モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

2章7話

 華やしきを後にした俺たちは、近くの繁華街でデートを続けることにした。


 まずはスイーツの食べ歩き。射的でもらった景品もお菓子だったので、これも食べ歩きした。


「この細長いの、ポッチーっていうんだ? あたしの世界でも同じようなのがあるよ。このお菓子でゲームもできるんだよね」


 パティアはポッチーの端を口でくわえ、俺に突き出してきた。


「アラタくん……反対側から、食べて?」


 ……え? これってポッチーゲーム?


 おたがい向き合いながら端と端を食べ進んでいって、先に口を離したほうが負けというルールだったはず。


 そして、どちらも口を離さなかった場合は……。


「……えっと、ダメ?」


「い、いや、パティアはいいのか?」


「うん……アラタくんなら、いいよ」


 そんなふうに言われて断れるわけもなく。


 ドキドキしながら反対側の端をくわえ、少しずつ食べていって……。


 そして、唇と唇が触れあいそうになった、その瞬間。


「「っ!」」


 俺だけじゃない、パティアも反射的に離れた。


 勝負は、引き分け……。


「あ、あはは……。これ……思ったより恥ずかしいね」


 羞恥に逃げたのは、俺だけじゃない。パティアだって俺と同じくらいドキドキしていたのだとわかった。


 だから、キスすることにならなくても、それと同じくらいの高揚感が俺を満たした。


 その後のデートは、定番である映画やカラオケも考えたのだが、日本語や日本文化がわからないパティアでは楽しめないだろうと思い直し、それらは外すことにした。


 代わりに、繁華街でウィンドウショッピングをする。


 なるべく長い時間、パティアとこうして腕を組んで歩いていたかった。


「アラタくん、ちょっと固い感じがする……。あたしと腕組むの、まだ緊張するの?」


「……当たり前だろ」


「なんで当たり前なの?」


 そりゃ、やわらかいのがずっと当たってるんだからさ。


 言ってしまえばこの感触を楽しみたいから腕を組んでるんだからさ。


 パティアは気づいてないかもしれないし、わざわざ教えることはしないけど。


「アラタくん、勘違いしてるみたいだから言っておくけど。当たってるんじゃなくて、当ててるんだよ?」


「…………」


「あたしの身体……アラタくんだったら、どこさわってもいいんだよ……?」


 ……ほ、ほんとに?


 いや、そうじゃない。その小悪魔属性、いいかげん俺も学んでるからな?


「……パティアは、からかってるだけだよな?」


「アラタくんはそう思うの……?」


 パティアはぎゅっと俺の腕に抱きついた。


 ふくらみが押しつけられ……その奥から、熱い鼓動を感じた気がした。


「アラタくん……あたしの、ほんとの気持ち……まだわかってくれないの……?」


 ……それは、本当はからかっているわけじゃないってこと?


 本心から俺を誘ってるってこと?


 俺が望めば、パティアは応えてくれるってことなのか……?


『マスター』


 いい雰囲気をナビゲーターに邪魔された。


 ……無視すればいいものを、なんで俺はわざわざメッセージを見てるんだよ。


『パティアさんには注意してください。マスターもまた無意識に危機感を覚えているからこそ、私の言葉を無視できなかったのだと思います』


「…………」


 ……そうか。


『これまでのパティアさんの振る舞いを、私が持つ統計データに照らし合わせると、ロマンス詐欺の可能性があります』


 ロマンス詐欺────


 それは、マッチングアプリなんかを悪用し、恋愛関係を装うことで相手から金銭を騙し取る手口のことだ。


『……おいナビゲーター。あくまで可能性があるだけだろ?』


『確率としては95%です』


 めっちゃ高いな!


『つまりマスターは、パティアさんの身体でドーテーを捨てることができるかもしれませんが、そこに愛情などありません。パティアさんはマスターをカモとしか見ていません。マスターが寝て起きたらパティアさんによって金銭を盗まれている可能性が95%ということです』


『……だとしても、100%じゃない。俺はパティアを信じる』


『ゴミクソでしかない理想論は捨てろ(はぁと)』


 おまえのスパルタに負けてたまるかあ!


『理想でもなんでもいい! 俺はとにかくパティアを信じたいんだよ!』


『騙されている者は皆、そう言うのです。ハニートラップに引っかかっている今のマスターは、いわば盲目的な狂信者と一緒です。ただのカモどころか、おいしく食べられるために鍋とネギと調味料もセットで背負っているカモなのです。やれやれ、かわいそうに』


 さっそく見捨てモードに入ってやがる!


『マスター、まだ正気を保っているのなら私の言葉を最後までお聞き届けください』


『俺は最初から正気なんだよ!』


『パティアさんは、高確率で処女ではありません』


 ……え?


『ファッション処女である確率のほうが高いと言わざるを得ません。要するにパティアさんは風俗嬢となんら変わりません。であれば、マスターがパティアさんでドーテーを捨てることができたとしても、素人ドーテーまでは捨てられません。残念でした、処女厨のマスター』


 やめて……! 世知辛い現実をこれ以上突きつけないで!


『もう一度言いますが、パティアさんがマスターを騙している確率は95%であり、処女ではない確率もまた95%ということなのです』


 俺は一度、大きく息を吐いて心を落ち着かせる。


『……なあ。おまえの言う確率95%がたとえ本当だとしても、やっぱり俺は、そうじゃない確率5%のほうを信じるよ』


『それはただの逆張りです。マスターは今、悪い意味でギャンブラーの心理におちいっています。自ら負けに向かっているようなものなのです、であれば……』


『恋愛をギャンブルと一緒にするんじゃねえ』


 たしかにフラれれば負けだろう。


 結ばれれば勝ちだろう。


 だけどな、そこに運の要素を入れないでくれ。


 俺がこれまで彼女を作れなかったのは、運が悪いだけだなんて、誰にも言わせねえよ。


『勝ち負けが運で決まるのなら、努力のすべてが無駄になる。運の良し悪しが恋愛の勝ち負けを決めるのなら、こうしてマッチングアプリを使っている努力すら無意味になっちまう。おまえの助言だって……聞く意味がなくなっちまうだろうがよ』


『…………』


 ナビゲーターはいつしか沈黙していた。


 まあ、静かになってせいせいする。


「あの……アラタくん……?」


 しばらく無言だった俺に、パティアがおずおずと上目遣いをする。


 あざとい仕草。たしかに、恋愛とは別の理由で俺に取り入ろうとしているのかもしれない。


 だけどな。そんな恐れよりもなによりも。


 俺は、パティアをかわいいと思っている。


 腕に感じる胸のやわらかさを、気持ちいいと思っているんだ。


 今この瞬間の俺にとっては、それがすべてなんだよ。


 だから俺は、この瞬間を未来にも続けるために、こう言うんだ。


「パティア。陽がかたむいてきたし、そろそろ晩飯を食べよう。その後は、家に帰ろう。俺の部屋に泊まっていって欲しい。ずっと……そばにいて欲しい」


「アラタくん……うん」


 パティアが、組んでいる俺の腕に力を込める。


 これまで何度もぎゅっとされてきたその力は、今が一番強かった。


「あたしはずっと……キミのそばにいるよ」


 そうしてパティアは、背伸びをして、俺の頬にキスをした。


 マーキング。


 パティアが安心できる相手こそ、俺ということ。それが本能的な行為であるなら、パティアの本心でもあるのだと信じられる。


 そして、俺もまた。


 デートを経て、俺もまた本心から、パティアのそばにいたいと思うようになったんだ。


 パティアが、何者であったとしても……。