たかがアイドル! ~されど、やっぱり顔はいい~
第2話 カプセルプラネット ⑤
「アフターサービスってやつですよ。賃貸仲介をしたのは俺ですからね」
男の名前は大熊茂。その名のとおり、熊のような大男で、今も営業車の運転席でぎゅうぎゅうになっている。デカいワゴンを買いたいらしいんだけど、あまり利益がでていなくて、ずっと体に似合わない軽自動車に乗っているのだ。そして、この男こそが、都内で住居を探していた夜野たちに、シェアハウスを紹介したのだった。
「夜野ちゃん、なんか、悪そうなやつらに追いかけられてたそうじゃないですか」
妹から、歩道橋から跳んだ日のことをきいたらしい。
「お客さんになにかあったら大変だ。ってわけで、仕事終わりに、怪しいやつがいないか、少し見張ってから帰ることにしてるんですよ。こうやってね」
マスコミを追い返しているのはついでらしい。
「この道、私道だって知ってました? 気に入らないやつはつまみだしていいんですよ」
「それより、入居者がアイドルだなんてきいてなかったぞ」
「そういえば、いうの忘れてたかもしれませんね」
すっとぼけた顔をする大熊。
「それより一徹さん、アイドルマネージャーですか。親父さんに似てきたんじゃないですか? あの人も華々しい興行が好きだった」
「バカいえ」
俺はいう。
「もう、そういう時代じゃないんだ。流行んねえよ」
「そうですかね~」
「俺は普通にバイトしてるだけだから。普通に、真面目に」
小さい頃から、大熊にはよく遊んでもらった。そのときから、ずんぐりむっくりの大男で、いつもにこにこ笑っていた。笑っていない大熊をみたのは、親父の葬式のときだけだ。あのとき、大熊は親父の棺の運びだしを手伝いながら、ぼろぼろと大粒の涙を流していた。
「いい子たちじゃないですか」
大熊はシェアハウスの窓から漏れる光をみながらいう。
「最初はね、アイドルだってきいて、俺はセキュリティがしっかりしたマンションを紹介したんですよ。ちょうどワンフロア全部空いている物件がありましてね」
芽野社長はメンバーの安全を考えて、そこにしようといった。でも、一緒にきていた夜野たち五人が首を横にふったのだそうだ。
私たちは高級なところに住まなくていい。そのぶん、ファンの人たちを楽しませるためにお金を使ってほしい。
「ほら、そのときはこんなに売れるとは思ってなかったでしょ? だから、自分たちにお金を使うのは後回しでいいっていったわけですよ」
それで大熊は思ったのだという。
「このシェアハウスしかないってね。だって、この建物はもともと損得勘定抜きに人を助けつづけた、あの親父さんが建てた家だもの。俺はね、あの子たちに、この家に住んでほしいって思ったわけです」
「ずっと空き家だったのはお前が客を選んでたからか」
「…………」
「家賃収入かえせよ~!!」
俺は大熊の首を両手で絞める。しかし、「まあ、いいじゃないですか」と大熊は平気な顔だ。
「そういうわけで、俺はあの子たちにこのシェアハウスにずっと住んでいてほしいんで、こうやって、不審者がやってこないか見張ってるわけです」
俺は、あのとき、夜野の身に起こったことを思いだす。
「ただの不審者じゃないみたいだ」
「そうなんですか?」
「タクシーに、乗せようとしたんだ」
夜野は最初、停まっていたタクシーに乗ろうとした。でも、急いでいる中年女性が割り込んで、乗れなかった。次に、離れたところに停まっていたタクシーが、乗り場にやってきた。
「その二台目のタクシーに乗せたかったんだ」
跡をつけていたやつらも、一台目に割り込んだ中年女性も、二台目の俺とチキンレースしたタクシードライバーも、みんなグルだったのだ。
「なるほど、夜野ちゃんのガラをさらおうとしたわけですか。なかなか物騒ですね」
しかも、と大熊はいう。
「やり方が、本人に気づかれないままかどわかす、『芝居小屋』ときたもんだ。筋の悪いやつらがからんでますね。そういうことに知識があって、慣れているやつらだ。まあ、華やかな業界には、昔からそういう悪いやつが寄ってくるものだと相場は決まってますけどね」
「なんか、アイドルを狙う事件とか、起きてんのかな」
「俺も業界に詳しいわけじゃないですからね」
そういいながら、大熊はスマホを操作する。
「ちょいと小虎に連絡しときますか。あいつ、相変わらず地方の遊園地の宣伝ばっかやってますが、所属は広告代理店ですからね。なにか知ってるかもしれません」
そこで大熊は笑いながら俺をみる。
「なるほどなるほど。それがマネージャーを引き受けた理由ですか。あの子たちが、なにも知らないうちに、悪いやつらをやっつけてやるつもりなんだ」
「バイトだって。夏休みにちょっと小遣い欲しくなっただけ」
「またまた。どうせ夜野ちゃんにも、危うくさらわれそうだったこと、いってないんでしょ?」
「いう必要ねえだろ」
俺はいう。
「夜野たちは楽しくやってんだ。周りのやつらのつまんねえこと、教える必要ないだろ」
大熊は相変わらずニヤニヤしている。
「なんか腹立つな」
「まあまあ」
大熊は嬉しそうにいう。
「一徹さん、やっぱりあなたは花ノ目大徹の息だ。俺は勝手についていかせてもらいますからね。あなたと一緒にいれば、退屈せずにすみそうだ」



