テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

一章 ⑤

 むしろどこかワクワクした視線をこちらに向けて、じりじりと数歩距離を詰めてくる。


「うんうん、意味不明なぐらいPSが高いだけの人かと思いましたが、なかなかおもしれぇ男じゃないですか。気に入りましたよ」

「どの立場で言ってんのそれ」


 あと残念だけどPSはそこまででもない。

 さっきまで戦ってたラスボスのビットだから簡単に処理できたってだけなので。


「というわけで、私は名乗りましたが。そちらのお名前は?」

「ああ、挨拶が遅れてごめん。俺は千葉王我、設定した名前はラグ」

「ラグ……? 全プレイヤーから嫌われそうな名前なんですけど、変えません?」

「名前だけで嫌われるのも理不尽では!?」

「冗談です冗談です」


 意趣返しのように言われても、なんだか腹が立たない。妙に親近感の持てる相手だった。

 しかし同じ開発陣に同年代ぐらいの女の子がいるとは思わなかった。

 いや、アバターが若いだけで、実は結構年上だったりするかも? だったらちょっと失礼なことを言ったかな──そう考えていた俺に。

 彼女は思いもよらない言葉を口にした。


「入学直前でちょっと不安だったので、同級生に会えてなんだか嬉しいですね!」

「──え?」


 入学、直前?

 いきなり何の話?


「ごめん、ちょっと言っていることの意味が……」

「……? え、違うんですか?」


 リアはキラキラと輝く瞳で、俺から目をそらすことなくたずねる。


「私と同じで、ラグ君もオーバーカムの新入生ですよね?」


 ──は?

 オーバーカムの、新入生?

 彼女は俺と同じように、もうすぐオーバーカムへ入学するってこと?

 なら、どうしてRに居るんだ? わからない、本当に話が理解できない!


「な、え? どうしてオーバーカム? なんでその名前が?」

「だって、ここがオーバーカムでしょう?」

「────」


 余りにも理解のできない言葉に思考が止まる。

 ありえない、だってこれは、Rっていう製作中のゲームだぞ?

 なら、つまり、まさか、そんな馬鹿な。


「あれ、もしかして違いました?」

「あ、えっと……俺もオーバーカム学園には入学する予定、だけど……」

「うわあ、やっぱり! 入学前なのにあそこまで動けるなんて、どんな強キャラなんですか! これはぜひともフラグを立てておきたいですね……!」

「そんな上手くはないけど……いや、そんなこと言ってる場合ではなくてね!?」


 と、俺が疑問を口にしようとしたタイミングで、全体システムメッセージが表示された。

 ──麻木莉愛さん。テストは完了しましたので、事務室へお越しください


「あ、呼ばれちゃいました。もうちょっとお話ししたいですけど……」


 リアはちょっと残念そうに言って、そっと片手を耳元に当てる。

 バイザーを操作する、ログアウトの合図だ。


「絶対にまた会えますよね! 次は学校で!」

「え、あ……うん……?」

「なんでちょっと引き気味なんですか! こんな美少女とのフラグを折るようなリアクションしないでくださいよ! こっちはラグ君とのイベントは絶対に死守しますからね!?」


