ぼくと魔女式アポカリプス

魔女の自傷に要する第一代償 ─Letter ①

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 結局──『普通』という言葉は何なのか。

 特別ではないということ。飛び抜けていないということ。個性がないということ。

 日本語学的な定義はともあれ、ぼくにとっての定義は単純だ。

 つまらないということ。

 最近は没個性というがいねんまんふうさつするのが主流のようだけど、もともと大切なオンリーワンなどという歌詞はきっとうそっぱちで、それは街角のどうはんばい一つ一つに名前をつけて一人でえつっているようなものなのだ。たとえそこで一つがこわれたとしても、硬貨を入れる対象が別の自販機になるだけだ。結局すべてが代わりの利くものであることに変わりはない。

 けれども現在のぼくはやっぱり自販機の一つで、どこを見ても同じ学生服しかない教室の中に座っている。周囲ははいいろの絵画的でしかなく、思わずていねんたんそくが漏れた。この『普通』から脱却できる人間はいない。それは真理ではあるのだろう。けれどもぼくにかすかに残っているきようは、な抵抗をめることを許してはくれない。だから──ぼくは、こうしている。

 耳元で甲高い悲鳴。そして何発もの銃声──音が予想外に大きかったのでみみざわりだった。

 もちろんのこと、それはむしゃくしゃしてブチ切れたぼくが銃を乱射してクラスメイトを片っ端からち抜いたというわけではない。

 ぼくはタッチパッドをそうし、DVDを再生しているノートPCの音量を下げる。

 イヤホンをしているぼくには聞こえなかったが、ぶん、クリック音は退屈な授業中の教室に大きくひびいたと思う。しかし視界に見える無数の後頭部は後頭部のままだった。ぼくが好き勝手にひまつぶしている(授業の、ではない──人生の、だ)のはいつものことなので、だれもこちらを気にしていないのだ。かかわり合いになりたくないと思っているのだろう。同じ高校で生活した一年半という期間は、ぼくについての情報が校内にされるには十分すぎる時間だ。

 ぼくについての情報。それは端的に言えば『変人』ということだ。校則を無視して金髪にし、好き勝手に授業時間を過ごす人間。しかし一人称は似合わないぼくで(そうとも、似合っていないのは承知の上だ)、点取りゲームのけんもそれなりにこなす人間。

 キャラが矛盾している。よく言われるし、自分でもそうだと思う。ぼくはしきてきに矛盾を目指していると言っても間違いではないのだから。

 ただの金髪の問題児ならじつひとからげに『不良』という言葉で片づけられてしまうから、それをけようと努力してこうなった。だが結果は同じだ。結局のところ、変人、という普通のカテゴライズに巻き込まれてしまう。人間はあらゆるものを型にめずにはいられない。

 普通にはなりたくない、けれども絶対に普通からは逃れられない。そんな相反したがんぼうと真理に挟まれたぼくは、やはり矛盾に満ちた生き方にかっていた。『普通への抵抗』という子供のわがままじみた行為をり返しながらも、その無意味さを知っていることによるていねんの息を吐き続け、廃人のように適当に日々を過ごす。ただそれだけが、ぼくの人生だったのだ。

 少なくとも、この今日きようという日までは。


 無変化なはこにわであり箱庭でしかない三時間目の授業が終わった後のこと。

 ただいま、四人の不良生徒達が教室のゆかでお休みになっている。当然だ、休み時間だからな。

 いくらぼくが変人とはいえここは学校、近づいてくるやつがいないわけではない。用事があれば委員長などが話しかけてきたりするし、授業中にDVDをかんしようしていれば少し天然な感じの新任女性教師が、ほかの大多数の教師が失ってしまった『教育者としての使命感』に基づく注意を発してきたりする──ろんそんなもの聞きはせず、くつと勢いでにするが。そして近づいてくる奴らの筆頭が、かなり理解不能の言語で『貴方あなたは目立ちすぎなのですよ』『だから僕達はいらっとしています』『とりあえず死んでくださいませんか』などとえんきよくてきに伝えてくる不良さん達だ。こういう勘違いしたカタガタは金髪とか好き勝手やってるぼくが色々と気に食わないのだろう。ぼくはただ『普通』に埋没したくないだけなのだが。

