだ世に出てない情報ですよね?』

「…………あー」


 あやは『やっちまったなぁ』みたいな顔をして、俺の方を向く……それ普通に言っちゃ駄目なやつじゃねぇか……いや、別に俺はVTuberになるつもりなどじんもないんだけどな……?


『……まぁ。私は誰にも言うつもりありませんから、大丈夫ですけど』

「そ、そう? だったら通話が終わったら、全部忘れたことにして!」

『分かりました』


 いや続けんのかよ、コイツ……そしてあやはまた口を開いて。


「でね、スカウトされたんだけど、そのおさなじみがVTuberにならないーってずっと言ってて! だからどうにかぶきちゃんに説得してほしいなって思ってさ!」

『……なるほど』

「あ、今私の隣にいるからさ、変わるね!」

「えっ、お前……!?」


 そしてあやは半ば無理やり、俺にスマホを渡してきた。俺は今すぐそれをぶん投げたい衝動に駆られたが……流石さすがにそれは踏みとどまった。しかし、このまま黙っているのも相手に悪い……そうやって色々と考えた結果、俺は大人しく電話を取って、応答することにしたんだ。


「……も、もしもし。えっと……レイがお世話になってるようで……」

『こちらこそです。お名前は?』

「あ、みやさかるいって言います……」

『そうですか、るいさんですね』


 電話の相手、やまぶきは音声ガイダンスのように淡々と話すのだった。いや、切り抜きで見た時よりもクールなんですけど……!

 それで……しばらく俺が何も言えないままでいると、向こうから話しかけてくれて。


『……まぁ。レイからああ言われましたが、私は無理にVTuberなんてならなくていいと思っています。いまだ偏見の目で見られることも少なくないですし。絵をかぶってるからって、馬鹿にしてくる人もまだまだ存在してますからね』

「そ、そうですよね……!」

『ええ。それにこのグループに入りたくても入れない人だって、数多くいるんです。そんな中イヤイヤやるような人が加入したら……みんなの士気が下がります』

「……!」


 その言葉に俺はハッとした。それはそうだ……そのスカイサンライバーに入りたくても入れない人だって、絶対にいるはずだ。俺はそのことを全く考えられていなかったんだ。


『言葉が強くなってすみません。ですがそうなるのが見えてしまったので、言わせていただきました……るいさん。レイの説得は私がしますので、安心してください』

「あ、はい……すみません……」


 電話越しなのに、俺は頭を下げてしまった。なまはんな気持ちで彼女はVTuberをやっていないってことを、強く感じたからだ。

 ……そして、数十秒の静寂の後。またぶきさんは言葉を発して。


『……それで。これは個人的な質問なんですけど、どうしてるいさんはVTuberになりたくないんですか?』

「えっ? そ、それは…………自信がないから……かな」


 考えればいくらでも向いていない理由は出てくるが、一番大きな要因はそれだろう。俺が人を楽しませるなんてところが……どう頑張っても想像出来なかったんだ。

 そしたらぶきさんはポツリと。


『…………るいさんはレイの配信、見たことないんですか?』

「えっ?」

『レイは雑談配信で、よく貴方あなたのことをお話してるんです。エピソードトークでは、大体貴方あなたのことが出てきます』

「え、ちょ、ちょっと! ぶきちゃん!?」


 俺の隣であやあせったような声を上げるが、ぶきさんはガン無視で続けて。


『身バレを避けるため色々とうその情報も入れてるでしょうが……多分全部るいさんのことです。レイはそのお友達のことを「頭がいい」「ゲームがい」「困った時すぐに助けてくれる」など、べったべたに褒め倒しています』

ぶきちゃん!?」