モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

2章5話

 なんだかいい雰囲気になりながら、俺たちは昼食を取る。


 日本最古のこの遊園地には、日本最古のハンバーガーチェーン店が構えている。


 そこで一緒に、華やしき限定のコロッケバーガーを食べた。


「わー、おいしい! 素朴な味わいっていうか。この遊園地にぴったりの味だね!」


 喜んでくれてよかった。ちなみにフライツリーのレストランと比べたら値段が断然安いので、俺の財布にも優しい。


「ごちそうさまでした。アラタくん、ごめんね。おごってもらってばかりいて」


 問題ない。パティアもマーリィと同じでこの世界の金を持っていないし、最初から織り込み済みだ。


 ……ただ、今後のデート代を考えたらやっぱりバイトを探すべきだよなあ。


「あっ……。アラタくん、じっとして?」


 おたがい食べ終わったところで、パティアが身を乗り出した。


 パティアは俺の口元に手を伸ばし、指を添えたあと、その指を自分の口に含んだ。


「ンっ……。ソースがついてたから、取ってあげたよ」


 なんだと……! 奇麗にしてくれただけじゃなくて、口にも入れるだなんて!


 これ、恋人同士がよくやるやつ! でもフィクションでしか見たことないやつ! 都市伝説でしかないと思ってたのに……!


『マスター。いちいち心の声がうるさいのですが』


 おまえのツッコミのほうがうるせえんだよ。


『心の声などなんの生産性もありません、どうせならはっきりと口にしてパティアさんを口説いてください』


 できるかよ。もしパティアに引かれたらどうするんだよ。ていうかおまえはマジで俺の心を読んでるのかよ。いったいどんなテクノロジーだよ。


『マスターはヘタレですね、やれやれ』


 こっちがやれやれなんだよ。これまでは情けでメッセージだけは目を通してやってたけど、マジでそれすら無視してやるからな。


「アラタくん、どうかした?」


「……なんでもない」


「じゃあお昼ご飯も食べたし、次はどこ行こっか?」


 店を出ると、パティアはそれが当然であるかのように、俺と腕を組む。


 どこをどう見ても今の俺たちはカップルだろう。


 ……じゃあ、たとえば俺が告白すれば、パティアはうなずいてくれるのだろうか?


「アラタくん、あれってなに?」


 パティアが指を差した先は、縁日のスペースにある店のひとつ、射的だった。


「鉄砲が置いてあるみたいだけど……どういうアトラクションなんだろ」


「……あれ? 異世界にも銃ってあるのか? 科学は発展してないって聞いてたのに」


「魔力を使って弾を撃つマジックアイテムがあるんだ。あたしも使ったこと……じゃなくて、見たことくらいはあるよ」


 ……なにか誤魔化したような?


 とりあえず射的のルールを教えると、パティアは名案とばかりに言った。


「オモチャの銃で景品をねらえばいいんだね。だったらアラタくん、あたしがいっぱい景品取ってあげる! 今日のデートのお礼にプレゼントしてあげるね!」


「……そんなの気にしなくていいのに」


 というか、射的は初めてだろうに、やけに自信満々なんだが。


 ……本物の銃を使ったことがあるんだろうか。


「アラタくん、射的の景品じゃお気に召さない? お礼はもっと違うものがいいの? たとえば……エッチなことのほうがいいとか?」


「…………」


「景品じゃ物足りないなら……あたしの身体をプレゼントしよっか? アラタくん、あたしをお持ち帰りする? アラタくんなら……あたしのこと、好きにしてもいいんだよ?」


 はい……! それでお願いします!


 と言える勇気はさすがにない! だって俺たちはまだ恋人同士じゃないわけで!


「アラタくん……ダメ……?」


「い、いや……ダメじゃないけど、ダメっていうか……」


「……アラタくんになら、あたしの初めて、あげてもいいのにな」


「…………」


「あたしは、アラタくんにマーキングした……。キミはもう、あたしが心安らげる相手……。だったらキミと、エッチするのは……とっても幸せなことなんだよ……?」


「…………」


『またフリーズですか。何度もヘタレないでください、ザコのマスター』


 言われるまでもない……! 据え膳食わぬは男の恥だ!


 俺はついに、パティアのおかげで初体験を……!


「本気にした?」


 気づけば、パティアはニヤニヤと小悪魔な笑みを浮かべていた。


「マーキングしたのは、恋人になりたいって意味じゃないよ。友だちとしてよろしくねってことだよ。アラタくん、勘違いしちゃったの? かわいいんだから」


 ……べつの意味でフリーズするしかない。


『やれやれ。パティアさんはからかいがいがあると思っていることでしょう』


 でしょうね! ていうか無視するつもりがついおまえのメッセージを見ちまうよ!


