第一話 鋼の蜘蛛と《伽藍堂》 ④
「戦場の歩くご
「まあ、網を置いときゃとれるんだから、いい食糧だよな。……でも、どうして絶滅してないんだ? こんなにおいしいのに」
「うーん、やっぱり気持ち悪いんじゃないかな? 見た目が」
「おい」
そうこうするうちに、手袋をはめたウカは装甲から肉を
「……あひゅい」
「よく火が通るよって言ったのに。お味は?」
「うーん、ちょっと肉がパサつくかなあ。
「なるほどねー。グラタンとかに入れたら合うかも」
「……作ってくれないの?」
「残念だけどお肉以外の材料があんまりないの。お店の分だけ」
むーっ、と
「ちょっと待っててね」
中華鍋に
「どうかな? 戦車肉の戦車あんかけだよ」
「やっぱり、店で出す場合、名前は後で考えような……」
そう言いつつ、あんを
生来の猫舌もなんのその、はふはふと熱い吐息を漏らしながら、リコは食べる。まだまだ食べる。大皿一品が、たちまち胃袋の中に消えていく。
「うまいっ、めっちゃうまいっ!」
火が通り過ぎて水気を失っていた肉も、あんかけにすれば大逆転。濃厚な甘みがあんに溶け込み、肉とほどよく混ざり合う。
これなら何皿でもおかわりできそうだ、と思いつつ、不意にリコの手が止まったのは、目の前でじっと自分を見つめるウカに気付いたから。彼女はリコの食いっぷりに至極満足そうだったが、やはり
「ほら、ウカも食べなって」
「え、いいよ! 自分で食べられるし!」
「いいから、ほら、早く! 熱いうちが
「……分かったよー……」
カウンター越しにウカは背伸びをする。リコが差し出した一切れをぱくりと食べると、つぶらな瞳が見開かれた。
「な? すっごく
「……」
「……あれ? そうでもないか?」
「……おいしいけど……」
むぐむぐと口を動かすウカの眉間には、それでも小さな
「……また、わたしのこと子供扱いしてる」
「してないって。単純に、ウカの顔に『食べたいよー』って書いてあったんだ」
「もー、リコちゃんと一緒にしないでっ!」
ウカはやにわにリコから皿をひったくると、猛烈な勢いであんかけ肉を食べてしまう。不意を突かれたリコは口をあんぐりと開け、肉が消えていく様を見つめるばかり。
「あーっ! オレの戦車肉、全部食いやがった!」
「独り占めしてるリコちゃんが悪いんだもん!」
「んだよ、やっぱり食いたかったんじゃん! ったく、ウカは素直じゃないなあ」
「はいはい、そーですよーだ! わたしは素直じゃないし、子供っぽいですよーだ! でも、リコちゃんの方がもっと子供っぽいんだからね!」
「なんだとー! オレのどこが子供っぽいんだよ!」
「見たらわかるもん! ほら! 今だって、ほっぺをあんで汚してるし!」
ウカの指さす右頰を、リコは手でぬぐい取る。きまりが悪そうに顔をしかめる彼女だったが、すぐさまウカの顔を見つめると、にんまりと満面の笑みを浮かべた。
「ウカだって、汚れてるじゃんか」
「え?
慌ててウカがごしごしと口元をこすった途端、リコが叫ぶ。
「
ウカは新雪のように真っ白な顔を耳の先まで赤に染め上げ、押し黙った。しかし、リコは不意にウカの頭を
「あーあ、うまかったなあ! やっぱ、ウカはすごいよ。何作っても、間違いないもん」
するとますますウカの頰は鮮やかな紅に染まるのだが、彼女はじっとリコを見上げ、それから小さな
「……当たり前でしょ。わたしは《
「うん、そうだな」
「……それに……」
「……それに?」
「……リコちゃんも、重たい荷物運んでくれて……ありがと」
「ま、オレは《
思わずリコの口から
「後片付けはわたしがやっておくから、少しお昼寝したら?」
「うーん……そうする。今日は夜も忙しくなるだろうしな……」
「そうだね、記念すべき新メニューも加わったことだし」
「でも……名前を……考えないと……」
全てを言い終わる前に、リコは机につっぷし、すっかり眠りに入る。その寝顔に柔らかな
同居二年目に突入した、春の昼過ぎ。
穏やかな《



