俺は相手のアツヤが召喚アイテムを掲げている最中に、遠距離からブラスターを連射していった。すると相手のアツヤは一瞬だけ怯んだ後、またアイテムを掲げるモーションを行う。その間に次に放ったブラスターがまたヒットし、アツヤは怯んで動けなくなる。そしてまたアイテムを掲げて…………以後ループ。
「ンなあぁぁあああっっ!? ちょっ、類! ハメでしょこれ!!」
「レイがアイテム取らなきゃ、こんなことは起こらなかったのに」
「どっ、どうやって抜けるのっ!?」
「俺のBボタンが効かなくなるのでも、祈っとけばいいんじゃない?」
【草】
【草】
【草】
【草】
【これは草】
【wwwwwwww】
ま、このままブラスターを続ければ、タイムアップで俺の勝ちになるが……流石にそんなダルいことはしたくない。俺はそこそこダメージが溜まったところで、アツヤを開放してやった。
「あぁ、やっと抜けれた! やったぁ!」
なんか自分で抜けられたと勘違いしてるけど……まぁ黙っといてやろう。
「さて……反撃開始といくよ、召喚ッ!」
そして邪魔が入らなくなったアツヤは、やっと召喚が出来たみたいで。その召喚アイテムから出てきたキャラは……サイコパス料理人『ヤマザキ』だった。
「いっけぇえええヤマザキ!! 全て喰いつくせっ!」
「作る方だろ」
冷静なツッコミを繰り出しながら俺は、ヤマザキの投げてくる皿を避け続けた。
「あはははっ! この弾幕、近づけないでしょ!」
言いながら彩花はヤマザキと一緒に攻めてくるが……やっぱり詰めが甘いんだよなぁ。俺はルンバルが持っている必殺技『リフレクト』を繰り出した。
この技は相手の飛び道具を跳ね返す技……要するにヤマザキの投げまくる皿が、ダメージ倍率を上げて相手に反射することになるわけで……後はお分かりだろう。
「……えっ、んきゃぁぁぁああ──っ!!」
急に跳ね返された皿に対応できず、それは彩花のアツヤに命中した。そしてダメージが溜まっていたアツヤは、物凄い勢いで場外まで吹っ飛んでいくのだった……その後、画面中央には『ゲームセット』の文字が。
【流れが完璧過ぎる】
【草】
【これもう芸術だろ】
【笑いすぎて涙出たわ】
【wwwwwwwwww】
【神回過ぎる】
「……」
「……レイ?」
ガクガクと身体を震わせている彩花に、俺はおそるおそる声を掛ける……そしたら彩花は今日一番の大きな声で叫んで。
「……うぬああぁあ────っ!! ああ、もう今日の配信は終わりっ! スパチャ読みは今度! じゃあね、レイガール達!!」
【乙】
【おつレイー】
【おつれい】
【草】
【レイボーイ忘れんな】
【マジで神回だったなw】
【面白かった~~~!】
彩花は少し間を置いた後……配信終了のボタンをクリックしたのだった。
「おい……終わったのか?」
「……」
彩花は無言で頷く……あちゃー。流石にやり過ぎちゃったか? でも撮れ高作るためには、あれぐらいする必要あったよなぁ……と俺が脳内で反省会をしていると、彩花は俺の肩をガッシリと摑んできて。そして屈託のない笑顔で、こう言ったのだった。
「ホントに……最っっっ高だったよ、類!」
「…………えぇ?」
──そして配信が終わった後、俺らは各々スマホをイジっていた。俺は適当にソシャゲをやっていたのだが、どうやら彩花の方はエゴサをしていたみたいで……。
「ねぇ、類! 放送の反響が凄すぎてトレンド入りしてるんだけど! 次のコラボいつですかってコメントもめっちゃ来てる! こんなの初めてだよっ!!」
「ええ……?」
俺はスマホから顔を上げ、困惑の声を上げる。いや別に配信の感想とかはどうだっていいんだけど……俺なんかとコラボして、話題になって大丈夫なの? 普通に嫌じゃない?
「いやレイ……じゃなくて彩花。彩花はそれで嬉しいのか?」
「えっ? そりゃー嬉しいよ! だってこんなにもたくさんの人が見てくれたんだからさ! ……あ、なんかデータ取ってた人によると、今回の放送が初配信の次に人が多く集まったんだって!」
「ええ……?」
VTuberの初配信は注目されるから、同接が多くなるのは何となく知っているが……その次が俺とのコラボって。やっぱりそれ、ファンから怒られない?
「えーえーばっかり言わないでさ、類も感想見てよ! みんな面白かったーって言ってくれてるから!」
「はぁ、分かったよ……」
しぶしぶ俺は、彩花から配信に付けられていたハッシュタグを教えてもらい、『つぶやいたー』でそれを検索してみた。どれどれ……?
「『超神回だった』『ルイ君とまたコラボしてほしいわ』『めちゃくちゃ楽しかった!』『レイちゃんは知らん男とコラボしないでほしい』……だとよ」
「そっ、そういう人もたまにいるけれど……大体は好意的な感想ばかりでしょ?」
「まぁーな」
わざわざハッシュダグまで付けて、感想を書き込むくらい熱心なファンなんだから、優しい人が多数なんだろうけど……呟いてないだけで、俺とのコラボをよく思っていなかった人もきっといるだろう。俺はその先まで見えてるんだ……。
「……それでさ、類はどうだった? 配信、楽しかった?」
「楽しかったって…………まぁ、久しぶりに彩花と遊べたのは楽しかったよ。配信とかは関係なしにな」
「……ふふっ。そっかそっか、それなら良かったよ!」
俺の言葉を聞いた彩花は、昔から変わることのない無邪気な笑顔を見せてくれた。……俺はこの笑顔を見るために、彩花に色んなことを教えたりしていたんだよなぁ…………はっ、いかんいかん。何をノスタルジックに浸っているんだ、俺は。
「でさ、類! 次のコラボはいつにする? 明日とかはどうかな?」
「おいおい……さっき俺が言ったこと忘れたのか? 放送に出るのは今回だけ……それに明日からはバイトが入っているから無理だ」
彩花は今夏休みだろうが、バイト戦士である俺にはそんなものは無いんだ……それで俺の言葉を聞いた彩花は一瞬だけ悲しげな表情を見せたが、すぐに元に戻って。
「そっか……じゃあまた今度ね! 一緒に遊ぼ?」
「ああ、それは別に構わないけど……他に遊ぶ相手いないのか? 俺なんかより、他のVTuberとかと絡んだりすればいいのに……」
「……類の鈍感」
「え?」
「……ううん、何でもないよ。それじゃあーまたね、類?」
「ああ、また」
少し気になる発言はあったが、特にそれには触れずに……荷物を持って、俺は彩花の家を後にした。
彩花の配信に出演して、数日が経った。その間、俺は何事もなく過ごしていたのだが……。
「……ん?」
ある日のバイト終わり。俺のスマホには彩花からの着信と、ひとつのメッセージが届いていた。メッセージを開いてみると『大変なことが起きたから、早く折り返して!!』とだけ書かれていて。
『大変なこと』という彩花の大雑把な説明に、少し嫌な予感がしたが……まぁ、これを無視するわけにはいかないだろう。思った俺は彩花に電話を掛けた……そしたらすぐに応答してくれて。
『もしもし、類!?』
焦ったような彩花の声が聞こえてきたんだ。
「彩花、何かあったのか?」
『うん! あのね、すっごいことが起こったんだよ!』