孤高の電波美少女と恋で繋がったらギガ重い

第二章 真剣勝負はファミレスで ②

「一応身なりを整えようという気持ちはあんのね。加点一。そーゆーフトゥーな感性が残っていたことにあたしは安心するってもんよ。どんな相手かはおいおい聞くとして、やるときゃやるじゃない。見直したわ。だったらそうねー」


 おもむろに手をばした妹がうんしょとびをしつつ、手早くかみをセットしてくれる。ていこうしてもなので、気持ち頭の高さを下げて、されるがままにいじくり回されておく。どうせ自分がやってもゴキブリなら、それ以下にはならないはずだ。


「うん、ま、お兄そこそこタッパあるんだから、清潔感ある感じにまとめとけばオーケーオーケー。あと服はあれよ、Vネックの白シャツ持ってたじゃん。そそ。首元ダレてないやつ。あれにこの前アウトレットで買ってたサマージャケットでも合わせて。──いやちがしちそでのほう。おくにないだとバカ兄。ほら、めちゃくちゃしぶってたのをあたしが見てやったじゃん。え? 暑い? 暑かったらぎゃいいでしょーが。いいのこういうのは持ってっとけば! パンツは……無難にチノパンでいいかなー。シュッとしてればいーよシュッとしてれば。ダボってるのはNG。クソだわクソ。ま、初回から気合入れすぎてもねー。どうせ高校生ごときが夜景の見えるレストランに行くでもなし」


 アクセはないからなし。はいよっ! と言われるがままに身なりを整えれば、なるほど、それなりにちがえたような気がする。中三女子がいいと言ってるのだから、まあいいのだろう。


けいちゃんみたいなイケメンわくじゃないからここらが限界でしょ。かすかちゃんみたいなばつな変化球を投げられるのは才能と実績ある人じゃないと無理なんだから、お兄はオシャレ感じゃなくて清潔感アピール。分かった? 分かったらうなずけよ? モリモリうなずけよ?」


 一度ぐうぜん会っただけの兄の友人達を勝手にちゃん付けするその強心臓はさておき、うなずく。


「はいはいサンキュー」

「あとひげりと鼻毛チェックとみがき。ハンカチ持ってーさい持ってーはいしゆつじん!」

「わーったわーった。んで────何が望みだ、言うてみい」

「ハーゲンダッツ。期間限定の。あたし今月づかいピンチ! でも暑いしアイス食べたい!」

「はいよ。帰りにスーパーでつくろってきてやる」


 パーン、とハイタッチ。けいやくせいりつ。専属スタイリストにしては破格の値段と言える。

 口は悪いがそれなりに仲良くやっていると、こういう時にたよりになる。妹のひんそうはだかなんぞに欲情しようはないが、だまってさえいればそれなりにいい女になるんじゃないかとびいするくらいにはわいがってもいるのだ。

 さて、と気合を入れる。約束の時間は十時にりようだいえきまえ。電車で二駅行けばそれなりに遊ぶスポットがあるので、そこらを散策する予定になっている。

 人生初の女子とデートだ。きんちようしていないと言えばうそになる。たとえ相手が電波系女子と名高い貴家雲雀さすがひばりであってもだ。

 むしろ貴家雲雀さすがひばりだから、かもしれない。

 あの吸い込まれるようなくろを思い出す。自分を変人だとはなした態度を取りながら、それでもあのひとみはひたすらにぐで、そういうひとみをする相手が、考えもなしに適当なことを言うとも思えない。──何のもない、はんまさおみとはちがって。

 く行けば、こいびと。おまけに美人だ。そう思えばやる気を出したってばちは当たらない。


「んじゃ、行ってくる。お前も部活がんれな。この暑い中屋外で陸上とか正気を疑うけど」

「言われんでもずっとがんってきたし。走るの好きだからいいんさ。お兄もフラレんなよ?」

びんわんスタイリストのしゆわんにしないようにがんるよ。次はお前からデート報告でもしてもらいたいもんだな。ま、部活いつぺんとうじゃしばらくは無理そうだが」

「うわウゼェ。たった一回デートにこぎつけたくらいでプロ気取りかよ。夏の大会終わったら引退して彼氏くらい作るし──ま、うつむいてプルプルしてるよりゃマシか。ぐっどらっく!」


