二章 図書委員は仲間を募る ⑤
そもそも多くの探索委員が『卒業で終わる』感覚でやっていることだ。学校としても年々入れ替わる生徒達にさせている。全体として問題は特に無い。
(ならなんでやる気になってんのか、っつーと)
(──僕が)あの日の景色が脳裏に浮かぶ。(僕がそうしたいからだな)
「あ、すごい。
「ぐぇぇぇ」鳥が絞められたような声を喉奥から発した。
「ど、どしたの?」
「あー、分類シールと登録用バーコード……貼る前にコートしちゃったね。ま、上から貼っちゃおうか」
「ぐぎぎ」
○
「うーむ、これ、ちょっと見込みが甘かったかな?」
翌日の昼休み。
(
プリントの内容は図書探索委員の名簿コピーだ。
「二十数人に声かけて全滅か。今日で駄目だとまた来週、かな」
土日は基本的に図書館もお休みなので(フブル司書と、迷宮書庫アタック希望の探索隊はいる)、誘いをかけることも出来ない。
苦悩に目を閉じ、眉をハの字にして、デザートのシャインマスカットを口に運んだところで、箸の先から重さが消える。
「?」
「おいしー。日本の果物すきー」
目を開けると、目の前で口をもごもごやる空色の髪が見えた。
「お困りのようですねせんぱ」
「エスキュナかあ」
「スルーした! カワイイ後輩の文句スルーした!!」
自分で言ったよ、と思いつつ、
「あっずるい! もう一個欲しかったのに!」
「もぎゅもぐ……んぐ、僕も好きなんだよ、シャインマスカット」
種まで取られた食用特化感がたまらない。お前それ捨てていいのか。
「んで何の用なの、後輩さん」
「むぐぐ! 扱いがぞんざいですね! なんですか人が助けてあげようとしてるのに!」
かくん、と
「聞きましたよ! メンバー探してるんでしょう? 水くさいですねせんぱい、ここに頼れる後輩がいるじゃないですか!」
「ド初心者の僕と一緒に仲良く遭難した後輩しか見えないな」
「むかぁー! 随分な態度ですね! 次はわたしのカッコいいとこ見せてあげますよ!」
冗談はさておき。
「色んなとこ入って品定め中って聞いてたから遠慮してたんだけど。いいの? こんなメンバーも
こくこく、とエスキュナが
「えへへ~実はどこもなんかびしっと来なくて……」
「クラスに
「失敬なクラスの人気者ですよわたしは。ほら、あんまりガチなの怖いじゃないですか」
「ゆるいなあ」
腕組んで、大丈夫かな、と思う
「それに、ですね」エスキュナが続けた。「助けに来てもらって、
「……エスキュナ…………」「えへへ」
「………………」「えへへ……へ」
さらに。もう少し見つめる。やや頰が引きつった。
「……あ、あの、その、どうしたん、ですか?」
「なんでこの前の当番の時言わなかったの、それ」
さく、と言葉で刺してみる。エスキュナの目が泳いだ。
「その、すぐ入ろうとしたら軽く見られるかなあって……困ったとこに来た方が、その、ありがたく思ってくれるかと……」
軽い沈黙が落ちた。再び薄く笑って、続けて問う。
「本音は?」
「お願いしますわたしも入れてください! もうぼっちは嫌ですぅ!」
半泣きでひっしと
「他のとこに入れてもらってもなんか居心地悪いんですよう! お願いしますせんぱい! 入れてください! もうわたしせんぱいじゃないと駄目なんです!」
「言い方ぁ!」
晴れた中庭。昼休み。人がいない訳ではない。大声。
はっ、と
「あらあら」「ちょっと、あれ……」「まあまあ」「やっぱ外国は進んでるな」「お熱いことですなあ」「男の方爆発すれば良いのに」「風紀が! 風紀が乱れてるわ!」
「……うわあ! やめろ! 誤解が広まる前に今すぐ離れろあっち行けー!」
「誤解ってなんですかぜったい嫌です! せんぱいが入れてくれるまで離しませんからね!」
色々な蔑視を受けつつ、
「……以後、注意するようにな」
「はい……」「はーい!」
放課後。呼び出された生徒指導室からしょんぼりと出る
「押し切られた……。まあ……まあいいか……。これであと一人」
苦々しい思いながら、
「さて、見つかるかどうか」
「
わたしが二人分働きますよ! と
(絶対あと一人捕まえよう)
○
そして。翌週。
「見つかった?」
「ダメデス」
べちゃり、とカウンターに突っ伏す
「あたし一応役員なんでサボれないんだけど、探索委員なると当番サボりがちになる子多いからさ~」突如、声色が変わる。「スッサーも潜るようになったら来なくなるんでしょ……」
よよよ、と
「いやまあ、結構楽しいんですよ
言っているそばから一般利用者がやって来る。
「ええと、子供が言ってる絵本が見たくて……」
「タイトルはどんなんです?」
蔵書検索画面を開きつつ聞くと、ママさんらしき女性は続ける。
「分からないんですけど……その……恐竜が出てくる……」
(こ、これは厳しい案件だぞ)
「どんなお話かは分かります~?」
「ええと、うちの子は病院の外に恐竜が出るって」
(なんだそれ)
ということを、絵本の展開に言っても仕方ないということはここ数ヶ月で
(うどんが川渡った時には戦慄したからな)
思いつつ、モニタ上にリストアップされた絵本達を検討する。病院があるので、実際に恐竜がいた大昔を舞台にした系は除外。
「んー……これか、これか……すんません、カウンターお願いします」
「はいよー、行ってらっしゃーい」
とりあえず候補に選んだ本のデータをレシート印刷して探してみる。ママさんと一緒に絵本棚を探索探索。
「これは?」「違い……ますね」
「これでは?」「違うと思います」何度か繰り返し、
「むむむむむ……」
手持ちの書誌情報が尽きた。もう一度、と戻りかけるところで
「ご面倒おかけしてすいません、もう一度こっちで調べてきますので」



