孤高の電波美少女と恋で繋がったらギガ重い

第一章 電波美少女の❝ガーディアン❞になれと言われまして ①

「私、世界を救わないといけないから」

「それは……悪いな、時間を取らせて。手短にするから、世界を救う片手間に聞いてくれ」


 もちろんばつゲームに決まっていた。

 そうでなければ、まさおみはこうしてもはや使われてもいない体育館裏のしようきやくまえになんかってはいないし、貴重な金曜日の放課後をカラスのきつな鳴き声と共に過ごしたりはしないし、ただでさえのさんぱくがんを一層しんげに細めては、組んだうでの上でせわしなく指をバタつかせたりはしないはずである。

 あと二週間もすればもう夏休み。高校生が最大限に自由をおうする季節なのだ。

 だからうつとうしいくらいの西日だって、昼までにはくずれてくるぐせなおしだって、十代のあぶらぎったあせをたっぷり吸ってほのかにこうばしいワイシャツのにおいだって、ともすればぼんやりして意識を失いそうなくらい退たいくつきわまりない日常のかえしだって、何とかまん出来るのに。


「ずっとまえからすきでしたおれとつきあってくださいおねがいします」


 こんな、一息でせるクソみたいな茶番は、とうてい許せそうもなかった。


「──ええ。まあ、いいわよ。そこまで言うなら」


 つばさをモチーフにしたかみめがよこなぐりの太陽にひらめいて、彼女の同意が現実のものとなる。

 まさか、の降水確率よりもてきちゆうのうこうなはずだった敗北が、より災難の純度を増したせいこうになってしまうなんて、まさおみその人よりもこの茶番を仕組んだけいの方が予想だにしなかったはずだ。

 ──うなずくのか、そこで。そこは基本断っとくとこだろ。

 まさおみの本心なんてだれおもんぱかっちゃくれないのである。内心の感情がめったに表情に出ない自分の『こうしよう』をのろうばかり。


「そこまで言うなら、私の──この、ふうてんせん序列第三位〝ノーブル・ラーク〟の〝ガーディアン〟になってもらうから。光栄に思ってね?」

「……よ、よろこんで。う、うれしいなあさいこうだなあがーでぃあん」


 男まさおみ、自らの告白をちゃぶ台返しする度胸はなく、時すでにおそし。いまさら、後には引けないのだった。

 そのむなもとをメスで真一文字に切り開けば、さぞかし頭をかかえた心臓が、やべーよどうしよこれマズイやつだよ、と血の気の引いた顔面真っ青でブルブルドクドクしているのだろう。その青さは血液の流れに乗って、いよいよ本体の顔色にでんせんしつつある。

 ──おかしい。こんなの全然、『つう』じゃない。

 ばつゲームに決まっていて、カラスの鳴き声はきわめてそうぞうしくて、さんぱくがんにはらすようなしよもなくて、暑くてまえがみじやあせくさい、そんな高校二年の夏。

 学年一のじん貴家雲雀さすがひばりがゆんゆんした何かを発信し続けていた夏。

 くすのまさおみに、人生初の彼女が出来たのは、そんな電波的な夏のことだった。





 おりけいといえばこうである。

 こうそくはんちやぱつに夏にはきわめてうつとうしいロン毛に真っ赤なピアスにけいこうしよくインナーカラーと、その容姿の何をもってこうなのかはまさおみにもよくわかっていないが、かすかあたりに言わせると、彼女を積極的に欲しがらないとか、こうばいのパンはいつもフランスパンしか食べないとか、焼きそばはかた焼きそばに限るとか、チョコよりせんべいだとか、最初はともかく、つまりかたいものが好きなだけじゃねえかという下らないオチである。

 そんなエセこうけいが、夏を前にしても意地でもくずさぬながそでワイシャツに包まれた長いうでをぬんっ、とりかざし、ニヤついたみでまさおみに声をけたのは昼休みとつにゆうちよくのこと。