 好んでけんするような性格はしていないにしても、やはりいんねんをつけられて殴られれば応戦するしかない。何もしなかったらただ痛いだけでこちらのえきは皆無だし。こういうイベントは、政治家の悪事がニュースに流れる程度のひんで、まぁよくあることだ──日本は腐っているな。

 というわけで、軽く一戦やらかした後。いきをつきながら倒れただの机だのを直していると、さわぎを聞きつけたのだろう、教室に一人の男性教師が入ってきた。


「どうしたっ!? 何の騒ぎだ!?」


 角刈りでジャージ姿、典型的な体育教師のはせくらたけしだ。さらに生活どう担当という肩書きを加えれば、まさに不良達の天敵とも言える存在なのだが──幸い、ぼくにとってはそうではない。


「大変です、この人達が暴れ出して仲間割れで同時KO事件発生です。困りますね、ぼくの机がちやちやにされて。とりあえずけんしつにでも連れてったらどうです?」

「ぬ……う」


 支倉はまゆを寄せ、倒れた机と不良生徒群を困ったように眺めてしゆんじゆんする。だが結論は一つ、やがて彼はのろのろと不良達を廊下に一人ずつ引きずり出していった。

 そう、支倉はぼくにさからえない。かんたんな話、入学当初に目をつけられて色々あり……ムカついたし、今後の健全な学生生活のかくのために少し動いておいたのだ。いやいやぼくは悪くない。今日きようび都心に出れば高性能な小型カメラとかいくらでも手に入るし、そもそもリアル女子高生とホテルに入ったりする教師が一番の悪だというのは間違いないところだろう。

 ともかくそのおかげで、ぼくは自由をまんきつできるようになった。多少のしようも金髪もスルーだ。支倉はおそらく「気長に接していけばあいつもわかってくれますよアハハどうか私に任せておいてください」とか言って他の教師をだまくらかしているのだろう。ご苦労なことだ。

 教室にへいおんが戻ってから、となりの席のなみそうが声をかけてきた。


「ナイス立ち回り。相変わらずけんぱやいデスな」

「誤解だ。ぼくから売ったことは一度もない。押し売りに抵抗しているだけだ、いつも」


 うそつけ、と草太は机に顔をくっつけたまま笑った。その顔を皆に見せてやりたい……こいつの一人称は『おれ』だが、おどろくなかれ、女子相手だと『ボク』になる。目もきらきらさせて、ニセ小動物系美少年にたいするのだ。ある意味二重人格。ま、個性的なのはらしいことだ。


「はぁ……それにしても、どうにかならないもんかね。大人おとなしく殴られるのもいやだが、あばれても根本的な解決にはならないし。ぼくの疲労がまるだけだ。何とかしてくれよ」

「にゃはは、腕ハグでもしてやろうか? いやし系草太くんの新技だ」

「何だそれ」

「あるだろ、こう……抱っこの姿勢で引っつく玩具おもちやみたいな感じで、女が彼氏の腕をハグするの。最近覚えたんだ、俺がやるとなんだかすごい癒せるらしい。母性をくすぐるっていうか」

「……ぼくは男だ」


 そりゃ残念、とひとしきり笑っていた草太が、ふと欠伸あくびを漏らしつつ言う。


「そういやれい、ニュース見たか? また駅前へんでとお殺人か何かあったらしいぜ。最近の街はなんか雰囲気がおかしくておもしろいよなー。こないだ妙な外人も見たし」

「ストリーキングでもしてたのか。タイホも恐れぬその心意気は今時素晴らしいな」

「俺は妙と聞いてまずその単語を出すお前が大好きだが。違うって。単にファッションセンスがイカレてただけ。金髪眼鏡めがね美女がウェスタンなマントにヘッドホンだぜ!?」