孤高の電波美少女と恋で繋がったらギガ重い

第一章 電波美少女の❝ガーディアン❞になれと言われまして ②

「オレがターゲットを呼び出す。オマエがノコノコ出ていく。コクる。シンプルだ。く行けば夏休みいっぱいを彼女とキャッキャウフフ出来る。失敗してもオレが腹をかかえて笑うことが出来る。だれも不幸にならない、適度なげきのWIN-WIN方程式だ」

「はあ……ま、どうでもいいけど、で、どうすんの」

「ターゲットは三組の貴家さすがなんかいいだろう。オマエこの前たけからまれた時、アイツのことかばってただろ。悪くねえな? ハハッ、どんなぞうごんでオマエがボコボコにされるか──いや、成功すればあれだけの上玉だ。まん出来るぜ。ま、もうネマワシばっちり声はかけてある。あとは放課後体育館裏だ。古今東西、告白っちゃそういうモンだからな。ぜいがあっていいだろ」

「はあ……ま、どうでもいいけど…………はぁ?」


 ガタッ、と体勢をくずしてとんきような声を上げると、のんに弁当をつついていたクラスメイト達が何事かと視線をしてくる。いやあなんでもないなんでもない食事中すまなかったねハハハとばかりにごまかすのもそこそこに、ばくだんはつげんの主を切れ味するどにらける──が。


「まあそんなガチの真顔になんなよ。いつものことだが」


 こう(笑)が、こうしよう)とこうふくみわらい)とこう(ニヤけづら)をミキサーで混ぜたような表情をかべていた。コイツ絶対こうじゃないだろバカか、と脳内のかすかにビンタしてやった。どうでもいいが脳内かすかはいいがおをして鼻血をいた。わーい、じゃないんだよ少しはていこうしろ。

 別にまさおみは、告白ゲームそのものを否定しているわけではない。いや、それもたいがいだが、そんなものはきよすればいいだけだ。むしろ重要なのは話の後半、半分マナーモード状態になっていてさえのがせぬ名前を耳にしては、マナーなぞ気にしている場合ではない。


「お前よりにもよってそういう遊びでれちゃいけなそうな相手を……いや、そもそも相手の問題じゃないだろ。いくらが長かったからって脳にカビでも生えてんのか。何考えてんだよ」

「演歌歌手みたいな名前なのに『日本語が通じない日本人』だの『ゆんゆん女史』だの散々言われてんな。だが、美人だぞ? せいせきゆうしゆうだぞ? 実家金持ち(うわさ)だぞ? 量子レベルのトンネル効果で彼女にでもなった日にゃクラスカースト『ザ・ぼんよう』のオマエだって二階級特進ちがいなしじゃねえか。げきてきだな?」

「お前それ俺死んでるし。トンネル効果とやらがどんな効果的なものかは知らんが、要するに成功する確率なんてないに等しいって言ってんだろ」

「当然だろ。成功しちまったら、オレは美人の彼女持ちになってちようてんのオマエを見るんだぞ? 何が楽しいんだそれ。ごうもんかよ。ダウナーキマって夏休み乗り切れねえよ」


 とんだきようこうがいやがったものである。


「俺がそんなのに従うと思ってんならアホ以上のドアホだな。さっさと『呼び出しはちがいでしたごめんなさい』と頭下げて来いよドアホ」

「本家アホだってたまには確変くらい起こるだろ。じゃあこうしよう。今日に限ってアイツはプレーンベーグルを買ってこない。そうしたらくすのまさおみクンは告白実行だ。ホレけてみろ日常のガーデイアン

「バカげたことを……俺にメリットないし、けにならない」

「一理ある。じゃあ、アホがいつも通りなら、オレがコクろう。オレがたま輿こしに乗る」


 まさおみは冷静に計算した。こんなこうのナリで実は割と真面目でせいせきゆうしゆうけいには遠くおよばないが、数学はそこそこ得意だ。中学の時に円周角の定理をエン・シュウカクという中国人が考案した定理だと思い込んでいたくらい得意だ。

 かすかがこうばいでパンを買うようになって半年くらいになるが、そのうちフランスパンとプレーンベーグル以外の組み合わせを買ってきたことなんて数えるほどしかない。こうばいの臨時閉店で近所のコンビニに行かざるをえなかった時とか、こうばい新商品半額フェアでだん来ない弁当組がものめずらしさで流れ込んできた時とか、それくらいだ。

