テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
エピローグ
いつもの、と言うにはまだ馴染みのない。
でも愛おしいとは思える、オーバーカムのある日。
「ここにラグを置きたいのよ。ああ、ラグじゃなくラグね」
「わかりにくい名前でごめん」
サリスに頼まれてやってきたクラスルーム。
現在クラス一同で家具を用意するべく奮闘していて、俺の担当はラグの用意だった。
ジョークの類かな?
「んー、使うならゴートの毛皮かな。持ってないんだよなあ」
「本当に暇がある時でいいから、取って来てくれると嬉しいわ。クラフトは私にも任せて頂戴」
「了解、近い内にお持ちしますよ、委員長」
「…………ねえ、ラグ」
と、サリスは少しだけ口をつぐんだ後、こう囁いた。
「もっと上位のアイテムを持ってきてくれても……私は構わないのよ?」
「……えっ?」
も、持ってます!
二段階ぐらい上位のゴーンゴートの毛皮なら今すぐでもお出しできます!
「い、いやあ。そんなの俺にはちょっと無理かなあ」
もちろんそんなこと言えるわけもなく、俺はごまかすように笑うことしかできなかった。
しかし──サリスはどこか楽しげに笑って、そっとこちらに顔を近づける。
「……職業柄かしら。私、人の所作がつい目についてしまうのよ」
「は、はあ……?」
「ローブを着て誤魔化していたようだけど、剣の動かし方だとか、身体を回すときの癖だとか、あなたの身のこなしは独特なの。妙に慣れているというか、自分なりの哲学があるというか」
「そ、それは、あの……」
いや、まさか、え? バレ、てる……?
血の気が引いていく感覚に震える俺に、サリスは変わらず機嫌良さそうに続ける。
「あと、スズネが言っていたのよね。黒いローブの人とすれ違った時に小さな呼吸音が聞こえて──それがとっても聞き覚えがあったって」
「呼吸音で判断ってなに!?」
「あの子、人の声にすごく敏感だもの。息の吸い方は人によって個人差があるから、彼女にはそれがわかるんでしょうね」
「ま、待って、いやちょっと本当に」
「あとダテが匂いを判定するスキルを取得していて」
「今すぐ毛皮をご用意しますんでもうやめてくださいいいいいい!」
ああああもうううう! G組のみんな優秀すぎだろうがあああぁっ!
「俺はどうすればいいんだよぉ……」
がっくりと座り込んだ俺の肩を、小さな手がそっと撫でる。
「大丈夫ですって。みんな知らない振りをしてくれてるなら、それでいいじゃないですか」
「知らない振りをする人はレベル300超えの毛皮を笑顔で受け取らないんだよぉっ!」
あんなの賄賂の類だろうが!
ラグに使うならまだいいけど、防具に使われたらとんでもないオーバーパワーだぞ!?
「まあまあ、みんな未来のリア軍団の一員ですから! ちょっとバレるのが早くなっただけですって!」
「相変わらずポジティブだなあ!」
バレたのはリアに乗せられたせいもあるっていうのに!
「それに──どうせ私がバラしますから」
「……は?」
とんでもないことを言い出したリア。
まさか裏切り宣言!? 契約違反!?
驚きに固まる俺に、彼女は重ねて言った。
「ラグ君がテスターだってこと、隠さなくていいようにします。すぐには無理でも、いつか、必ず、絶対に」
「リア……」
「だってほら、見てくださいこれ。私だけはラグ君とPTを組んでたので、暴食を食い尽くしたって実績が解除されてるんです! 達成率0・2%ですよ!」
リアの見せた画面には、俺と彼女しか持っていない実績が表示されていた。
「卒業するまでには、こういうレア実績を後輩に語り継がないといけませんからね。後のコンプ勢のためにも、完全攻略の記録は残すのが義務というものです」
なので、とリアはにっこりと笑った。
「ラグ君の知識が常識になるぐらい完全に攻略してみせますから、待っててくださいね!」
「──やっぱり俺、便利に利用されてる気がする……」
「そんなことないですってば!」
きっと君も自分の理想を叶えられる、夢の場所。
誰もが思うがままに、自由に生きられるオーバーカム学園。
当校では、来年度の新入生を募集しています。
■プロジェクトR 方針決定 経営者会議 議事録より抜粋
──一応言っとくけど、あたしは賛成しないからね
──そうか……では残念ながら中止とするか……
──部下が賛成しないってだけで中止にしないの!
──別に反対はしないから、やるべきだと思うならやればいいでしょ
──いやいや、それで逃げられると思うなよ
──ここで決まったことは一蓮托生。どれだけ嫌がっても逃がさないからな!
──ああもう、なんでこんな連中に付き合っちゃったのかしら……
──まあいいわよ。後出しが嫌ってだけで、言いたいことはわかるし
──じゃあ全会一致だな、社長
──うむ
──誰もが楽しめる世界。自分らしく生きられる場所。三年間だけの理想郷
──それは素晴らしい場所で、確かに我々の求める世界ではあるが……
──真に必要なのは、その先の未来へ向かえる強さだ
──世界の喪失が我々に与えてくれた力を、どうか後進にも伝えたい
──彼らにこの理想郷を心から愛してもらい
──その上で、我々が叩き壊す
──あらがってみせよ、生徒達
──それでこそ、君たちの未来は拓けるのだ!
──くっくっく……はっはっは……はーっはっはっはっはっは!
──あ、授業はちゃんとやるのよ。それだけは絶対条件ね
──半壊した校舎で受けさせるのもアレだし、校舎は無敵属性かなあ
──むう、片手落ちな……壊滅させねば物足りんぞ……
──ゲームの中にプレイヤーを閉じこめた男の話があったが
──その気持ちが少しわかったかもしれん
──有名な悪役に感情移入するって、一番ダサいやつでしょ
──感覚の再現ができなくて本当に良かった……
以上をもって、プロジェクトRの方針を決定。
運営目的はオーバーカム学園の『完全攻略』。
生徒諸君。
どうかこの試練を乗り越えることを願う。



