孤高の電波美少女と恋で繋がったらギガ重い

第一章 電波美少女の❝ガーディアン❞になれと言われまして ③

 ことの真相はこんな男子達のゲスきわまりないたわむれであり、まさおみのメンタルがどうであれ、好きでもない女子に告白するなんてのは仁義にもとるクソこうと呼んでさしつかえないのだが、ふたを開けてみれば成功なわけで、高校二年の男子にはこのギャップを容易たやすくリカバリーするスキルはかいに等しい。もちろんごうとくと書いてざまあみろと後ろ指をさされるような話だが。


「……えっと、ちなみに、いいか?」

「なに? 一応もうこいびとどうなんだから、そんな前置きしなくても、えんりよする必要はないわよ?」

「何でオッケーしたの? 俺ら、ほとんど面識ないよね?」

「面識がなければ彼氏にしてはいけない、なんて法律か校則なんてあったかしら」

「いや、ないだろうけどさ……」

「第一あなたが付き合ってって言ったんだから、むしろ何で?」


 ──ばつゲームだからね(真顔スマイル☆)。

 言えるわけがなかった。たとえ浅はかなピエロであっても、客の前でしようを落とすようなは出来ない。何せプレーンベーグルは三個も食っちまったのだ。


「えっと、まあほら、夏だからな。つうわいい彼女の一人も連れて歩きたい季節だろ」

「そう。夏だから、ね。思春期ならそういうのも悪くないわね」


 さて、放課後の逆転劇が明けて、二人はまるでカップルのように並んで下校していた。

 まるで、も何もカップルなのだが、まさおみの感覚ではうそかわく前のうわりのような状態で、頭の中は油絵のごとくグチャとグチャがあくがつたいしてグッチャグチャ。当然付き合いたてのラブラブ感を楽しもうなどととうてい思えない。むしろけんごうどうしんけんしよう、間合いの測り合い、食うか食われるか、そんなさつばつとした気分だった。こんなつうはあり得ない。だって相手は貴家雲雀さすがひばりなのだから。

 ちらり、とひそかに横目でとなりを歩く女子を見る。

 夕日に照らされてえる整った顔立ち。見れば見るほど美人。しようにはくわしくないが、そんなものが余分にしか見えないくらい、すでに完成されているというのがまさおみの感想だ。背だって男子として平均以上くらいのまさおみとそう大きく変わらない長身だし、夏服からびる手も足もすらりと長いし白いし何より姿勢がいい。単純明快めいりようかんけつ、そう、美人。美人なのである。


「さすがに失礼が過ぎない? それとも私の顔、どこか変?」

「いやちよう美人だと思うけど」


 か目を見開いて雲雀ひばりおどろいた。おどろくようなことだったろうか。だって美人なのに。


「あんまり面と向かってストレートにそういうこと、言われたことなかったから」

「あ、そう……すまん」

「いえ、言われて悪い気はしないから構わないわ。彼氏だものね?」


 言われなかっただけで自覚はあったということか。ま、そうだろう。これで『容姿に自信がありません』なんて言った日には、他の女子からちにうにちがいない。

 それっきり会話がきた。なまじ帰る方向が同じで、しかも駅までは徒歩で、そしてそこそこ歩くきよがあったのが不幸であった。女子と二人並んで帰るのにみたいに無言を通さねばならないのか。こんなじんがあるなんてエン・シュウカクさんは教えてくれなかった。

 感情が顔に出ないミスター能面ことまさおみも、念願の初彼女とはキャッキャウフフといちゃつきたいあこがれをいだとしごろである。かえすが、キャッキャウフフは重要なのである。カップルが目指す先は、断じてではない。

 調子くるうなあ、とまさおみは内心で天をあおぐ。単なるピエロのはずだったのだが、もはやピエロではなくて彼氏である。おまけに相手は言葉が通じない美少女でおみの貴家雲雀さすがひばりげんじようにんしきはそれでちがいない。ないはずなのに。