 今日はこうばいが開いてるのを知っているし、フェアもやっていない。

 なら、これは勝てる戦いだ。エン・シュウカクさんも言っている。『なんじ、勝てる戦いだけをするアルよ。負ける戦いをする必要なんて、ないアルよ』──アルのかないのかはっきりしろよと言いたいが、要するにそういうことだ。

 何より、こうでおなじみのけいがフラれてげきちんする面白現場を逆にもくげき出来る。成功? ありえない。ならすでに解説した通り三組の貴家雲雀さすがひばりに日本語は通じないといううわさだからだ。

 必勝の針はれている。そしてこの追い打ちだ。


「ホレたハレたでコクるの何だのって、いかにも『つう』の高校生の夏っぽいじゃねえか」


 そのちようはつまさおみの性格をかしたものであることは百も承知。だがその言葉が持つ強さにまさおみはどうしてもあらがえないのだった。

 つうの、という修飾がつくだけで、吸い寄せられるようにりよくを感じてしまう。


「……オーケー乗った。どうせこんなに退たいくつな日常は、そう簡単にらがない」


 そうとも。そう簡単にらいでもらっては困るのだ。

 でなければ、またまさおみはあのたんの入学直後にぎやくもどりしてしまうのだから。


「くっくっくっ、ま、そうだな。だが──」


 ガラッ、と教室のドアが開いて、かすかが両手のパンをぷらぷらさせながらとつにゆうしてくる。

 いつも能天気ながおとくちようのアホが、少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。

 MPも消費アイテムも全投資でひいこらとボスをげきした後の会話イベントで、『我の真の姿』うんぬんとかふくせんもなくほざき出してきた時のような、きわめていやな予感がした。


「オマエもよーく知ってんだろ。つうの日常がらぐことってのも、ないわけじゃないのさ」


 ごめんよーまさか売り切れなんて思わなくてさー。はい、代わりの黒糖ベーグルね。

 かすかが差し出したのは、どう見たってプレーンじゃない色あいの黒ベーグル。はくはつのかすかが持つとより一層その色合いがきわまって見える。ああ、ハムとチーズとレタスでもはさめばにくたらしいくらいしそうだ。

 わたされたそれをマジマジとながめていると、おこられると思ったのかかすかがしゅんとした顔をしてがらな体をさらに縮こまらせる。長めのもみあげもしかられた犬のしっぽみたいに弱々しくぶらさがっており、制服スカートのはしっこを所在なさそうにちょこんとつまんで、だめ? とうわづかいをしてくる。まことかんながら似合いすぎるくらい似合っているので、まさおみのチンケな良心のためにもぜひやめてほしい。


「いや、気にすんな。別にこれがきらいってわけじゃないし。売り切れじゃ──」


 ──売り切れ、ね。

 ことじりのどの奥につまらせながらかすかにぜにわたして、けいいちべつする。

 けいは、変わらずずっとニヤついたまま。よって察した。


「お前、仕込みやがったな?」

「さすがオレの悪友。分かってらっしゃる」


 しゆうとうにも自分のカバンを机から持ってきて、ひっくり返してみせる。

 どさどさと出るわ出るわのプレーンベーグルが一、二、三、たくさん。こうばいのおばちゃんもさぞ首をかしげたことだろう。大して人気もないメニューを朝から大人買いしていくちやぱつロン毛なぞもくげきしては。


「医者のむすめ。金の力を存分にるいやがって。そうまでして俺をピエロにしたいのか」

「はっ、利用出来る力は何でも使うんだよ。それがオレの利になるなら、躊躇ためらう理由がねえ。第一サーカスのピエロに金をはらうのは当然だろ。観客の義務ってモンだぜ」


 どしたのどしたの険悪だよー? とおろおろするかすかに、だいじようだ、とけいがサムズアップしてみせる。かすかはアホなので意味も分からず、なあんだだいじようか、とつられてサムズアップ。


「さ、いい男っぷりを見せてくれピエロクン。退たいくつれんというねんざいりようは夏休みまでにっておかねえとな。──ま、たんと食べてくれ。このプレーンベーグルはオレのおごりだ」


 三人でバカやっていれば、退たいくつなりに学校生活は楽しい、とまさおみは満足していたのだが。


「……ま、いいよ。どうせ一度限りでおはらばこの、さんりゆうどうだしな」


 今日はどうやら、ゲーセンに寄ることが出来ない程度には、波乱に満ちそうである。






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