『そして私もマスターのことはからかいがいがあると思っています』


 ナビゲーターにあるまじき発言……! いつか目にもの見せてやる!


「あはは。かわいいアラタくんのために、あたしがエッチじゃない景品取ってあげるね」


 エッチな景品のほうが欲しいんですけどね! ヘタレなんで言えませんけどね!


 俺が店員に金を払うと、パティアは慣れた手つきで銃を構えた。


「弾は全部で五発……。この射程距離なら全弾命中は当たり前として、ゴム弾だから跳弾も利用できそうだね。景品を五個以上取れるんじゃないかな」


 セリフが様になってるのはなぜなんだ?


 パンッ!


 景品をねらって発射したパティアの弾は、どこにも命中しなかった。


「あれ、弾がまっすぐ飛ばない……? 影響が出るような風も吹いてないのに……この銃、整備不良なんじゃない?」


「……えっと、パティア。射的の銃ってそういうものなんだ。簡単に照準が合ってしまったら、うまい人が景品を取り放題になってしまうから」


「そっか……なるほど。弾がどの方向に飛ぶのかランダムだとしたら、射程距離を短くするしか対応策がなさそうだね」


 パティアはそう言うと、腕を目いっぱい前に伸ばし、さらには身も乗り出した。


 前かがみになったことで、スカートの奥が見えそうになる。


 ……まさかマーリィと同じで、はいてないってことはないよね?


「次こそは仕留めてあげる……!」


 パンッ!


 パティアが放った銃弾は、ねらった景品にめでたく当たった。


 景品はぐらぐらと揺れたが、倒れるまでには至らなかった。


「やったあ! ミッションクリアー!」


「……いや、パティア。目標が倒れないと、景品をもらうことはできないんだ」


「仕留め損なったってこと……? くうっ、一撃で息の根を止めないといけないんだね」


 表現が物騒じゃありませんか?


「だったら銃の威力を上げるために、もっと射程距離を短くする……!」


 さらに前へと身を乗り出したパティアは、スカートの奥もまた比例して見えそうになっていた。


 くっ、もう少し……!


「ロックオン! ファイアー!」


 パンッ!


「やったあ! 目標、ちゃんと倒れたよ!」


「そ、そっか」


 結局、スカートの奥は見えそうで見えなかった。


「パティア……よかったな」


「なんかあんまり嬉しくなさそうだけど……」


「い、いや。パティアが喜んでるんだ、俺も嬉しいに決まってる!」


「うん! アラタくんのアドバイスのおかげだよ! この調子で次も景品ゲットするね!」


 再び身を乗り出すパティア。


 すると、ネコシッポがスカートから飛び出し、ぱたぱたと左右に振れ出した。まるで喜びを表現するようにして。


 シッポによってスカートがまくられたことで、ついにその奥を拝んでしまった。


 ……白。まぶしい純白。


 そういえば、パティアは自分のシッポが嫌いと言っていた。


 その理由って、感情が高ぶると今みたいにスカートがめくられるから?


 ともあれ俺の一番の感想は、この一言だ。


 パティアはちゃんとパンツをはいている……!


『刺激が強すぎるとマスターはフリーズするどころか鼻血を噴きますので、このくらいがちょうどいいでしょう。まったくマスターはかわいい男の子ですね』


 パティアと違っておまえにかわいいと言われるとムカつくのはなぜだろうな?


 結果として、パティアは残りの弾をすべて目標に命中させたが、倒して景品をゲットすることはできなかった。


「銃の威力が低すぎる……。弾をいちいち手動で込めないといけないから、連射して威力を高めることもできないし……。ごめんね、アラタくん……景品、ひとつだけで」


「いや、ぜんぜん。むしろありがとう」


 眼福って意味でもありがとうございました。


 もらえた景品はお菓子だったので、あとでパティアと一緒に食べるとしよう。


「アラタくん」


 射的の店を出ると、パティアはなぜか、指で銃の形を作って俺に向けた。


「ぱん」


 銃を撃つフリをした。


「今、アラタくんのハートを撃ち抜いたよ」


 それから照れ笑いを浮かべ、俺のそばに寄り添いながら再び腕を組んでくる。


「あたしが一番欲しい景品は……アラタくんだからね」


 ……俺は思う。


 これってもう確定でいいんじゃないか?


 パティアは、俺のことが好きだよな?


 好きだから、こんなにも積極的にからかってくるんだよな?


 恋愛をするために訪れたパティアは、俺を恋人の候補として考え、このデートでその気持ちを確かなものにしたってことでいいんだよな?


 だったらもう、あと一押しさえあれば、俺たちは恋仲になれるはずだ。


 その一押しこそ、告白に他ならなくて……。


『…………』


 ただ、いつも横やりを入れてばかりのナビゲーターが。


 この時は、不気味な沈黙を保っていた。