一 南の海に雪は降らない ⑧
たったそれだけの理由だと理解して、ラザルスは
というかそれ以前に、
(俺は善意と悪意の違いは学んだが、他人に向ける善意は雑なままらしいな)
とラザルスは自分に向けて
『目を
ラザルスは少し悩んで、両腕をリーラに向かって伸ばした。
「…………っ」
伸ばされた手を見て、リーラは自分が殴られるのだと思ったのだろう。彼女の肩がびくりと跳ねて、しかしラザルスの手は彼女の頭の両側に触れただけだった。
「ちょっとじっとしてろ」
リーラの耳を両側から
「どうせすぐに終わるから、そしたら飯食って出るぞ」
そういってから、自分の手で耳を
「何やってんだかなぁ」
怪しげな行動をしているせいか、闘鶏の最中だというのにちらちらと視線が集まっているのが分かる。だがこの帝都で怪しい人間というのは珍しくもないので、強いて話しかけてくる
触れられているリーラが石のように固く身を
「…………ほんと、何やってんだかなぁ」
赤コーナーの鶏が、青コーナーの鶏にとどめを刺していた。