 彼女はぐっと背伸びをして、神様が作った理想のアバターのような笑顔で、俺に言った。


「リアちゃんのこと、忘れないでくださいね!」

「──はい」


 その輝きに圧倒されたような気分で、ただ返事をするだけで精一杯だった。

 では、と手を振って、リアが部屋を出ていく。

 呆然とその背を見送って──ようやく頭が冷静になってきた。


「……さて。みんな。今の話を聞いてたな?」


 ──は、はいいぃ

 ──ああ……これはもう、言い逃れはできひんぞ……


「突然現れた見知らぬ女の子は、Rのことなんて知っている様子もなかった。そして──」


 目の前に立った、困り顔で目を閉じた叔母さんのアバターに、俺は強く言った。


「彼女は、ここがオーバーカムだ、と言った」

「う、うむ……」

「さあ、何がどうなってるのか、話してもらうぞ叔母さん!」

「ぐぬぬ……」


 戦闘の形跡がわずかに残る広場。

 俺に呼び出された叔母さんは、ついに観念したように認めた。


「先程の子は、何も間違ったことは言っていない。全てが事実だ」


 叔母さんはじっと俺と目を合わせ、アバターでもわかるほどに震えた唇を動かす。


「王我、『プロジェクト:R』という名前はあくまでも開発中の仮タイトルであり、リリース前に正式名称がつく──という話をしたことがあるんだが、覚えているか?」

「ああ、俺がポロッと漏らしたらマズいから、正式タイトルは教えないって言ってたな」


 俺はあくまで身内としてお手伝いをしてるだけだから、ゲームの中のこと以外、ほとんど何もわからないんだよ。

 リリース予定日も、正式名称も、値段も、対応機種も、なーんにも聞いてない。

 でもむしろ変な責任がないから、その方が助かるなって思ってたぐらいだ。


「いいか王我。落ち着いて聞くんだぞ。この『プロジェクト:R』だが──」


 知らなくて助かるって思っていたんだ、この瞬間までは。


「正式タイトルは『オーバーカム』で、リリース日は来週だ」

「……へ?」

「世界初のオンラインゲーム学園オーバーカム、それこそ君がずっとテストプレイをしてきた──そして、これから通うことになる学校の名だ」

「…………ま、まさか」


 引きつった喉を無理矢理に動かして、俺は恐る恐る聞いた。


「俺、これから通う学校のベータテスターをしてたの!?」

「……そうだ」

「言ってよぉぉぉぉっ!?」


 まっっったく知らなかったんだけど!?

 え、これ? ここ? この場所がオーバーカムなの!?

 ずっとやってきたこのゲームが!?

 ──なんで気づかなかったんやろなあ

 ──甥っ子君ネタバレ嫌いだから、学校紹介の動画とか避けてたんちゃう?

 ──ありえる


「その通りだよっ!」


 これからたっぷりと楽しむために、最初に見た新入生募集の動画以外、オーバーカムの情報を見ないようにしてたんだよ!

 それがこんな盛大なネタバレを食らうなんて。

 いや、ネタバレどころか──


「入学前なのに、もうフルコンプしてるじゃん!」


 ついさっき、完全攻略の実績までとりましたけど!?

 ──南無

 ──初クリアおめ

 ──完走した感想ですが


「まだスタートすらしてないんだよ! 叔母さん、なんで言ってくれなかったんだ!?」


 俺の学園生活、入学前に完全クリアしてるんですけど!?


「い、いや、こちらとしても話したいと思っていたのだ。しかしプロジェクトの規模、社会的な重要性を考えると、安易に伝えるわけにもいかないという判断で……」

「わかるけど! 俺がペラペラ話したら大問題だろうし!」


 俺、開校予定のネトゲ学園をテストしてるんだよね! とかSNSに書き込んだら大変なことになっただろうね!


「まもなく細かい情報が公開される、このタイミングがギリギリだったのだ……」

「そんな入学ギリギリに教えられても、もう進学先変えられないんだけど!」


 もうオーバーカム学園に入学手続きしちゃったよ! 完全に手遅れじゃん!


「本当にすまないとは思っているが……しかし、安心してくれ」


 叔母さんはどこか偉そうな笑みを浮かべて、


「入学後の行動に制限はない。守秘義務さえ守るのなら、オーバーカムの天下を取ったって構わないぞ。きっと最高の三年間になるな!」


 はあ!? 天下? ふざけんな!


「俺に天下なんて、取れるわけないだろ!」

「──は?」


 ──何いってだこいつ

 ──もう天下取ってると思うんですが

 叔母さんもコメントのみなさんも! 何もわかってないな!



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