幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった

【一章】幼馴染がVTuberになっていた ⑤

すごいこと?」

『うん! るいさ、前に私の配信出てくれたでしょ?』

「ああ……」


 もうその記憶はかなり脳の端っこの方に追いやられていたのだが……何か問題でも起こったのだろうか?


「もしかして、炎上でもした?」

『いやいや違うよ! あの配信を見た運営さんが、るいのこととっても面白いって言ってくれてさ! ウチの事務所に入ってほしいって言ってて……! それで、私からお願いしてくれないかって言ってきたんだよ!』

「…………はい?」


 あやの言葉だけの説明じゃ、よく意味が分からないんだが……要するに。


『つまり、るいは企業のVTuberにスカウトされたってことなんだよ! こんなこと滅多にないから、とってもすごいことなんだよ!!』


 …………えーと? 俺が……VTuberに? ……冗談も休み休み言ってくれ。


「断る。俺はそんなのならないぞ」


 そしたらまた、あやの大声が耳元に飛び込んできて。


『え──っ!? なんでさ! 一緒にやろうよVTuber! 楽しいよー!』

「いや、楽しいって……俺は人を喜ばせるようなことは出来ないし。そもそもVTuberのことなんてよく知らないんだ。そんな俺がなれるわけないだろ?」

『なれるよ! 私だってなれたんだからさ!』

「それはお前が面白いし、話もいからだろ……」

『私は、私よりもるいの方が面白いと思っているし! それにゲームだってるいの方が上手じゃん!』

「まぁ、ゲームはな……?」


 逆に言えば、それぐらいでしかあやまさるところが無いんだけどな……そもそも俺よりゲームいやつなんて、そこら中にいるってのに。


『とにかく! 今から私の家に来てよ! バイトが終わったなら来れるでしょ?』

「なんでだよ。どうせまた配信とかするんだろ?」

『いや、しないから安心して! それに……ほら! ウチで晩ごはん食べてったらいいじゃん! 昔、家によく来てたでしょ?』

「昔過ぎだろ……それ、俺らが小学生ぐらいの時の話じゃないか?」


 今更だがあやは実家暮らしなのに対し、俺は一人暮らしだ。だからおさなじみとはいえ、もうお互いの家はそこそこ遠いんだけど……。


『いーじゃんっ! ママにるいが来ること伝えとくから、絶対に来てよねっ!』

「あっ」


 一方的にそう言われて、通話は切れてしまった。はぁ……全く。どこまでも勝手なやつだよ、あやは。

 ……ま、でも実際、今月はかなり金銭的にピンチなんだよな。だからあやの家に行って、夕飯代が浮くのなら……あわよくばおかずとかもらって、何日間かそれでしのげるというのなら……。


「はぁ……背に腹は代えられない、か」


 そうやって決めた俺は自転車に乗り、バイト先からあやの家に向かったのであった。


 ──あやの家に到着した俺は自転車から降り、インターホンを鳴らす。そしたら鍵の開く音がして、扉から出てきたのは……。


「えっへへー。やっぱり来てくれたね、るい!」


 ニヤニヤと笑みを浮かべているあやだった。


「はいはい、来てやったぞ」


 俺はわざと素っ気ない態度を取ってみるが……どうせこいつにはバレてんだろうなぁ。


「ふふ、本当に嫌なら来ないでしょ?」

「うるせー」

「あははっ! それじゃあ、上がって?」

「ああ」


 そして家に上がった俺は、あやに案内されて階段を上り……また『レイ』のポスターが貼られている、あやの部屋へと入った。

 あやは部屋の扉を閉め、また丸椅子に座るよう俺に促した……別に断る理由もないので、俺はそこに座った。


「それで……なんで俺を呼び出したんだ? 説得しようとしても無駄だぞ?」

「まぁーまぁーいいから。一回『スカイサンライバー』の所属ライバーでも見てみない? 個性的な子ばかりで面白いんだよー?」

「見てみないって言われても……確かそこ、百人近くいるんだろ? 全員見る時間なんてないだろ」

「おお、よく知ってるね! だからるいが気になった子選んでよ! その子の面白い切り抜きとか見せてあげるから!」


 そう言ってあやはゲーミングチェアに座って『スカイサンライバー』のホームページを開き、所属タレント一覧の画面を見せてきた。俺はマウスを受け取り、そのページを眺めていった……。


「いや、気になった子って言われてもなぁ……お、本当におじさんのキャラクターとかもいるんだな」

「そうだよ! おじさんも意外と人気なんだ!」

「ふーん、そんなことあるのか」


 イメージ的に美少女達がキャッキャウフフしてるのが、VTuberだと思っていたんだが……意外とそんなことはないらしい。やっぱり世界って広いなぁ。


「それで……るいはどの子が気になるの? できれば女の子だと助かるなー」

「なんでだよ」

「だって私と関わりが多いのって、女の子のライバーだもん! 女の子なら大体はしやべったことあるからさー」

「あ、そうですか……」


 いや、つってもな……あやの前で選びにくいんだよな。ここにいるのみんな美少女だし……性癖みたいなのあやに知られたら、めちゃくちゃ嫌だもん。まぁだからと言って……ここで『レイ』を選ぶような勇気は、俺は持ち合わせていないんだけどな。


「…………」


 一瞬、俺はスクロールの手を止めてしまった。カラフルな髪色の並ぶライバー紹介ページで、黒髪二つ結びの制服少女は、逆に浮いてるように見えたんだ。


「お、その子が気になるの?」

「まだ何も言ってないだろ……?」


 しかし……こういった時のあやは鋭いもので。すぐに俺のうそを見抜くのだった。


「いーやるい、絶対この子好きだよね? るいはこういうシンプルな子をわいいって思っちゃうもんね?」

「お前は俺の何を知ってんだ……?」


 ……実際それは事実なので、強く否定出来ないのが歯がゆいのだが。そしてあやはテンションを上げて、その子の説明をしてくれるのだった。


「ふふ、この子はね『やまぶき』ちゃんって言ってね、クールでとっても賢い子なんだよ!」

「ふーん。制服着てるけど、高校生なの?」

「うん、高校生って設定!」

「設定ね……」


 冷静に考えりゃ、そりゃそうか。マジの高校生なんて、中々採用出来ないだろうからな……。


「んーよし! それじゃ、いぶっきーの切り抜きでも見よっか! えーっと…………これとかどう?『トラックを横転させた後、ロケランを撃ち込んで爆笑するやまぶき』」

「いや、何をしてんのこの子は!?」

「あ、ごめんるい。これパート2だった」

「パート2!?」


 一瞬俺はあせったが、よくよくサムネを見ると、それはリアルなゲーム画面だった。いやまぁ、それはそうだよな……現実世界でそんなことやったら、お縄モンだもんな……。


「あ、パート1あったー。じゃあこれ見ようか!」

「ああ……」


 そして俺はあやの隣で、ぶきという少女の切り抜きを見ていった。

 ……動画の内容は、声質も想像通りの大人しそうな子が、やりたい放題出来るオープンワールドのゲームで、めちゃくちゃ犯罪行為を行うといったような切り抜きだった。まぁ、確かにこのギャップは、ちょっと面白いかもしれない……。


「あはははっ! いぶっきーやり過ぎだって!」


 その動画を見て、あやは腹を抱えて笑っていた……なるほど。VTuberってこんな風に見てる人達を笑顔にさせる、思った以上にすごい人達だったんだな。


「……ふっ」