オープニング1
ギャルゲーの主人公になってみたいだろうか?
俺はなってみたいと思わない。
というのもギャルゲー主人公は、ヒロインを狙う組織を壊滅させねば〜だとか、ヒロインにかけられた呪いを解呪せねば〜だとか、ヒロインのトラウマを解消せねば〜だとか、ヒロインと結ばれるために障害を乗り越えなければならない存在だからだ。
しかも人生を懸けて苦難を乗り越えた先にようやく得られるのは、ヒロインと結ばれるという結果だけ。
しょっぱい。しょっぱすぎて無償と変わりない。
ギャルゲーの主人公はいわば愛の奴隷。そんな存在に誰がなりたいというのだろうか。
そういうわけで、なってみたいと思わないのに。
「俺、ギャルゲー主人公だ……」
不意に現実のしがない高校生だった自分の記憶を取り戻した結果、どうやら俺はギャルゲー主人公らしいことに気付いてしまった……いやいや、そんなバカな話はない。
俺は立ち鏡に映る自分の姿を再度観察してみる。
色白の小さな顔、すっと通った鼻筋、薄い唇、長い睫毛が生えた涼しい目元。
クールなパーツが揃っているが、子どもみたいに柔らかそうな黒髪も相まって、あどけなさが残った顔立ち。
体格は全体的に線が細く、襟の間に露出している肩のラインや開いたボタンから覗く鎖骨には、美少年好きのお姉様方が愛して止まなそうな色気がある。
そんな監獄での生れ育ちを感じさせない容姿を観察し終えて確信する。
お嬢様ヒロインと執事見習いの主人公が次期リーダーを育てる学園で恋を育むゲーム『お嬢様と執事見習いの四重奏』。鏡に映っているのはそのゲームの主人公、湊理玖であると。
つい数秒前までの俺は『明日から高校に入って初めての夏休み! ぐーたら過ごそうかな?』と浮かれていたのに……。もしくは『るんるん♪ 平和な日本にやってきて、漫画やアニメで見た平穏な学生生活が送れるぞ。わーいわーい』と内心喜んでいたのに……。
天国から地獄。膝から崩れ落ちてさめざめと泣く。
「うぅ、どうしてこんなことに……」
涙で霞んだ視界の端にデジタル時計を見つけた。
日付は、四月八日。今日は学園の入学式の日。ちょうどニューゲームの状態。
なら……大丈夫なんじゃないか?
ヒロインの誰とも出会っていないので俺はまだ主人公ではない。ヒロインたちと関わらないことで、愛の奴隷になることなく平穏な自分の人生を歩むことが出来る。
もう一度デジタル時計を見ると登校の時間が迫っていた。
入学初日、薔薇色の学園生活の始まり。
俺は身支度を手早く終え、ヒロインたちと関わらずに平穏な学生生活を送るんだ、と靴紐をきゅっと締めた。