まさおみ、おもしれーことを考えた」

「今いそがしいから後にしろよ」


 まさおみといえば折悪く目に反逆をくわだてたまつ毛の指名手配にやつになっていて、なみだかべてはおのれゆるさんと息巻いて、目ヤニばかりのしゆうかくを報告してくるおのが指のなさをなげいていたものである。

 良くも悪くも見た目で目立つけいと、良くも悪くもとくちようてきはばのないまさおみだが、入学して最初の席位置でとなりになり、その後のきよくせつの果て不思議と意気投合し、それなりにつるむようになった。入学から登校するようになった当初のまさおみは割ととくしゆじようきようにあって退たいくつを飼い慣らしており、けいも毛色はちがえどまた似たようなじようきようだったからだ。

 二年になって席ははなれてしまったが、こうして何かとからんできては、雑談などに興じる関係だ。一年のちゆうのいつのころからかかすかがくっついて、三人でバカやっていれば、声を大にすることはないまでも退たいくつなりに学校生活は楽しい、とまさおみは思っている。まずつうの男子高校生と言っていい。


にまつ毛なんか長いからそんな目にうんだ。今時はまつ毛もりくらいにしとけばいいんだよ。まさに視界が開けた感じになんだろ」

「余計ゴミ入るだろバカか──お、たい。なんだよコイツこんなにほんぽうに育って。そりゃ目にもさる。死角にしげる鼻毛と変わらん風格だ。けい見ろよコレ」


 けいこうなので、すくすく成長したまつ毛などぺしっと無情にはらいのけ、


こうばいにパンを買いに行ったアホが今からオレとオマエの飯を調達してくるわけだが、どうせフランスパンとプレーンのベーグルしか買ってこねえ。もうすぐ夏休みだってのに、ルーチン過ぎて退たいくつきわまりない」

「ま、アホだからな。日常をわざわざくずすこともないだろ。というか俺達がそれを指定してるんだからちがうの買ってきたらそれはそれで問題なわけだが」


 二人が指す『アホ』とは、言うまでもなくかすかのことである。かすかはアホなので、『仲間内で一番背が低いやつは昼休み開始と同時にこうばいで飯を買ってくる義務がある』というけいの意味不明なルールをみにして、こうして毎日チャイムと同時のこうばいダッシュを決め込む。最初は単なるじようだんだったのだが、あまりにもいいがおで毎日戦利品を見せびらかしてくるのでそのまま放置している。本人が満足なら二人が言うことは何もない。きっと前世は忠犬か何かだったのだろう。

 もう数分もすれば尻尾しつぽをパタパタとるかのようにごげんなかすかがもどってくるはずだ。


「だからオレがげきをやろうと思ってな。退たいくつしのぎに付き合えよ」

「はあ……ま、どうでもいいけど。で、どうすんの」


 これはいつもの適当な思い付きか、とまさおみは早々に話を聞くことをあきらめた。けいのこの茶番もまた日常なら、期末試験が終わって夏休みまでの間がみようもちなのもまた日常。適当にあいづちでも打つだけのマシーンと化せば、それでまさおみのお勤めご苦労さんというものだ。

 心をはなして、今日はゲーセンでも寄ってから帰るかなー、と、可も不可もなかった自分の試験結果のようにへいたんな現実をおもかべる。見事にうすっぺらくて退たいくつだとかんしつつ、これでいいのかと自問する。これでいいのだと自答する。いいはずなのだと。

 いつもこうだ。まさおみはどこかはくな日常の中にいる。何から何までうそみたいにあいまいになるときがある。退たいくつな日常を支える土台が、実はあと一ミリ力を加えるだけでひび割れてしまうかもしれない──かそんなしようそうられる、じゆんに満ちたしゆんかんが。

 こんなにも自分は何事もないつうを望んでいるのに、それをこわしたいという願望が、ここではない何かに吸い込まれるようなしようどうが、かまくびをもたげてまさおみを手招きするのだ。

 けいしゆは、そんな上の空の現実にちじようの中にするりとすべんできた。


「コクれよ」

「はあ……ま、どうでもいいけど、で、どうすんの」


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