たかがアイドル! ~されど、やっぱり顔はいい~
第4話 みんな恋してる ②
練習スタジオにいけば、夜野はここ数日よりもキレのあるダンスを披露する。そして動きを止めたあいまあいまで、俺のほうをみて、にっこり笑ったり、元気にピースサインしてくる。
超かわいい。でも――。
「なんで今日はご機嫌なんだ?」
俺がスタジオのすみっこで首をかしげていると、八雲がとなりにやってきていう。
「花ノ目さん、気づいてなかったんですか?」
「え?」
「色ですよ。色。Tシャツの」
八雲がちょんちょんと俺の肩をつつく。
「初日はピンクでした。二日目は白。その次は紫。そして今日はミントグリーンです」
「あ~!」
いわれて俺は気づく。夏がきて、量販店で無地のTシャツをいっぱい買った。全部同じだと妹に「スティーブ・ジョブズ?」っていじられるから、色を変えた。それが偶然――。
「メンバーカラーになってたのか!」
カプセルプラネットは、メンバーに色が割り振られている。夜野がミントグリーンで、赤星がピンク、月島さんが白で、八雲が紫だ。
俺が彼女たちに対応した色のTシャツを着た日に、そのメンバーが元気になっていたのだ。
でも――。
「そんな単純な理由で!?」
「それがけっこう大事なんです」
八雲がほほ笑みながらいう。
「だって、練習スタジオに、自分のファンがいてくれるような気持ちになるんですから」
夜野のことが大好きなファンは、ライブ会場でミントグリーンのペンライトを振るし、その色の服を着る。つまり、彼女たちがローテンションで俺にやさしかったのは、自分のファンへのサービスだったのだ。
「みんな、天性のアイドル体質じゃん……」
「なんか、勝手にそうなっちゃうんですよね。街なかで自分の色をみつけると、おっ、て思いますし、財布とかカバンを買うときも、なんとなくそっちによせちゃったり」
八雲は、紫を自分の色と認識して以来、グミはグレープ味ばかり買ってしまうという。
「妹はこれをわかっていたのか」
夜野は、「私の色を着てよ!」という気持ちで、ぷんぷんしていたのだ。
「ちなみにですが」
八雲は少し冷たい表情になっていう。
「昨夜、私は花ノ目さんが明日も紫色のTシャツをつづけて着てくれたらいいのにな、と思いながら眠りました。着てくれませんでしたけどね。喜ばすだけ喜ばしておいて、ね」
「…………」
「それでは練習に戻ります」
俺から離れて、パート練習をはじめる八雲。
なるほど、赤星が二日目に突然冷たくなったのはこういう理由か。
「え? それで俺、どうすればいいの? みんなのご機嫌とるの、難しくない?」
夜野は当然として、赤星も、弱点の虫がいないときは勝気なキャラクターだ。二日目に俺がピンクのTシャツを着てこなかったとき、「私が一番かわいいだろ、どう考えても……」と、すごんできた。白のTシャツをやめた日、月島さんは布団からでてこなかった。そして、シャイな八雲でさえ、こんな感じなのだ。
みんなびっくりするほどアイドル体質で、どうやらマネージャーでさえ、自分のファンじゃないと気がすまないようだった。
そういえば、芽野社長がいっていた。
「あの子たち、全員、自分が一番じゃないと気がすまないタイプの女の子たちだからね。そういう子だけ集めてるから。花ノ目くん、うまくやるのよ」
でも――。
「全員に気を配るの、難しすぎない?」
どうしたらいいんだろう、と考えていると、ふと、ピンクのガーリーなタオルが床に落ちていることに気づく。
明日の服の心配はさておき、とりあえず、俺はタオルを拾いあげる。
「おい、赤星――」
ピンクだから当然のように赤星に呼びかけようとした、そのときだった。
「ごめん、それ、私の」
そういって手を伸ばしたのは青山さんだった。
