としれじぇ ジャンル《都市伝説》 ⑩
斧を投げ捨てれば良かったのだが、彼は
よって斧を捨てる事もできずに、彼は夕暮れの中を
「待てコラァッッッ!
後ろを振り返ると──顔から血をドクドクと流した血まみれの男が、抜き身の日本刀を持ってこちらの姿を探している。
血で
──助かった。
そう思ったのも
靴を
☆
「
血まみれになった角刈りの男は、日本刀を手にぶら下げながら日の暮れかけた町を歩く。
幸いな事に通りに人は無く、彼の事を
窓から外の
☆
あれからどれぐらい
僕はどれぐらい逃げ続けたんだろう。
だけど、
気が付いたら、僕はまた見覚えのある
もう、走れない。
走る気力はある。
それなのに、足が言う事を聞いてくれない。
生きたい。どんな
彼はどこかに
赤い屋根のアパートに戻る気にはなれない。彼は
まさか
そう考えながら、彼は
道路の方から聞こえて来た会話が、彼を恐怖の世界へと引き戻す。
「いたか!?」
「いや、こっちに戻って来たのは間違いねえみてえだが……」
──どうして!? どうしてここが!?
「見ろ、やっぱりこのあたりだ!」
「あの
その会話を聞いて、少年は思い出す。
彼は先刻、自分の足を
同時に、彼は自分の足が
足が言う事を聞かないのも
だが、その奇跡ももう終わったようだ。
自分の
──嫌だよ。死にたくないよ。
子供がダダをこねるように、彼は夜空を見上げながら何度も何度も
──死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない……
誰でもいい、神でも
そんな事を思いながら、気が付くと少年は
誰でもいい、誰か助けを──助けを呼ばなくては──
彼がすがるべき何かを探して、周囲を見回したその瞬間──自分が寄りかかっているアパートの窓の一つから、青白い光があがっているのが見えた。
まるで、部屋の中で青い
彼がその正体について考える
「……いたか」
「あ、
「俺はいい。それよりもあいつは
冷静な
「どうも、この辺に
「……探せ」
──もう
彼が恐怖に押し
ぐぉおぉあぁおおあぁおあゎあぁおあぁおあ
どこからともなく、周囲に人間と
「なんだ……?」
それから更に数秒後──
ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁ
再び、苦しみを訴えるような
そして──アパートの敷地の入口へと逃げるように、体の所々に火を
「がぁぁぁああぁぁッ!」
斧を持ったその男──殺人
だが、その斧が振り下ろされる直前、
「がヵぁあああぁあッ!?」
殺人
ギャアァァアァァァァァアアァァァァァぁアアァァァァァアアアァああぁぁっぁぁぁあああぁぁぁぁっぁアァァア
夜の
それを聞いていたもう一人の斧男は、プロパンガスの影から、その
いつまでも、いつまでも──
☆
あとは
倒れた斧男を五~六人がかりで
ひとしきりのリンチが終わると、角刈りの男が無表情のまま腰をかがめ、
「てめぇ……さっきから俺のベッドの下に
既に虫の息になっている男に対し、角刈りの男は感情を抑え込んだ目で語りかける。
「約束通り──死んだ方がマシって目に遭わせてやる。……それまで死ぬんじゃぁねえぞ、この
その言葉に続けるように、スキンヘッドが
「
「……そうか、じゃあ……死んだ方がマシな目の一番最初は──舌を引っこ抜くところから始めねえとな……」
それだけ
残された男達はその言葉に無言でうなずくと、そのまま殺人
後に残されたのは、
☆
夢だったのだろうか。
僕は静かに、今しがたの出来事を考える。
いや、やっぱり夢じゃない。僕の足はいまだに痛みに
ということは、今の異常な光景の方が全部偽りだったという事だ。
これからどうすればいいんだろう。
どうすれば、僕は日常に戻れるんだろう。
そんな事を考えていると──僕の耳に、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。
ガスボンベの陰からそっと
なんてこった。
こんな状況になってようやく巡り合えるなんて。
だけど、僕にはもう彼らを殺す気力は無い。
生きている。
今、こうして生きている。
それだけで十分だ。僕の人生は満たされた。
ああ、なんていう充実感なんだろう。
僕がそんな事を考えている間にも──あの
「ルル、さっきの質問だけどさ……」
「え……?」
「俺、ルルの事が好きだよ。ああ、好きだ」
「ムー……」
なんだよ。血溜まりを前にして
どうなってるんだこいつら。
「今日みたいな事があって
もっと気の利いた事を言えよ。せっかく星空の下なんだからよ。
「ありがとう……ムー……ごめんね」
どっちだよ。
「私も──ムーの事、好きだよ」
後は二人で抱き合うだけだった。
ああ、くだらない。やっぱり想像通りにくだらない二人だ。せっかくの非日常なんだからよ、もっと気の利いた事は言えないのかね。
僕はそう思いながらも、どこかホッとしてた。
そうか、二人はこれでちゃんとした恋人同士になったのか。
ってことは、僕はちゃんとした理由でフられたって事になる。今日の
そういう事にしよう。僕の中でそういう事にしよう。
明日からまた人生をやりなおそう。
今日を生き抜けたんだ。
そうだな、明日から新しい人生を歩むにあたって、まずは──
この
腹が立つぐらいに
斧の鈍い
『としれじぇ』──完



