孤高の電波美少女と恋で繋がったらギガ重い

第一章 電波美少女の❝ガーディアン❞になれと言われまして ④

 最初から終わりを確信したような、気に食わないしようの仕方だった。

 笑えないじようだんだ。いっそうそこくはくだとバラしてしまいたいゆうわくに何度もられた。というか、バレているんじゃないのか。何せこの容姿だ。イケメン界や美少女界の常識や生態は知るべくもないが、多少言動がおかしくたって、記念受験みたいな感覚で告白してみようというやからは後を絶たないのではないか。そのたびに真面目に取り合っていてはつかれるだけだ。ならいっそファンタジーでも何でも垂れ流して、最初からにんていされて勝手にあきらめてもらえば────

 れんてきな思考のうずぼつとうする中で、ああ、なるほど。とのどのつかえがすとんと落ちた気がした。

 本人もしようしていた『電波』。あまりにもらちがいの感性でもって、時にはこうとうけいかいしやくで、つうでは計り知れない自分の世界を持つということ。当然、そこらのぼんじんではそのもうそうにも等しい夢物語を受容しきれず耳をふさぐ。──これは自分の手には負えないと。

 ゆえ貴家雲雀さすがひばりの評判とは、もしかするとそういうからくりなのかもしれない。あえてじんっぷりを見せつけることで、たかってくるぞうぞうの羽虫をはらせんこうく。一度受け入れた告白を台無しにすれば、男のチンケなメンツがそれを勝手に過大にばくさせる。これから季節は夏に向かうのだ。暑さにくるう虫のしゆうげきを予期して、それくらいの備えはしておくべきなのだと。

 だったら、さっさとおもわくどおりにはなれてしまえば、ここで二人のこいはおしまい。あとくされない彼女の提案に乗って、おたがいただの他人に成り下がれる。オーケー、ピエロの仕事はばんかんりよう

 の、はずだ。


「私は精神離脱者アストラルダイバーよ。だから物質界マテリアルサイドのあなたとえいきようし合うのは、おたがいにとって良くないと思うのよ。精神界アストラルサイドで異変があれば、私は救世者メシアンとして、そちらを優先しなければならない」


 なるほどこれは確かに、『電波』と呼ぶべき世界観だ。まさおみもそれは否定すまい。まっとうな感覚では簡単にめないようなある種の聖域。そうおいそれと理解がおよぶ話でもないし、うわつらの共感など容易たやすく看破されるだろう。

 でも──でもだ。

 まさおみは男子高校生で、彼女いない歴=ねんれいで、つうに彼女という存在にあこがれもあって、目の前には彼女(ざんてい)の美少女がいて、何よりこのままだと日常は退たいくつだ。

 日常がらいだりすることもある。けいはそんなことを言っていた。日常をらがせたのは、けい自身がベーグルをめるという確信ある行動を起こした結果だ。

 なら、まさおみだってベーグルをめれば、日常はげきてきになるのかもしれない。だれにだって、そうする力があって、必要なのはちょっとした勇気だけ。そんなの、女子に告白するのと何がちがうというのか。

 一年と少し前の事故の後、まさおみにはその勇気がなかった。だから退たいくつな日常に染まることを選んだ。実際、けい、かすかと三人でバカをやっていれば、退たいくつなりに学校生活は楽しい。それはちがいなく真理だと今でも思う。

 だがこの時まさおみは思春期のとおされたかのように思ったのだ。電波的な彼女くらい、いたっていい。そんなつうだってあるはずだと。


「〝ガーディアン〟は精神界アストラルサイドにおける私にとってはメリットのある話だけど、あなたにとってはそうじゃない。だからあなたはこちらで、こちらに相応ふさわしいこいびとを見つけるべきよ。私はだいじよう。これまでも、これからも一人でやって来たから。だから、こいびとごっこはこれで──」


 だれが言ったか日常のガーデイアンから、貴家雲雀さすがひばりの〝ガーディアン〟へとす一歩。それは──


「じゃあ、明日デートしよう」

「…………はい?」


 雲雀ひばりがいかにもきょとん、という顔をした。毒気をかれたというのともちがう、完全にきよかれた感のある無防備な表情。何だこんなわいらしい顔出来るんじゃないか、とその意外性はまさおみの中の雲雀ひばりぞうを上方修正させる。先ほどの寒気に似た感覚はいつしゆんさんしていた。

 とりあえずおもかんだ言葉をすくらいしか、まさおみに出来ることはない。


「いや、色々話をするにしたって、こんな立ち話ってのもなんだし、かといってスマホでってのも味気ないし、クーリングオフにしろ何にしろ、君を知らなきゃ話は進まないだろ。だったらまた明日会って話そうぜ。丁度土曜だし、今んとこ俺の彼女ingなんだろ?」


 休日にデートするって、いかにもカップルぽいじゃないか。そんなことを言ったように思う。実は後で思い返してみても、雲雀ひばりがそれまで何をつぶやいていて、自分がどういうさそかたをしたのかはあまり覚えていなかったりするのだが。


「あなた、私の話、聞いていた? 失礼だけど、日本語通じる?」

「何か言ってたのか? 悪い。ちよう美人の彼女を前に頭真っ白で、デートにさそうことに集中しちまった。もし良かったらまた明日、その話してくれるか? 今日はきっと頭に入らない」


 だってまさおみの頭の中はほこる思春期の花畑にも等しい。

 日本語通じない系彼女に日本語通じないと言われる彼氏。さぞお似合いだ、なんて。


はたにはまったくそんなどうようしている風には見えないけれど……そうね。彼女、ね。それじゃあ、そうしましょうか。デート、それも悪くないわ」

「じゃあれんらくさきこうかんしよう。LINEでいいか?」


 半ばごういんにスマホを取り出して招待する。『貴家雲雀さすがひばり』の名前が友だちリストに追加されると、丸々とわくいっぱいをせんきよするくろねこの画像アイコンが表示された。


ねこ、飼ってんの?」

「ええ。運動不足で太りすぎなところがわいいの。名前はめんつゆ。黒いから」

おもしろいネーミングセンスだなそれ。きらいじゃないよ、そういうの」

「……そう。ありがとう」


 そんな雑談をしながら帰路を進み、やがて来る分かれ道でさよならをする。雲雀ひばりは駅方面で夕飯の買い物をしてから帰るそうなので、かつてのアーケード街の入口付近で解散だ。

 制服のスカートとつややかなちようはつひるがえして去る後姿をぼんやり五秒はながめて、気持ちをえる。うそから始まったこいびとごっこだが、それをうそもどすか現実にかしむかは、明日だいだろう。

 ──案外、く行ったりして。

 そんなことを期待し始めている自分におどろきつつも、どこかがっているのも事実だ。

 本人は変人だとしようするが、思っていたより会話出来る。これはもしかすると、後でけいに感謝するような事態になるのかもしれない。

 ふと、スマホに通知。たった今別れたばかりの雲雀ひばりからだ。

 期待半分、きよう半分で表示をのぞく。

 耳鳴りのような音が、頭の奥でひびいている。退たいくつが去る足音は、こんなにもさわがしいのか。


『また明日ね、くすのくん。──あなた、変わってるわね』


 クラスカースト『ザ・ぼんよう』──二階級特進もやむなしか。

 学校一の変人にへんじんにんていされるとは、それはそれはげきてきな夏が始まりそうだった。


 ばつゲームで出来た彼女。その言葉を聞いた時、つうは何を思うのかと問われれば。

 どうせすぐ別れることになるのだろうな、という予知めいたあきらめがあったことを、この時のまさおみは否定しない。





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