孤高の電波美少女と恋で繋がったらギガ重い

第二章 真剣勝負はファミレスで ①

くすのってよ、前に事故って身体からだ動かなくなったって聞いたんだけどさ」


 時をさかのぼること春過ぎのある日の昼休み、まさおみは特にだんつながりもないクラスメイトであるたけから、そんな話題をられた。

 常にない展開に疑念はあったが、それこそ去年のいまごろ、似たような話を色々なヤツからたずねられ、同じ話を定番の落語のように話していたので、口は勝手に説明を始めていた。


「まあ、そうだな。意識失って、目が覚めたら病院で、下半身ほとんど動かせないって感じ」

「マジかよ不死鳥フェニックスじゃん」


 おそらく本人はせきせいかんてきなことを言いたかったのだろうが、ただのダブりワードなのでコメントにきゆうする。


「下半身動かなくなるってどんなよ?」

「まあ、不便だったよ。リハビリはしんどいし。トイレ行くのもめんどうだし」


 このあたりで、めずらしいものを見た、とでも言いたげなけいとなりの席に合流してくる。確かにけいやかすか以外と会話をすることはそんなにないので、単に興味をそそられたのだろう。

 それを見たたけは少し苦手そうな顔をしたが、今はまさおみへの興味が勝ったようだった。


「ぶっちゃけ、アレはつん」

「いや、感覚なかったな」


 そりゃ一大事だ、と大げさに笑ってみせるたけ

 か顔をしかめたのはけいで、そろそろやめとけ、とまさおみひじいてくる。


「一人でシコシコも出来ないんじゃごくだな。看護師のおねーさんがやさしく手ほどきしてくれりゃ最高だがよ」

「看護師のおばちゃんはやさしかったけど、そういうのはないな」

「まさしくせいしの一大事だ」


 ギャハハ、と自分でいことを言ったつもりなのか、品のない笑い声がひびく。ろうにまで届いたのか、一部の生徒がおどろいて足を止めていた。


まさおみ、もういいだろ。たけもテメエ、ごとだと思って勝手言ってんな。笑い話じゃねえ」


 見た目が完全にチンピラをキメているけいにらまれたせいか、たけは分かりやすいほどにろうばいする。まさおみはそんなけいに対し、何マジになってんの、といういちべつをくれてやったが、たけも同感のようだった。


「な、なにマジんなってんだよおり。俺はただアレだよ。場をなごまそうと思ってだな」

なごんでねえって言ってんだ。下らねえ下ネタでエンタメ気取りとか正気かテメエ」

「しょ、正気ってよ。まさか、どっかの貴家さすがじゃあるまいし」


 貴家さすが、という名前にいつしゆんピンと来なかったのだが、少し考えて思い至る。貴家雲雀さすがひばりまさおみたちと同じ学年にいる、電波系美少女とうわさの女子。


「顔が良くても頭がおかしいと、それこそアレがたねえよ。ありゃ人形だわ。ダッチワイフだわ。不思議ワールドの案内音声でこっちの頭もおかしくなるかもしんねえけど」


 この場にもおらず、まして何の関係もない相手にひたすらぞうごんを浴びせるその姿は、まさおみをしてもまゆひそめるにあたいする。


「俺で遊ぶのはまあいいけど、よその女子の悪口はカッコ悪いんじゃね」


 とばっちりでやりだまにあげられちゃって申し訳ないな、という気持ちがあったわけでもないが、特に深く考えず、会話したこともない女子をようしていた。いて理由をつけるなら、はれものぜんあつかわれるのがうざったいことは、まさおみ自身、よく知っていたことだから、だろうか。


「……何だよとぼけたツラして貴家さすがかよ。ありゃマジもんだ。顔にだまされないうちにだつ退たいしとけ」


 ぶつぶつと言い訳のようにかげぐちをまき散らしながら、たけはその場をはなれて行った。

 結局何しに来たんだアイツは、ととなりけいがもっともなことを言っている。


「オマエもオマエだまさおみ。あんなクソみてえなあおりをいちいち相手してやんな。貴家さすがはともかく、古傷かえしてチンケな笑いどこにされるとか、キレていいとこだろ、今の」

