亡命天使 ~窓際外交官は如何にして終末戦争を阻止したか~
エピローグ たまには、わがままを ④
サピンが
「俺はラジャみたいに、【
目を閉じると、
人は、【
「これは、俺がやりたいことなんだ。悪いが、ラジャを死なせないことは、ついでだよ。そして、【
サピンの心は、司法省の小さな部屋に戻ってきていた。目の前に、大きな瞳でサピンを見つめる、ラジャの姿がある。
「俺のために、協力してくれないか? ラジャ」
時が止まったような静けさが、部屋に訪れた。
窓から差し込む鈍い陽光の中を、白い
ラジャは目を見開いてサピンの瞳を見つめていたが、やがて、無言で
「……契約成立だな」
サピンは微笑を浮かべて立ち上がる。
「さあ、これから大変だぞ。どうやって亡命を承認させるか……ラジャの身分は明かすわけにはいかないし。でも、帝国に迫害されてるところはエンシュロッスも目撃してるから、とりあえずあいつを丸め込むか」
サピンの頭はもう切り替わっていた。【
ラジャは、そんなサピンを
(やっぱり、戻ってきてよかった)
「ん? 何か言ったか?」
よく聞き取れずに振り返ると、ラジャは顔をあげる。
(私が戻ってきたのは、あなたに協力をお願いするためです。でも、それだけじゃなくて)
その瞬間、
(それだけじゃなくて……私、サピンさんにもう一度会いたかった。だから、今、とても
そう言って浮かべられた表情は、間違いなく、笑顔だった。
サピンは驚きで硬直した。同時に、激しく動揺する。笑った。ラジャが。そんなことがあるとは思わなかった。ラジャの感情は、
サピンは何かを誤魔化すように
「そ、それはどうも……」
情けないことに、出てきた言葉はそれだけであった。
ラジャは、使命のためだけに生きてきた存在。今回自分の元に戻ってきたのも、【
人は、色々な面を持っているものだ。それを知り尽くすのには、時間がかかる。だが、ラジャという人間を知るための時間は、まだ、それなりに残されているはずだ。
かつて、砂漠化した世界で、滅亡寸前の人類を助けるために生み出された、
だからサピンはもう、ラジャの命を、誰かのために枯らさせるつもりはなかった。
サピンは小さく息を吐くと、ラジャの方に体を向け、少し改まって背筋を伸ばした。ラジャも、何かを察して姿勢を正す。そしてサピンは身をかがめ、ダンスにでも誘うように、ラジャに向かって手を差し出した。
「少し遅くなったが……ようこそ、アルトスタへ」
ラジャは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにまた笑みを浮かべる。
(はい。ありがとうございます)
ラジャの小さな手が、柔らかく、サピンの手を握り返した。



