孤高の電波美少女と恋で繋がったらギガ重い

第二章 真剣勝負はファミレスで ③

 気取ったようでいて、少し照れくさいのか、視線が泳いでいる。意外な一面をかいたようで、買い物では手ぶらのかんとなったものの、結果としては得した気分だ。

 せっかくなのでたんのうさせてもらおう。

 夏らしいうすみずいろのワンピースに白いうすのカーディガン。おなかの上あたりを小さなぐんじようのリボンでしぼることでアクセントのついたいやのないせいかんは、整った器量によくえる。長いかみはさすがに暑いのか一本に束ねられ、絹糸で出来た清流のように背中を流れている。ちなみにやや色素のうすい茶色がかったかみしつなのだが、これは地毛らしい。

 れいだね、とも似合ってるね、とも言えずに『あの色だととうはつけんとか大変そう』くらいの感想しか出てこないのがまさおみである。ここに日向ひなたがいれば減点一万は下るまい。

 さらにまさおみの目線を下に流してみよう。決してよこしまな気持ちではなく、あくまで休日の貴家雲雀さすがひばりせまりたいというドキュメンタリーテイストの心理である。

 今はテーブルの下にかくれて見えないが、制服スカートと同じくらいのしゆつなのに、白磁のようなきやくが異様なまでに引き立っていた。長い! 細い! 白い! のさんびよう花マル。私服女子のかいりよくは大したものだ。ちなみに余談すぎる余談だが、まさおみあしフェチである。


そつちよくな感想だけど、やっぱり失礼ね。もう少し視線をかくした方がしんてきで好印象よ」

「こっちもそつちよくに言えば彼女をガン見して何が悪いってんだ。俺は俺が勝ち取った特権を行使しているだけだからな。いやマジいいあしだ。ノーベルきやくしようじゆしてもいい」

められて喜ぶところかしらね、今のは……ノーベルがくさかげで泣いているわよ」


 あきれ混じりのためいきも、別段気分を害したという様子はない。

 少なくともこんなわいもない会話をポンポンとやり取り出来るくらいには、おたがいのかきは低くなってきたように思う。雲雀ひばりは物静かにたんたんと物色して買い物をするタイプのようだったが、それでもウィンドウショッピングの最中におけるメインはあくまで会話、という感じで、店そのものに興味はなくとも、雲雀ひばりだんの生活の一面を見られたりとか、それなりに退たいくつはしないで済んだ。実はプーさんとかわいいものが好き、からの、それじゃあファンシー雑貨でも……という流れだったりする。

 もちろん、えるべきしんてきしようへきはこれからまだまだ何枚も立ちはだかる予定なのだが。


「とりあえず飲み物とってくる。何がいい?」

「自分で行くわよ、それくらい」

「俺に行かせろよ、それくらい」

「……それじゃあ、ホットの紅茶をお願い。ありがとう」

「お安いようだ」


 言うが早いかドリンクバーのコーナーでホット紅茶と自分用のコーラをれる。夏でもホットか、と経験値の低いまさおみにはこれが女子特有なのか雲雀ひばり特有なのかを判断は出来ない。

 ぷしゅーという気のけた音を鳴らしながらコーラをそうてんしつつ、今日の午前をかえる。

 炭酸の音のように、ひようけしなかったかと言えばうそになる。それは今も進行形でそうだ。

 二人はつうにカップルだ。電波も磁力もゆんゆんもない、ありきたりの、カップル。

 こんな展開を望んでいた部分もあり、しかしこんなはずじゃなかったとも思う。まさか退たいくつを感じているわけでもなし、波乱を望んでいるはずもなし、自分でもくだきようのない感覚に、もやもやとするばかり。

 切り込んで、みるべきなのだろうか。


「はいよお待たせ」

「いただきます」


 育ちの良さがにじる所作で、雲雀ひばりが安物のティーカップに口をつける。

 同級生のはずなのにみようなまめかしさを感じて、まさおみは少しだけ気持ちがざわついた。


「ほいじゃ──本題と行きますか」

「そうね。先延ばしにしても、おたがい腹のさぐいになってしまうだけだし」


 これはこれで楽しいからさぐいをずっと続けてもいいけど、と言えれば手慣れた感のあるイケメンだったのかもしれないが、あいにくそこまでのたんりよくまさおみにはなかった。


