俺の母さんは最強の魔法少女です

『魔法少女になりたくて』 ③

 俺は取り返した装置の裏にある緑のボタンをさり気なく押し、それを今度は凪へと渡す。


「凪、お前も測定してくれ」

「え、ええ……」


 困惑しながら装置を受け取った凪は、気まずそうに赤いボタンを押す。

 すると今度は機械から、キュインキュインとけたたましい電子音が鳴り響く。

 明らかに春菜の時とは異なる反応。

 そして画面に表示されるのも、先ほどとは桁違いの数字であった。


「きゅ、九十七……」


 初めて凪と出会った時、アクシデントの中で測定された数値は九十五であった。

 それが、魔法少女の覚醒や怪人との戦いを経て……さらに研ぎ澄まされたのだろう。


「うっ……! でも……!」


 額に汗を滲ませながら、凪は悲痛な面持ちで後ろを見やる。

 そこには、顔面蒼白になりながら……自身の体を抱きしめる春菜の姿があった。


「わ、わたっ、私……なん、で……? あんなに、頑張ったのに……」

「春菜、これで分かっただろ? お前に魔法少女の適性はないんだ」


 こんな言い方しかできない、不器用な自分に反吐が出そうになる。

 だけど、中途半端な優しさは春菜に未練を残してしまうだけだ。


「才能がある凪だって、デビュー戦は危うく大怪我をするところだった。適性のないお前が魔法少女になったら、取り返しのつかない結果になる可能性は高い」

「私、それでもいいもん……!」

「いいわけあるかっ!」

「っ!?」


 涙を振りまきながら食い下がってきた春菜に、俺は思わず声を荒らげてしまう。

 今まで、春菜を相手にこんな風に怒鳴ったことなんてなかった。

 こいつはいつもふわふわと能天気で、底抜けに明るいアホで、たまに調子に乗って俺を怒らせることはあっても……俺にとっては大事な幼馴染だったから。


「頭を冷やせ。これ以上、俺に心配をかけさせるな」

「だって、だってぇ……わだじ、じょうぐんのゆめ、がなえだいんもん……!」


 涙と鼻水を垂れ流し、俺に縋り付いてくる春菜。

 俺はその背中に腕を回そうとして……ギリギリの所で思いとどまる。


「その夢は、凪が叶えてくれる。だから……お前は普通の生活に戻ってくれ」

「っ……!」


 デリカシーの欠片もない、最低な一言。

 だが、これでいい。これで春菜が俺を嫌ってくれた方が、むしろ好都合だ。


「翔くんの馬鹿っ! マザコン! ちっちゃい頃にちゅーの練習したことも忘れちゃった最低のスケコマシ! でも、それでも好きぃっ!」


 春菜は一息にそう捲し立てると、俺を突き飛ばすようにして走り出す。


「こ、このっ! 開いて! 開いてよっ!」


 そしてガチャガチャと扉の鍵開けに苦戦すること数十秒。

 ようやくコツを掴み、鍵を開けることに成功した後……


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」


 幼い子どものように大号泣しながら、教室を飛び出していくのであった。


「……はぁ」


 自分への嫌悪感から、思わず溢れ出る溜め息。

 俺が力なくしゃがみ込むと、頭上から冷ややかな声が聞こえてくる。


「この女泣かせ」

「否定する気力はおろか、その権利すらないと思ってるよ」

「翔太郎、アンタってさ。なんでそんなに不器用なわけ?」

「……なんのことだ?」

「とぼけないで。アタシに嘘が通じないってのは、もう何度も言ってるでしょ?」


 凪は俺の目線の高さまでしゃがみ込み、全てを見透かしたような顔で見つめてくる。


「どうしてアンタがあんな嘘を吐いているのか。おおよその見当は付いているんだけど、本当にそれでいいと思ってるわけ?」

「俺の感情は、どうだっていい。大事なのは……」

「あーはいはい、分かったわよ。そうまでして、守りたいものってわけね」


 どこか納得したように言い放ち、頬をむくれさせながら立ち上がる凪。


「幼馴染、か。なんだか、羨ましいわね」


 机の端に腰を下ろし、足を組み替えながら凪は小さな声で呟く。


「……翔太郎。アンタのやり方に文句を付けるつもりはないけど、これだけは言っておくわ」

「ああ、なんでも遠慮なく言ってくれ」

「本当に大事な物って、そこにあることが当然のように思えてしまうものよ。でも、そんな風に甘えていると、気が付いた時には手遅れ……なんてこともあるんだから」


 振り絞るように紡がれたその言葉は、かつて彼女が自分の家族を窮地に追いやってしまった過去からくるものだろう。

 実体験に基づく、真に迫った彼女の忠告はきっと正しいのだろう。

 だが、結局俺はちっぽけな意地のために、その正しい道から目を逸らしてしまった。

 そしてその結果、俺はとんでもない失態を犯すこととなる。

 もしもこの時、俺が春菜をすぐに追いかけていれば……

 あんなことには、ならなかったかもしれないのに。



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