テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
一章 ④
足元のベアリングが稼働するはっきりとした手応えと共に、画面が大きく前方に進んだ。
「え──」
同時にインベントリを操作し、初期装備の直剣を装備。
簡素な剣が実体化すると同時に、少女の眼前に迫ったビームを上方に弾き飛ばす。
ジャストではない、微妙にズレたちょっと強引なパリィ。武器の耐久度が大きく削られるが、こちらは初期武器だ。詰み防止のために耐久値は無限設定!
うーん、初期武器は神。耐久度の減らない武器より強いものなんて存在しないね!
──さすが、やるやん
──イケメンムーブやめろ
「え、ええ、えええええっ!?」
こちらを見上げる少女と一瞬目が合ったが、そのまま戦闘を継続。
「いち、にー、さん、よんっと」
「あのっ!? 簡単にビーム打ち返してますけど、どこのどなたですっ!?」
「どうもどうも。そのままじっとしてて、すぐに片付けるから」
本来ならビットに直撃するようビームを弾くんだけど、ステータスが低すぎて動きが鈍い。
リアルの俺より動けないのはさすがに困る。これがレベル1のアバターか、ちょっと久しぶり。
こうなると反射は難しく、空中の敵を殴る手段は、今のところない。
さてさて、どう倒すか。
「んー……まあ、適当でいっか。どうにでもなるでしょ」
「余裕なやつっ!?」
だって本体ぶっ倒してるのに今更ビット一体ぐらい別に、ねえ?
適当にビームを弾いていると、急に敵が攻撃を止め、俺から距離を取るように高度を上げた。
「ちょっと見てください、あれあれ! なんかビーム溜めてますけど!?」
「あ、溜めてるな。学習されたんだろ」
「学習!? 敵がですかっ!?」
「AIが賢いからな、戦闘が長引くと別の手段を取り始めるんだ」
この子が避けまくるから単発ビームを連射に切り替えたように、俺が連射ビームを弾くから溜めビームに切り替えたんだろう。
丸っこいビットの中央、ビーム射出口が紅く輝き、そこに光が集まっていく。
「お、大技の予感とかしませんですっ?」
「するする。やってくるやってくる」
「なんで冷静なんですかっ!? 逃げましょうっ!」
「いけるいける。大丈夫大丈夫」
「なにを根拠にーっ!?」
──まあ平気やろ
──見てて全く不安がないのが逆に怖い
強力な遠距離攻撃にだって対策はある。
こっちの攻撃で打ち消す、避ける、盾で防ぐとかね。
とはいえ避けると背後の女の子に直撃するわけで、それじゃ走って来た意味がない。
一撃で決めるのならこれかな、と剣を握った手を軽く前に出す。
視線の先でビットの輝きが強まり、その光がゆらりと揺れた、直後。
「──ここ」
手から剣を落とし、その柄を思いっきり蹴り飛ばすように脚を振る。
「そーれっ! 飛んでけー!」
「えぇぇぇぇっ!? 武器を蹴ったっ!?」
優秀なシステムは物体の動きを丁寧に再現し、勢いよく飛び出した直剣が空間を切り裂いて飛翔した。
そして剣の先端から突き刺さるように、ビットの中央へと命中。
「う、そ……空中の敵に当てたんですか……?」
ビットは煙を吹きながらゆっくりと落下していった。
ね、簡単でしょ?
──物理演算を読み切っとる
──レベル1の火力じゃ足りないから誘爆ダメも加算してるのエグい
「これで終わり、と。大丈夫だった?」
「あ、え、っ……!」
女の子は一瞬口をつぐんだ後、はっと息を吞む。
そして大きな瞳をギラリと輝かせ、
「つよっ、すごっ……! 始まる前にこの動きって、どんな強ユニットですか!? めちゃくちゃレアですよね!? このフラグは絶対に逃せませんよ……!」
「なんかわけわからないこと言い出したね!?」
人のことNPCかなんかだと思ってる!?