「血の気が多いなけいは。別にいいよ。他に俺をいじる要素もないだろうからなあ」

「ったく……むしろわざわざイジリに来たこと自体にキレろよ」


 けいがフォローしのなさそうな顔であきれている。まさおみにとってはいまさらの話だし、どうせたけからむことももうないだろう。けいみたいなタイプをきらう以上、そのそばにいるまさおみに近づいてくる理由もないはずだ。

 ちなみに、夏休みをむかえようという現在に至るまで当時のたけの真意は理解出来ていない。

 ただ、貴家雲雀さすがひばりの名前をまさおみが強くおくする、そのきっかけとなったのはちがいない。





 そして時は現在にもどる。


「げっ、お兄ってば土曜に早起きしてなにそんなキメちゃってんの。ヤク?」


 朝から自宅の洗面所で妹の日向ひなたに大層気味悪がられた。ほぼ同じDNAを持っていながら何て言い草だろう、とまさおみは血を分けたきようだいである日向ひなたひとにらみし、


「まあじようだんはいいからそつちよくにコメントをせ。女子として、こんな感じの男子はどうよ?」

「ないわ。じようだんでもないわ」


 しゆんさつだった。だがそんなことでくじけていてはこの口の悪い妹の兄はやってられない。


「何がないのかを具体的に言う権利をやろう。……日向ひなた様お願いします」

「まずワックスつけすぎ。あぶらぎったゴキブリにしか見えないから減点一。ショッキングピンクとかTシャツのセンスがなさすぎ。チャリティーイベントで合唱でもすんの? 減点二。今時ドクロのネックレスはナイ。いつからパンクロッカーになったよって感じっつーかそんなの後生大事に持ってるのがありえないわで減点三。ついでに顔立ちが好みじゃないから減点十」

「最後のはどうでもいいだろ。とりあえず参考にはなった。よし帰っていいぞ日向ひなた様」

「いやあたしの家でもあるし。むしろお兄さっさと出てけよえたいんよあたしは」

「べっつにお前のひんそう身体からだなんぞしんでもしょうがないだろ。勝手にえろよ」

「多感な中三の女子に向かってその言い草もないわ。ちよう減点。はぁやれやれどうしてこんなデリカシーがないんだか。後で成長期を経たあたしにひれせよ? 豊満だよ? 死ねよ」


 そう言いつつさっさと服をはじめるあたり、しゆうしんのない妹の将来が心配だ。ちなみにほうまんを名乗るには麻雀マージヤンならじつはんは足りない。

 軽口をたたっているが、別に仲が悪いわけではない。昔からずっとこんな感じなので、よそから見ると険悪なやりとりに見えなくもないらしいが、こんなことで一々腹を立てているようではくすのでは生き残ることは出来ない。具体的にはケンカなんぞでさわてたらあっという間に食事をかれる。きわまるとさいづかいのえんしきおこなわれる。成長期だろうが思春期だろうがようしやはない。両親たるくすの夫妻はそういうところは子供だろうが手加減なしである。


かみのセットなんて雑誌をながめりゃササッと出来るとタカをくくってたけども、案外難しいな……つか毎日こんなことやってる連中、どれだけ朝早起きしてるんだよ。マゾか」


 具体的にはけいおもかべる。ちちおや薬剤師ははおやのハイブリッドだからと勝手に線引きをしていたが、よく考えるとかみのセットに医術も調ちようざいも関係なかった。ならば天性の素質か訓練のたまものか。やるなけい、である。こうと書いてマゾと読む。


「そりゃ、ファッションは意地ですんのよ」


 いこと言ったつもりか鼻息あらくドヤ顔である。まったく残念な妹だ。


めんどうだなあ。何だよワックスって。ゆかでもみがくのかよ」

「お兄うっさい。自分ビルドくらいだまってやれ。男下げるよ? ストップ安よ?」


 部活にでも行くのか、手早く運動着とハーフパンツを装着し、ささっとトレードマークのショートポニーを束ねた妹が苦情を入れてくる。男なんぞ知らないくせにしたり顔なのが腹立つが、おおむてきちがいなかった。

 シカトをキメこんでなおもむーむーとうなっていると、日向ひなたとなりから顔をのぞんできて、


「ほんで? もしかしてお兄、女の子と会うん? そんでびしちゃうん?」

「ま、そんなとこだ。そうでもなけりゃ土曜の朝からこんなことするかよ」


 ですよねー、と鼻から息をくような甘ったるい声を出す。気色悪いことこの上ない。



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