4:2024年 台湾サイン会のお礼SS
シェア・おまけのマルセル
「――いや、テーマ“シェア”だろ!? なんで俺だけぼっちなんだよ!?」
苦茶を片手に天を仰いでマルセルは嘆く。なお苦茶は、たまたま行きあったシデンが、ちょうど二つ買ったところだったうちの一つを押しつけて去っていったものだ。
とりあえず、なんで買うだけ買っていなくなるのかとマルセルは思う。苦茶と名前にまでつくからには苦いのだろうが、一人では苦がっていてもなんだか虚しい。せめて誰か横で笑ってほしい。
まさに遠慮なく笑ってくれそうな人物とその従者がやってきたので、マルセルは思いきり指まで指した。
「ヴィーカ! 苦茶シェアしようぜ!」
ヴィーカもついでにレルヒェも今更気を悪くするでもなく、ただしヴィーカは察した様子でしれっとのたまう。
「悪いが、俺は王子だ。毒味を終えていないものは口にできない」
もちろん、ヴィーカがそんなこと気にしたのは今まで一回だってない。
「で、ござりますれば。それがしは飲食は出来ませぬゆえ、あいすみませぬが管制官殿……」
「だよな! そうだろうとは思ってたんだ! わかってた!」
レルヒェも悪ノリし、マルセルも一人が嫌だっただけだ。大げさに嘆いた勢いのまま、マルセルはコップの中身を一気に半分ほど呷り。
「……あー。なんだ、体によさそうな味じゃん」
拍子抜けして呟いた。たしかに、ちょっと癖があるかなとは思うが、すっきりするし飲みやすい。
シデンが押しつけて去った理由もなんとなくわかった。気に入ったから誰かとシェアしようと二つ買って、そこにマルセルが来たから一つくれただけだった。
悪いこと思っちまったなー……と、マルセルは反省する。
そしてマルセルはそこまで期待していなかったのだが、割と律儀な王子殿下はマルセルの手からコップを取り上げると、残った苦茶をまるで銀のゴブレットを扱うように優雅に干した。
そして優雅にむせかえった。
「えっ!? 嘘だろソレ!?」
「卿、これが苦いと感じなかったのか!?」
まさかの事態に、二人そろって愕然と顔を見合わせる。
そしてレルヒェは忠義な彼女にはたいへん珍しく、主人の苦境に思いきり噴き出してそのまま笑いすぎて動けなくなっていた。