「あ…………うん」
俺はピンクのタオルを手渡すまでに、一瞬、間をあけてしまう。
青山さんはいつもどおりクールな表情だ。でも、その一瞬の間で、いろいろと伝わってしまう。ほんの少しの、一秒にも満たない沈黙。そして、青山さんは切れ長の目で俺をみつめながら、いう。
「やっぱり花ノ目くんも、私にこういう色は似合わないって思う?」
◇
青山そらの。
おそらく、夜野に次いでファンが多い女の子。
トレードマークのショートカットは、ステージでも、写真でも、いつでも鮮やかな印象を残す。メンバー五人が横顔をみせてならんだ最新のジャケットでは、一番手前が青山さんで、かっこいいと評判だった。
きれいに切りそろえられた髪と、整った輪郭。
そんな青山さんも、夜野たちと同じく、メンバーカラーを持っている。
芽野社長はいつもシンプルにやるから、名前と彼女の印象でそれを選んだ。
抜けるように爽やかなスカイブルー。
でも――。
ミントグリーンのTシャツを着た翌日、俺は夜野に威嚇されながらも、ローテーションとして、青いTシャツを着ていった。けれど、青山さんは夜野や赤星ほどの反応を示さなかった。
「ありがとね」
そういって、少し笑っただけだった。
思いだすのは、俺がピンクのタオルを拾ったとき、青山さんがいった言葉だ。
『やっぱり花ノ目くんも、私にこういう色は似合わないって思う?』
青山さんが自分のカラーについて、なにかしらの思いを持っているのは明らかだった。そして俺はそれについて、アクションを起こす必要があった。
なぜなら、芽野社長から電話で連絡があったからだ。
「最近、そらのがちょっと元気ないんだけど」
芽野社長はさすが芸能事務所の社長で、そういうことがすぐにわかるのだ。
「ところで花ノ目くん、かわいい女の子にへにゃへにゃになる君にとって、こんなに幸せな職場はないと思うんだけど」
「そうですね。もう、認めましょう。俺はちょっとだけ、へにゃへにゃになるタイプです」
「じゃあ、そらののこともしっかりフォローしてあげてね。モチベーションみたいなものが、一番大事だったりするんだから。幸せな職場がつづくためにはグループがうまくいってないとダメなんだから」
ということで、練習スタジオでのことだ。
俺は芽野社長の忠犬として、練習スタジオのすみっこで休憩している青山さんに近づいてゆき、青山さんが話しやすいようにと思って、できるだけ軽いテンションで声をかける。
「どしたん、話きこか~?」
青山さんは、なにもいわず、めっちゃ冷たい目で俺をみる。
「なんか、ごめん……」
俺が謝ると、青山さんは、やれやれといった感じで視線を外す。
「花ノ目くんってさ、たしかに軽いとこあるよね。女の子に超弱いし」
「みんな、そういう認識なんだ……」
「でも、今みたいな軽さは似合わないよ。だって――」
青山さんは最初から当然のように知っているという空気でいう。
「花ノ目くん、そういう軽さ、信じてないじゃん。軽やかで器用なのがカッコいいみたいな風潮がその辺にあるから、なんとなくあわせてるだけでしょ」
「あんまり見抜かないでほしいよ。恥ずかしいから」
夜野なんかもそうだけど、彼女たちは直感にすぐれていて、考えなくても、いろいろなことがわかるんだと思う。だから――。
「別に、きく必要ないんじゃない? 私の考えてること、予想ついてるんでしょ?」
「うん、まあ」
俺はスマホをぽちぽち操作して、SNSの画面をだす。マネージャーをするようになって、SNSをやるようになった。
画面に表示したのは、最近、めちゃくちゃ話題になった投稿だった。
投稿したアカウントの名前は、『芸能チワワ社長』。
アイコンは名前のとおり、チワワが擬人化したイラストだ。