 兄のげんを保つため、せいぜいゆうそうな顔をして手をひらひらさせておく。

 デート一回でがってられているようでは確かにカッコつかない。

 妹よりもせんしやとして、デート経験値を上げておくにしたことはないのだ。


「言い忘れてたけど、クマ。てないのバレバレだから、マッサージして血行良くしとけ。あととにかくがおだかんね! お兄、全然目が笑ってない! さんぱくたんぱくとおして無だわ!」


 本当に、たよりになる妹だった。





 くすのまさおみはファミレスが好きである。

 思い起こせば小学校低学年のころへんしよくが激しかったまさおみは、ファミレスならば和洋中どんなものでもその時食べられるものが大体そろっているというシステムにいたく感動し、そのたましいへんしよくがある程度おさまった高校生時分でもさして変わらない。に舌の肥えてきた妹なぞは、久々の外食にファミレスをリクエストした日には強打者を敬遠したピッチャーへのブーイングばりの文句をてるが、好きなものは好きなのだ。

 現在はどちらかといえばドリンクバーいちたくによる金銭・時間的コストパフォーマンスが重視されがちだが、それなりに区切られたスペースでわいもない会話をし、気軽に時間をつぶせるというかんきようはなかなかがたいものだと思う。スタバ? ドトール? オサレ語は知りませんね。

 まあ例えば付き合いたての高校生カップルなんかが、二人の今後を左右するような、こしえた重要な会話をしようというのなら、そこそこリーズナブルなスポットではないだろうかと思う。それが果たしてモテ線なのかどうかについては、まさおみからはコメントしかねるところだ。


「いやー参った参った。まさかこんなに暑いとは」

もうしよらしいわね。も終わったから仕方ないけど、運が悪いというか、ゆううつだわ」


 クーラーが効いているというだけでそこはもう聖地にんしてもいいくらいの外気温。待ち合わせた十時の段階ですでに天をあおぐのもいやになるくらいだったが、昼を過ぎてより一層殺人的なしが窓の外をつらぬいている。部活にせよ仕事にせよ、あんなしやくねつの世界にわざわざ飛び出していくなんて、およそ正気のとは思えない。

 たったったっ、と小気味良いリズムで走る何年か前の妹の姿を思い出しながら、しかし今日に限ってはまさおみも同類なので何も言うまい。このクソ暑い中を、わざわざお出かけしにきたというのだ。男女がたがいに正気を保ったままでは、デートなぞやってられないのかもしれない。

 午前中の主戦場はりようだいえきから電車で二駅ほど、くつえきまえにあるショッピングモール。だんはチラ見すらしないティーン女性向けブランドのウィンドウショッピングとか、ファンシー雑貨屋を冷やかすとか、なけなしの陽キャ力強化プランを実行してみた。ちなみにそれらの店のターゲット層とかけはなれたまさおみが楽しめる要素は、当然店の中にはほぼちんれつされておらず、ゆいいつ買ってもよさそうだと思ったペア物のあいいろアウターは、雲雀ひばりが『その色は絶対にいや』ときようれつきよしたため結局戦利品はゼロ。雲雀ひばり雲雀ひばりで複雑な細工がほどこされたかみめを少しの間名残なごりしそうにながめていたが、今つけているものが気に入っているのか、はたまたふところじようによるのか、結局こうにゆうしなかった。こっそり値札を見てがくぜんとしたのは秘密である。女子の苦労のへんりんかいしゆんかんだった。

 とはいえティーン女性でもファンシーしゆでもないまさおみにも、しゆうかくがないでもなかった。


「しかし貴家さすがってホントおじようさまだったのな。まさか入る店入る店貴族のようたしみたいな値段の服とかばっかりだったじゃん。だんからあんなの買ってんの?」

「まさか。そんなことをしていたらあっという間に所持金がきるわよ。だんからあししげく通ってはくようにながめて、ここぞという時に本気の一着を選ぶだけよ」


 その一着を買えることがすごいのだが、そのあたりの感覚はまさおみとはちがうのだろう。安さで数をそろえるのが買い物というまさおみにんしきくつがえることはそうそうない。


「じゃあ、今着てるそれは本気の一着達を厳選した結果なわけだ。おとこみようきるね」

「そうね。初デートだもの。かざっていかなければ失礼だから。それなりに鏡の前でなやんだりしたのよ。たんのうなさい? なんてね」



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