プロローグ

 アンドロメダせいうんを少し南に行った三丁目。

 そこに特設会場はあった。

 宇宙色彩りゆうの力でドーム状に張られ、まるで透明な膜のように宇宙空間に浮かぶホールをおおっていた。


「それでは第七百六十しんの結果を発表します」


 審査委員長の声が響いた。


「銀河連邦警察機構公式採用、はんようパワードスーツは、エメラルドカンパニー製ネルロイドX、株式会社オタンコナス製スットコドッコイ。この二つが最終審査の対象となります」

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 タンポポ・トコドッコ・ポポールは喜びの声を上げた。

 プロジェクトチームに飛び込んでから早くも五年。赤字かくで研究を重ね、チーム全員が一丸となって作り上げたパワードスーツ。それが公式採用の最終審査まで残ったのだ。

 注ぎ込んだ情熱の分だけかんがいもひとしお。

 ここまでの道程はひつぜつしがたいほど苦しくつらいものだった。

 同じように採用を目指して三万二千三百六十三もの企業が研究し開発し発表したのだ。それから何百回ものテストを終えて現在にいたる。

 しかしだれも想像しなかったであろう。

 それまで宇宙がんを作っていただけの会社に過ぎない株式会社オタンコナス開発のパワードスーツが最終審査まで残るとは。

 同じく最終審査に残ったエメラルドカンパニー製ネルロイドXを打ち破れば、公式採用が決まり弱小企業である株式会社オタンコナスはいつに巨大企業へと発展するだろう。

 だがタンポポにとってそんな事はどうでも良かった。

 一番大切なことは自分が作り上げてきたものの価値を皆が認めてくれるということである。

 それが喜びだった。


「あとひとりだな」


 チーフメカニックであるタケムッチョが、しよくしゆをウネウネ、体をくねりくねり動かしつつタンポポににじり寄った。

 タケムーラ星出身の彼には骨というものがない。したがってどうしてもこのような不自然な動きになってしまうのだ。


「勝てればいいね」


 タンポポは満面の笑みでそれに答える。

 そんなタンポポの後ろからグニョ~~~ンとびる二本のしよくしゆ。その先には巨大な眼球があった。


「希望を持てよ」

「マルマル」


 タンポポがはなやいだ声をあげて振り返る。

 そこには巨大なカタツムリがいた。

 いやそれをかたつむりと形容していいのかどうかは分からない。

 全身から無数の触手をばしてそれぞれに工具をにぎり締めている生物など常識では考えられないから。

 マルマルと呼ばれたそのカタツムリ男は歯のない口を開けてのろのろとした口調で語る。


「ぶぉくにできることは整備だけだぁ。ぶぉくが長年つちかってきた玩具オモチヤ作りのノウハウはすべて注ぎ込んだぁ。後は信じるしかない」

「でも、あのエメラルドカンパニーと同じひように上がっただけでも、すごいじゃないか」

「何言ってるんだ。ここまできたらもう勝利しかないぜ」

「勝利だ」

「勝利!」


 盛り上がる株式会社オタンコナスプロジェクトチーム。

 彼らのはいからゆっくりとしたはくしゆの音が響いた。


「正直驚きましたわ」


 かわいらしい声だった。

 タンポポは振り返り、そして声を上げた。


「うわ~~かわいい!」


 そこには体長三十センチ程度のみような動物がいた。

 ネコタヌキを合体させそこにウサギを加味させたような妙なふうていだがハッキリ言ってめちゃくちゃ可愛かわいらしかった。


「わてをかわいいかわいいと形容するな!!」


 小動物はげつこうすると細長い尻尾しつぽを振り上げた。

 そのぐさがこれまたかわいらしい。


「ハナモモンチョ」


 マルマルがかすれた声を上げる。


「誰? あのモモンガ星人?」

「知らないのかぁ。エメラルドカンパニー、ネルロイドX開発主任、ハナモモンチョ・モンチョッチョ・モンブランだぁよ」

「え~~~こんなにかわいいのが」


 タンポポの黄色い声は無視することに決め込んだのだろう。ハナモモンチョは左右にピンと飛び出したいとひげ可愛かわいらしく小さな手でなでつけた。

 そしてべつの色の混じった口調でき出した。


「しかしえらいくつじよくですわ。古くからぐんじゆ産業を一手に独占してきたこのエメラルドカンパニーが、たかが玩具オモチヤ会社のそこないと比較されることになるとは」

「てめえ」


 タケムッチョがうねうねとしよくしゆを動かした。その体が真っ赤に変化する。

 タケムッチョに代表されるなんたい人種はおこると体色が赤みを帯びる特性がある。

 そんなタケムッチョをさらにげつこうさせるかのごとくハナモモンチョは続けた。


「まぁ。せきもここまでや。最終しんはわてらがいただきますねん。わてらのけつさく、ネルロイドXは、あんたらのぐうぜんと運と奇跡でい上がってきた玩具とは訳が違いますよってな」


 ハナモモンチョは笑い声を響かせつつ去っていった。

 本人は悪者的演出にっているのかもしれないが可愛らしくて腹も立たない。


「確かに、あっちは業界大手の軍需産業の会社だからなぁ。こんな玩具会社相手にならないかもしれない」


 スタッフの一人のぼやきがタンポポの耳に飛び込んだ。


「そんなことないもん」


 タンポポは振り返るとスタッフ一同をにらみ上げるようにして叫んだ。


「皆で一生けんめいやったじゃない。雨の日も風の日もあらしの日もしようわくせいぐんが研究所に降り注いだ日だって皆でかささして作業を続けたじゃない」

「静かにしろ。タンポポ」


 タケムッチョが触手をタンポポの前に突き出した。


「最終審査の方法が発表されるぞ」


 タンポポは押しだまるとひようせきへと目を向けた。

 審査委員長が立ち上がる。

 指を鳴らすと空中に光が走り、そこにスクリーンを形成する。そしてそのスクリーンに惑星の映像が映写された。

 青色が地表面積を占める割合がかなり多い惑星だった。


「最終審査、その場所、その方法は」


 かくしやくたる口調で響くその声をタンポポはきんちようしたおもちで聞いていた。

 その胸には熱い決意があった。

 くだらない玩具会社とさげすむ連中にひとあわふかしてやると……。

刊行シリーズ

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住めば都のコスモス荘SP 夏休みでドッコイの書影
住めば都のコスモス荘(4) 最後のドッコイの書影
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