「あ、失礼しました。つい本音が」
「本音なんだ……?」
明らかにヤベエことを平然と言いながらも、彼女はふわっと花が咲くように、柔らかな笑みを浮かべて見せた。
「でも、本当に助かりました。いきなり襲われてビックリしちゃったので」
照れたように言って、少女がこちらにぺこりと頭を下げる。
整った横顔を銀色の髪がさらりと流れ、かがんだ姿勢は豊かな胸元が強調されて見える。
よくできてるなあ、見れば見るほどすごいアバターだ。
──あ、ラグ君、その子の名前聞いといてくれん?
え、なんで? と思った俺の疑問に答えるように、
──ゲストアカウントだから名前がわからんねん
──今ログインしてる子は一人だけど、本人だと確認しておきたい
「ああ、そういうことね……。ごめん、ちょっといい?」
「はい? なんです?」
「君の名前、聞いても?」
「……ほほぉー? 私の名前、聞きたいんですか?」
「へ……? うん、知りたいけど……」
「なるほどぉー? はいはい、わかりましたともっ!」
彼女はどこか楽しそうに言って、わざとらしい前かがみでこちらを見上げる。
「ええ、ええ! そうですよね! 私ってば世界一可愛いですからね! ナンパしたくなっちゃうのは仕方ないです!」
「……え?」
いやそういう話じゃなく、と止める間もなく。
「私は麻木莉愛。設定した名前はリアです」
作り物のように完成された相貌を、誘うような微笑みに彩る。
「ここで出会ったあなただけ、特別に」
彼女はどこまでも甘い声で言った。
「──私のこと、好きになってもいいですよ?」
まるで一枚の絵画のような、胸を打つような構図。
頭から離れなくなるほどに、耳に残る甘やかな声。
噴水を背にして輝く彼女は、まるで物語のヒロインのようだった。
「うわきっつ」
言ってることが、めっちゃくちゃ的外れじゃなければねっ!
俺、事務的な必要があって名前を聞いただけなんだぞ!
この子が誰か知らないけど、初対面でこんなキャラ作りされてもついていけないって!
「え、き、きつっ?! 何がきついんですか!? 今の完璧な美少女でしたよね!? カリスマとかが溢れ出してるはずなんですけど!?」
──これは草
──可愛いやん、少しの厨二ぐらいええやろ
──ワイのせいでなんかすまん……
放っておくには余りに可哀想だ。たとえ気まずくても、ちゃんと真実を語らなければ。
「君よりも少しだけ多くこの世界を知っている者として、あえて言わせてもらうけど」
「……はい?」
ふわっと顔を上げた自信過剰な彼女に、俺はきっぱりと告げた。
「このタイプのゲームでは、自分のアバターが世界一可愛いと言う人なんていくらでもいる!
君の言うことを否定する気はないけど、他人に評価を強制するのは良くない!」
うちの子さいかわ勢は最大手なんだ。
世界一だって言うのはいいけど、こっちにまで押し付けるのは話が違う。
「あえて言おう! 君は確かに可愛いが! 世界一は! ちょっと盛りすぎ!」
「は、はいぃ!?」
「もっと言ってしまうと、顔が良すぎて作りモノ感があるから減点!」
「えぇぇっ!? 人の顔に作りモノ扱いは理不尽ではっ!?」
「このゲームには芸能人のアバターとか、有名モデラーが作った不気味の谷すら超えるアニメ顔とかがある! NPCにはすごい美形がいっぱいいるし、プレイヤーも使える!」
俺みたいに別にいいやって思う人は少数派なぐらい、たくさんの選択肢があるんだから!
「可愛いのは! 普通だ!」
「ふ、普通……! 私が、普通……!?」
彼女は愕然と身を震わせたあと、ふと首をかしげる。
「それはそれで悪くない気もしますね!」
「どういう思考ロジックなんだ」
意外と度量は大きいようだった。