 ──日本語、通じるんですけど。

 何を当たり前のことを、とまさおみを責めるなかれ。

 貴家雲雀さすがひばりといえば、去年入学した当初からがつこうずいいちと評判の美少女だったわけだが、同時に、こいびとにはしかねる美少女としても有名だった。

 なら彼女の評判には必ずついて回るひれがあって、『その言動がエキセントリックかつファンタジーで、どんなナンパ男でもすぐに音を上げてしまう』のだという。宗教がどうとか頭の構造がどうとか、言いようは様々あれど、どのうわさにも共通するのが『つうが出来ないんじゃ、どんなに美人でもマネキンを連れるのと変わらん』というコミュニケーション不全に類する情報。せっかくりようだいびよういんが近くにあったって、本人との会話が成立しないのではりようほどこしようがないわけで、ゆうしゆうな医者でもさじを投げるであろう女子を彼女にするには、そんじょそこいらの男子高校生ではハードルが高いとまさおみも思う。

 まさおみ個人としては委員会も部活も入っていないので、他クラスの女子というだけでそもそもからみが発生しないから、そういううわさだけの先入観が独り歩きしていたじようきようなのだ。

 そして彼女にはしかねる美少女を彼女にしてしまったからには、そんな会話のドッジボールだか電磁波によるのうないかいだかの洗礼が待っているものだとばかり思っていたのに。


「……つうじゃん」

「何か言った?」


 思わず口にしてしまっていたらしい。あっ、とかつのろってもどうなるものでもない。

 逆にこれは好機なのかもしれない。そのうわさゆえりつしているとも聞くし、実態を知る生徒なんてほとんどいやしない。興味がないと言えばうそになる。元々断られることを前提に告白したのだ。ならばここでポイントを下げて結果破局となっても、プラスマイナスゼロ。大してからみもない女子のげんそこねたところで失うものはない……はず。

 そこまでの打算を働かせて、こうせいに転じてみることにした。ほとんどノーガード戦法だ。


「いや、美人は美人だけど、思ったよりつうなんだなって」

「……あなたも、私を変人だと言うのかしら。知ってて告白したんでしょう?」

「逆かな。変人だっていううわさばっかり耳にしていたから、全然そんな印象がなくてこんわくしてる。正直、もっとクレイジーな言動で引っ張りまわされるんだと思ってた。だってほら、さっきも〝ガーディアン〟とか言われたし、いちばんそういう路線なのかと」

「正直なのね。そんなに真顔で正面きってそこまで言えるって、なかなかのものよ」


 あきれたような口調。だが、おこっている様子はない。むしろ感心されているように思えた。

 もう一歩、間合いをめてみる。それこそけんごうならバッサリ両断してくるきよか。


「自分が学校でどういう風に言われてるか知ってる?」


 もちろん、と雲雀ひばりは表情を変えることなくうなずき、


「学校でのうわさについては私も知っているけど、むしろやつかいばらい出来ていいくらいにしか思っていないわ。学校一のじんへんじんだと思われていれば、うつとうしく声をけられることもないし、」

「なんだ。じゃあうわさはやっぱりただのうわさ──」

「──実際、私はじんへんじんの類だから」


 えっ、と声にするまでもなく、まさおみの内心は不意打ちにゆがんでいた。

 かみめに手をれながらつぶや雲雀ひばりと、目が合った。そのくもりのないひとみと、ってしまった。


うわさ。だから不当な風評ではなく、正当な評価なのだから、文句を言える筋合いではないわ、そう思わない、〝〟?」


 ぞわり、と背筋を寒気がった。

〝ガーディアン〟とまさおみを呼んだ雲雀ひばりの表情は作り物めいていて、その過度な美しさが逆に無機質な冷たさを助長していた。だが、一度交差してしまった目線をはなせない。れいのトゲ、れいな虫の毒、れいな女のしよう。要するにこわいもの見たさ、みたいなものだろうか。

 まさおみは歩道の真ん中で立ち止まった。景色はセピアに色素がちて、まさおみ雲雀ひばりだけに色づくことが許される。通りかかる車も、空をう鳥も、だれかの話し声も、不意をつく風でさえも、二人の世界をさまたげることはない。無意識に足がしばりつけられたのか、本能がおののいたのか、──単純に、れてしまったのか。

 雲雀ひばりも数歩先で立ち止まっていた。みように開いた二人のきよが、心のきよでもあった。


「教えてあげる。私という女の電波。それでもあなたが望むなら、改めてこいびとになりましょう。いやになったなら、それも構わないわ。クーリングオフ出来るこいびとなんて、なかなか消費者目線でしょう? どうせくずれるジェンガなら、最初から積み上げなければ効率的よ」



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