テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

一章 ⑦

 ──顔、体型、性別、年齢、なんでも自由、声も自由だし名前も自由

 ──現実の立場も関係なし、学びたいという気持ちだけあればいい

 ──友達を作ってもいい、作らなくてもいい。一人だからって退屈させない

 ──誰もが自分らしく生きられる世界です


「そうだ! 故に、全てのコンテンツがソロでも楽しめるというのは大前提! 実装するボスは学生が一人で倒せるのだと【撃破証明】を出すことが必須になる!」


 そこまで言って、女性はずるっと背もたれにもたれかかった。


「……様々な場所に色々なボスがいて、好きな相手に挑める自由なゲームデザイン。もちろん難易度の高い敵はいる。難しいイベントだってある。しかしテストプレイをした中学生にすらできたのだから問題はない──それで上を納得させてきた。実機でやって見せた子どもがいるのだから、大人に文句を言えるはずがない」


 学校なのにこんなに難しいゲームで大丈夫? という疑問を、むしろ子どもは簡単にクリアしてますよ、と封殺してきた。

 深みと手応え、やり甲斐のあるゲームでなければ、在学する三年間ずっと楽しめるような名作にはならない。作る側として手の抜けない部分だった。


「だがそれ故に、我々はやり過ぎた。もはやこのゲームは王我にしか攻略できない、事実上クリア不可能なクソゲー学園と化している!」


 ぐっと身を起こし、彼女はぐっと目を見開いた。


「であるならば、王我にはなんとしても、オーバーカム学園をクリアに導いてもらわなければならん! 愛すべき我が甥よ。この世界を壊した責任、取ってもらおう!」

「──ふーん?」

「────!?」


 彼女の肩を叩く、小さな手。


「あたしも勝てないボスをどんどん倒してた、あの優秀なテスターの子よね? へぇー? ゲームバランスがぶっ壊れた責任、彼にとってもらうつもりなんだ?」

「や……役員殿……? 聞いていらっしゃったので……?」

「ええ、最初から、ね」

(これは、マズイ……よりにもよって役員殿が……!)


 千葉主任は振り返ることもできずに肩を震わせる。

 彼女にとって、背後の人物は最悪の相手だった。


(代表や取締役なら問題なかった。あの二人はオンラインゲームの世界を心底から愛しているタイプだ。最強のテストプレイヤーの甥を入学させたと言えば、むしろ笑ってくれたはずだ)

「ねえ主任。想像できる? この子は1000人の学生の中で、自分がたった一人のような孤独感に襲われ、重い責任を負う──あなたの家族が、よ?」

(だがこの人は、自分自身、オンラインゲームに多大な熱量を持っているくせに……)


 彼女の肩に乗った手へ、ぎゅっと力が込められる。


「傷ついた彼の心をどうやってケアするのか、しっかりと検討していくわよ? いーわね?」

(この人だけは、感性がまともなんだ……! バレては、いけなかった……!)


 ──RIP

 ──南無

 ──時間ないんで、蘇生したら作業戻ってください

 リリース一週間前。

 第二開発室の明かりは、今夜も消えることはなかった。


刊行シリーズ

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