「今度は、ちゃんと聞いてくれると助かるわね?」


 雲雀ひばりの姿勢は最初からぴんと背筋の通ったれいなものだったが、その上でさらにぐとまさおみえてくる。はらって、と言えばいいのか、どうようしている様子はない。まるで何度も見たことのある映画をながめているかのようだった。──そのゆうは少し、しやくさわる。

 まさおみも居住まいを正した。どんとこい、と口の中でかくを転がす。


精神界アストラルサイド、というものがあるわ」


 知ってる? でも、聞いたことがある? でもない断定から話は始まった。


「私は精神離脱者アストラルダイバーと呼ばれる存在で、精神界アストラルサイドに『ダイブ』して向こうのちつじよを守る救世者メシアンとして向こうを主体に生きているの。あなたからすれば、そうね……異世界転移、みたいなものになるのかしら。で、こちらの物質界マテリアルサイドかりめの生活ね。だから本質は向こうにあって、ここにいる私は本来の私じゃない。つまりあなたと付き合っても、私はこちらにある全てをないがしろにしてでも精神界アストラルサイドを優先する。たとえ学校にいても、デートしていても、おに入っていても、ね。そんな女と、あなたは付き合いたいのかしら」


 いきなりの固有名詞(?)のオンパレードにこんわくする。思い起こせばまさおみはかつてこういう小説を読んだことがある。世界観の説明をするためにぼうとうから固有名詞を列挙して、辞書でも読んでるような気分になるまま話が進んで、置いてきぼりのままどくりようしてしまうみたいな、そんな設定説明ジェットコースター。雲雀ひばりさんのゆんゆんアトラクション、開幕。

 一度取り残されれば、あともどりは出来まい。頭は最初からフルどうだ。


「とりあえず君がしゆか何か知らんが優先したいものがあって、それにかまけている時は相手してやれないが、そしてそれは割とこうひんだが……要するに俺にほとんど構うことはないが、付き合い続けんのか、みたいな話で理解出来てるか?」

「そうね。しゆではなく、使命というか……宿命のようなものだけど」

「大げさだと思うが、大げさじゃないんだろうな。だって君真顔だもん」

「ええ。あなたと同じ真顔で、いたって大真面目よ。私、うそつきってきらいなの」

「ほ、ほう……うそつきはきらいデスカ」

「何か思うところがあるのかしら」

「とんでもない。うそつきはピエロの始まりだからな」

「遠まわしに私をピエロになぞらえたいのなら、そう言ってもらって構わないけど?」


 茶化しているわけではない。雲雀ひばりの表情はしんけんそのものだ。

 決して『昨日ずに考えた新作小説の設定をこっそり教えてあげる』とかそういう類の目つきではない。必要なのは批評でも感想でもまして意見でもなく、まさおみせんたく


「それで……その、何だ。精神界アストラルサイド? に行くってのは、どうやるんだ?」

「意識を集中すれば行けるわ。あるいは、強制的にしようかんしたりされたりということもある」

「その間君はどうしてるんだ? 異世界にでも飛ばされて、消えてなくなるのか?」

「私の身体からだ精神界アストラルサイドに連れて行けないわ。高次元へとしよう出来るのは精神部分、つまり意思とか、心とか、そういうりんかくのないモノ。だから精神界アストラルサイドなのよ」


 なるほどこれはゆんゆんしている。このかいわいで動画とか見ている人、映り悪くなっているかもしれないな、という皮肉は、かろうじて半開きの口の中へと押し込むことに成功した。

 そしてよどみなく続くわ続く精神界アストラルサイドとやらの世界観。やれ精神離脱者アストラルダイバーとしてのかくせい、心得、世界の命運をけたとうそう──初彼女との初デートで正面切ってこんな話をする経験なんてそうありはしないだろう。

 効きすぎなくらいのれいぼうを頭いっぱいに浴びても、やや熱気が残る。そのくらいフルどうでも追いつかない強度の電波を受信すべく、無理やりクールダウンしてみる。

 まさおみもゲームやまんくらいはたしなむので、『そういう設定のお話』として考えれば、そこまで理解は難しくない。ある種のなつかしささえ感じるほどだ。しかし当然現実味はない。ここではない本当の世界が別にある──中学時代ならワクワクさえして飛び乗ったぼうけんの船なのかもしれないが、このご時世、クーラーもついていないような船には乗れないのである。だって現実的じゃないし、つうじゃないからだ。


「しかし、精神界アストラルサイドねえ」

「信じてもらう必要はないわ。私はそう信じているというだけだから」


 何かをこらえる仕草でかみめにれて、彼女はそんなことを言う。


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