テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
一章 ⑥
「オーバーカムは有名なプロやストリーマーも進学を表明してる、最先端のオンラインゲーム学園だぞ!? そんなところで俺が活躍できるわけないって!」
「しかし、王我はもうラスボスすらノーダメージで倒しているじゃないか」
「そりゃ最初の数日ぐらいなら、テスターとしての経験で目立つかもしれないよ? でも、実力の違いはすぐにバレるんだ!」
アクションゲームは実力の違いがすぐにわかる。経験者ってだけの俺なんて、プロに一瞬で追い抜かれるに決まってる。
気がつけば名もなき一般プレイヤーとしてクラスの底に沈んでいく運命なんだよ。
「こうなったら、もう進学そのものを諦めるか……?」
「待て待て待て! そんなことになったら姉さんがなんと言うか!」
叔母さんから見た姉さん、つまり俺の母さんだ。
まあ怒るだろうなあ、俺と叔母さんの両方に。
「甥っ子の人生台無しにしたんだから、それぐらいは覚悟してもらわないと」
「台無しにするつもりなどない! 本当に、笑顔でこのオーバーカムに入学して欲しいと思っているんだ!」
叔母さんは慌てて俺に詰め寄る。その表情には俺を騙そうって気配はまったくなく、妙に切羽詰まった雰囲気だけがあった。
主犯のくせに、甥の人生をぶち壊すのは気が引けるのかもしれない。
「あれこれと制限を加えるつもりもない! ゲームの内容について口外しなければそれでいいんだ! 信頼できる相手なら、テスターだったことも話して構わない!」
「なんか思ったより条件はいいけども!」
契約でがんじがらめになるのかと思ったら、案外緩かった。
「本当にそんなんでいいの? 開発側だなんて言ったら問題になるんじゃ?」
「最近では開発陣がゲームに触れていない方がエアプと叩かれる傾向にある。学園である以上は学生テスターを使って何もおかしくなどあるまい」
「そういうもんか……? いや、でも……うーん」
「ゲームプレイ部分は学園の成績と関わりもない。内申に多少の影響がある程度だ」
だからってなあ、公言したら友だちもまともにできないだろうし。
実質的に誰にも言えず、ネタバレしないように気をつけて生きなきゃいけないんじゃ。
──まあほら、甥っ子君も一緒にオバカを作ってきたわけやし、どうなったか気になるやろ?
──クエストの難易度とかボスの強さとか、全部甥っ子君が基準なんだぞ
「……そーね、色々フィードバックも出したし、みんなが楽しんでるのかは気になるな……」
そういう意味では俺も立派に開発側に参加してる。
オーバーカムが思った通りの世界になっているかは正直気になる。
「それに王我。もしもこの条件を吞むのなら、さらに良い話も用意している」
「こ、これ以上に?」
「君が所持しているパソコンには、オーバーカムをフルスペックで起動できるスペックはない。そうだろう?」
「え、うん。でも叔母さんが、テスターの報酬代わりに用意してくれるって……」
そう、ゲーム開発会社に勤めてる叔母さんが良い環境を準備してくれるって話で、俺は安心して待ってたんだ。
何なら今日はその話もしようと思って……。
「最高の環境ならあるだろう? 今! この場所に!」
「──へ?」
「テスターを続けるなら、その部屋は使い放題だ、王我よ!」
「この部屋って……!?」
まさか最先端のフリームーブ、フルトラッキングの専用システムが使い放題だと……!?
「そ、それは……なんて魅力的な!」
「ふっふっふ、高校浪人か、オーバーカムで無双プレイを楽しむか……答えなど一つだろう!」
「わかった、わかったよ! もともとオーバーカム学園に進学するのをずっと楽しみにしてたんだ。俺は俺なりに、この世界を堪能させてもらうよ!」
「そうこなくてはな! 君の入学を歓迎するぞ、王我──いや、ラグ! 我が手駒よ!」
「なんか思い通りにされた感じがして腹立つなあ!」
まあ、やっぱり入学そのものを取りやめるってのは現実的じゃないし。
どうせ無双なんてできないんだから、やりたいようにやるだけだ!
同級生の皆さんが楽しく学園生活が送れるように、意地でもネタバレはしないからな!
††† ††† †††
──甥っ子君、綺麗に部屋片付けて帰っていきましたよ
──ちゃんと受付に挨拶もしてましたね
「末永くテストする気になったようだな、何よりだ」
深夜になっても明るい開発室の中。
濃いコーヒーを口に含み、白衣姿の女性が表情を歪めた。
「しかし……やはり悪いことをしたか……」
──そう思うなら今からでも契約解除してあげては?
──情報さえ漏らさないなら、ただの生徒に戻れんこともないでしょうけど
「できるものならそうしてやりたいが……美咲、今日のデータはどうだった?」
──王我君のデータは分析済み。反応速度は平均値、身体強度は中の上、操作精度は高水準
「いつも通り、数字だけなら一般人の範囲か。ではレベル、装備を含めて、データから推測されるピースクリエイター戦の勝率は?」
──数値の上では完全にゼロ。彼がピースクリエイターを打倒するのは、理論的に不可能
「奇跡ですら勝てない数字なのに、どうしてノーダメージで勝っている」
──戦闘中の反応速度が局所的にマイナスになっているため結果に変動が起きている、というのがAIによる推測
──はあ? 反応速度がマイナス?
──おかしなこというとる
「受動的な概念である反応値がマイナスになっている、か……。まったく妙な話だな。あいつは観測する前に結果を感じ取っている、とでもいうのか」
──攻撃の予備動作より前、予兆すらない段階でもう動き始めてるってことね
──そんなもんただの未来予知やんけ
──ついに来るところまで来た。三年間の到達点
──実際ピスクリちゃんが動く前に走り出してるし、攻撃する前に相殺スキルを振ってる
──あかんわこれ、こわすぎうち
──別にそこまで異常なことではないでしょう。例えばプロのスポーツ選手など見てから反応してはいないはずですが、あれを反応速度マイナスとは呼びません
──決め打ちが全部当たったから偶然勝てた、という解釈はあるな
──それにしちゃ自信ありげだったぞ? お願い行動の連発でノーミスいけるか?
──甥っ子君はなんて言ってました?
「ルーチン部分はミスらないだけなので簡単。後はランダム行動で擬似的な即死コンボが起きないよう、なんとなく乱数を誘導しながら避けるのがコツ、とのことだ」
──明らかに人を超えた発言
──キュピーンッて頭にエフェクト出てるやろ
──トライアンドエラーの末、無意識に乱数の偏りを感じるようになったのかしら?
「そうだな。度重なる経験を背景にした、まるで未来予知のような超反応。それぞれのジャンルで頂点に到達した者が見せる特徴だろう」
それで、と小さく言葉を切る。
「現在完成済みのボスの全てを、王我は一人で倒してみせた。不可能すらひっくり返して、な。では他の人間が挑戦した場合、倒せるのは何体だ?」
──レイドなら50体が撃破可能で、ソロなら38体
──100体も作ったのに、まさか自分たちで倒せるのが半分とは思わなかったぜ
──HAHAHAHAHA
「笑っている場合か!」
ばん、と机を叩く。カップの中でコーヒーの表面がゆらりと波打った。
「オーバーカムはただのゲームではない! 現実の学園が存在するという、これまでになく特殊な世界なんだ! どんな人間も受け入れる理想の世界だぞ!」



