明けの空のカフカ
第1章 空のない空の上で ①
1
「今日こそお願い……お願い……」
両手をからめてぎゅーっと目をつぶり、お願いごとのポーズ。スピーカーから流れ出したゆるい歌とは真逆に、わたしは
『ララニ郡にお住まいの、
「なによ、あなた。わたしはライブに行けないどころか二人の顔も見たことないっていうのに、こんなひねりの無いお便りを読んでもらってぇ……!」
ソファの上で
『ハソン市にお住まいの
「くっ。次!」
『カシギア市にお住まいの
「次!」
『というところでお時間なのにゃ』
『みんな、お便りいつもありがと。採用された方には
『ばいにゃ〜ん!』
「ウワーーーーン!」
はい、これで九連敗。フェードアウトするジングルといっしょに意識まで遠のきそう。
わたしは「なんとなく」
今回のお便りは五日かけて完成させた力作だった。一体何がダメだったの? 空の上からの
『この後のお天気です。シパーフ郡、晴れ時々くもり。東の風、のちに南東の風。予想最大風速は三メリル。夕方にかけて、急な
ラジオのツマミをくるりと回して音量を下げた。天気予報なんか聞いたってほとんど役に立たないんだもん。
だって起き上がって窓の外を見てみたって、そこに青い空なんてない。わたしに見えるのは岩の
コンコンコン!
「うおーいカフカちゃん! 畑で使う
「うわ出た」
「えーっ。このあと聞きたい番組あるのに」
「録音したらいいじゃないの。先行っとるぞ」
毎日こんな調子でじじばばたちのお手伝いをしていたら、一生かかっても外に出られる気なんてしない。
だって今わたしを呼びに来た長老は今年七十二歳になるのに「カフカちゃんのためにあと百年は生きるぞ!」って
もう、仕方ないんだから。ラジカセの横に積んであるカセットテープの山から一つを
おじいちゃんのにおいはもう消えちゃったけどね。
わたしの名前はカフカ。十二歳。お年寄りばっかりのこの
わたしが暮らすこの村は空の上、
なんでこんな不便なところで暮らしているんだろうって、ここで育ったわたしですら思うよ。さらに不思議なのは、こんな村に二十人も暮らしていて、だれもここを出ていこうとしないこと。
「はぁーあ、いつか体からきのこでも生えてきそう」
「わふ?」
ぼやきながら、きのこ
「結局最初のお願いついでに別の仕事まで手伝わされたの。人使いが
ダウに
「って、もうすぐバレンさんが来る時間だ!」
ギギギギ。村の入り口で大きな飛行船がシャッターが開ききるのをお利口に待っている。バレンさんの商船だ。
シャッターが上がりきって、ぽっかり空いた岩の港に大きな飛行船が入ってきた。顔見知りの船員さんが
「ようカフカ。元気だったか?」
「元気だよ! お
「やっほー。今日はなにしてたの?」
「メリさん! いつも通りだよ。
船員は二十歳から五十歳までの男女六人。みんなわたしのことを気にかけてくれて、すごくいい人たち。いろんな話を聞かせてくれるしね。
そして最後に降りてきた背の高いおばちゃんがバレンさん。この商船の船長さんなんだ。
「バレンさん、今日は積み込むきのこがいっぱいあるよ」
「そうか」
バレンさんはむすっとしたままわたしの頭に手をぽこんと置いた。いつも無口で
ギギギギ。またシャッターが閉まっていく。もこもこの入道雲が見えなくなって、
それをぼーっと見ていたら、バレンさんがわたしの白い
「積み荷を降ろすぞ。……終わったら船に来い。あいつらも楽しみにしてる」
「あ、うん!」
バレンさんたちが来る日は、船員のみんなに外の世界の話を聞かせてもらうんだ。これがわたしの数少ない楽しみの一つ。
最後にほんの少しだけ、



