第一部 『DAY 0 彼とスズキの通話』
第一章 『電話』
この物語は全てフィクションです。
現実の日本や法律や警察とは関係ありません。
第一部 『DAY 0 彼とスズキの通話』
第一章 『電話』
スズキ
「は、はろー?」
男
「…………」
スズキ
「はろー? じす、いず――」
男
「日本語で、いいですよ」
スズキ
「あっ――、ありがとうございます。いきなりのお電話、大変に失礼します。自分は――」
男
「この番号を知っているのは、日本人なら、ただ一人だけです」
スズキ
「…………。おっしゃりたいこと、重々分かります。自分は、もちろんその人ではありませんが、その人のことを、よく知っています」
男
「…………」
スズキ
「不躾ですが、お願いします。お時間をください。自分と電話で話すお時間を。突然おかけしたことはお詫び申し上げますし、今、不都合がありましたら、指定の時間に、こちらからおかけ直しいたします」
男
「今で、大丈夫です。誰が、私と話したいですか?」
スズキ
「は……? あ、はい、はい! 自分は、スズキと申します」
男
「スズキさん……。偽名ですか?」
スズキ
「本名なんです。そして、もうお分かりかと思いますが、自分は警視庁の警官です」
男
「なるほど。それ以上の詳しいことは、秘密ですか?」
スズキ
「聞かれれば、必ず答えます。詳しい自己紹介が必要でしょうか?」
男
「声を聞くに、若い方ですね? 私もまだ年配とは言いがたいが、私より若い」
スズキ
「はい。自分はまだ二十八歳。警官としては、ヒヨッコです」
男
「あなたが、私の質問に素直に答えてくれる人のようなので、知りたいことを単刀直入に訊ねます」
スズキ
「どうぞ」
男
「この番号を知っている唯一の日本人は、今、どうしていますか?」
スズキ
「ハッキリとお答えします。本当に残念ですが……、イモト警視は、もう、この世にはいらっしゃいません。殉職されました」
男
「…………」
スズキ
「もしもし?」
男
「そうですか……。分かりました。分かりました。ありがとうございます」
スズキ
「理由は、訊ねないんですか?」
男
「訊ねてもらいたいんですか?」
スズキ
「自分がしたいのは、お電話した理由は、イモト警部補――、ではなくイモト警視の殉職にも、大変に関係があるお話です」
男
「…………」
スズキ
「もしもし?」
男
「他に、この電話を聞いている人は?」
スズキ
「いません! 自分は非番ですし、私用の携帯電話で、官舎の自室からおかけしています」
男
「それを、信じていいんでしょうかね?」
スズキ
「信じてもらうしかありません!」
男
「…………。携帯で国際電話、高いですよ?」
スズキ
「そんなの、どうでもいいことですよ! ――ああ、すみません。すみません……」
男
「今、日本は、真夜中ですよね?」
スズキ
「そうですが、そちらは、おそらく日中ですよね? あなたが、アメリカのどこにお住まいか分からず、時差が正確に分からなくて、日本での真夜中にかけさせていただいたんですが、間違っていませんよね?」
男
「……分かりました。話くらいは聞きましょう。長くなってもいいように、電話をヘッドセットにするので、少々お待ちを」
スズキ
「ありがとうございます!」



