扉の外
第1章 ①
「心配することはありません。私が助言することはひとつだけです。あなた方は、私に従えばいいのです。今までと同じように指示を待つだけでよいのです」
その声は
正面の大きな液晶画面に、アニメ調にデザインされた二つの目と唇が大きく表示されている。目は時折
「私はソフィアです。あなた方を守るための存在です」
画面の唇が動く。先ほどからずっと同じようなことを
紀之は室内に目をやった。目覚めた時は、いつもの高校の教室かと
室内には机の代わりに椅子があった。ソファーのようなリクライニングシート。それが三十個ほど並んでいる。
クラスメイトの姿も見える。紀之の向かいの壁際に数人、画面の逆サイドの壁の
クラスメイトはただ
室内の高めの天井には、茶色いスポットが点灯している。微妙な暗さは、現実感がなく夢の続きを見ているかのように錯覚させる。
「心配はいりません」
ソフィアはまたも同じようなことを言った。紀之が目覚めた一時間前から、ずっとこの繰り返しだった。この状況で心配にならない人間はいるまい。目が覚めたらここにいた。そんな特異な状況だった。
何が起こっているのか、ここはどこなのか。
紀之は視線をさ迷わせながら考え続けていた。そんな思考を感づいたかのように、画面のソフィアは表示された両目をゆっくりと瞬いた。
「ここは宇宙船の中です。あなたたちは、宇宙空間にいるのです。地球は核戦争が始まってしまったのです。でも、心配はいりませんよ」
ソフィアはそう言った。ノイズを垂れ流しながら、さらりと現実をも流した。ここは宇宙船の中であると。
室内からは、疑問の声が
画面のソフィアは両目を
「そろそろ皆さん目覚めましたか。心配はいりませんよ。この宇宙船はノアの
安っぽいファンファーレが響き、画面に花火のアニメ画像が表示される。
そんな映像を見て、
「ねえ、本当かな」
紀之の横から声が発せられた。隣に座っていたセーラー服姿の女子は
「はあ?」
紀之はあくびをするように返事をした。まだ頭の
「だから、宇宙船とか宇宙とかさ」
「おめでとうって言ってるから、そうなんじゃないのか」
亜美は紀之の適当な返事に、気分を害した様子もなくうなずいた。
「さて、まずは私の紹介からいたします。私はソフィア。あなた方の言葉で表現するなら人工知能です。私はあなた方のガイド役として
ソフィアは右目を閉じてウインクをする。
そんなソフィアの話を、生徒たちは私語もせずに聞いていた。ただ指示を待っている、そんな生徒の姿。私たちは管理される側なのです。指示を待っています。紀之は鼻で笑った。
「あなた方の存在した地球では戦争がエスカレートし、人類の滅亡の危機に
ソフィアは一方的に説明を垂れ流し続けている。
ここで画面は目と口が消え、爆発する地球のアニメーションが表示された。炎に包まれる地球からはロケットが。ロケットは宇宙空間に飛び出ると加速し、背景の星がびゅんびゅん流れていく。そして、不意にロケットの前に緑色の星が出現した。
「目指すは
画面に再び目と口が表示された。
「心配はいりませんよ。食料はなくなることはありません。娯楽だって存在します。あなた方は、受験に苦しむこともなく、排気ガスを吸って
室内は静まり返っている。
室内にはゆったりとした椅子が並んでいるにもかかわらず、皆
「ただし、この場所をひとつの国だと例えるなら、今までの社会と同様に基本的なルールも存在します。ただし心配はしないでください、私に従っていれば生命の保証はされ、ここで暮らすことができるのです」
そう考えつつも、紀之は立ちあがりもせずに画面を見つめた。他の生徒も皆座っている。この状況で目立った行動は取りたくなかった。皆も同じことを考え、ソフィアの言葉を聞いているに違いない。
「ルールは特別なものではありません。今まで生活を送ってきた中で学んだルールどおりです。まずこの世界では暴力は禁止です。行き過ぎた行為を発見した場合ペナルティーがあります。この世界に暴力は必要ありません」
紀之は室内を見渡した。どこかに銃でもセットされているというのだろうか。
「次に、あなた方にも仕事をしていただきます。その仕事とは、ここにいることです。ここにいる限り、この世界での存在価値を満たしていることになります。この部屋から外に出ることは自由です。しかし、いったん外に出たら、戻ってこられる保証はありません」
この部屋の外。外には何があるのか。もやもやとした不安と好奇心が紀之の頭に浮かび上がった。
「この二つさえ受け入れれば、あなた方がこの国から
紀之は最後の言葉に引っかかった。この世界も皆平等。この世界もと言った。では、果たして地球の世界は平等だったと言えるだろうか。富を独占する国もあれば、



