一章 ⑤

オープニング3


 入学初日の本日は午前授業。

 友達が出来たみなさまは親交を深めに食堂へ行き、出来なかった者はまくららしにりようへと帰っていく。

 俺はというとつかまり、お弁当を食べに屋上へ無理やり引っ張られていた。


「お昼ご飯、楽しみだね」

「ソウデスネ……」

の好きなあまじょっぱい卵焼き作ってきたからね。ふふっ、なつかしいなぁ、のお弁当を作ろうとして『ア、アンタの好物ってなに?』ってぶきっちょに聞いたっけ」

「あはは……そうだったね〜」


 こめかみにあせが流れるのを感じながら、無理やりみをかべる。

 あまじょっぱい卵焼きは、みなとが来日して食し感動を覚えた大好物。俺も好きなのだけれど、まったくそそられない。

 それも当然。関わりたくないという思いに加えて気まずさがある。にはてきな思い出なのだろうけど、俺には『あ、こいつどうせ弁当作ってくんな』という画面外で冷めていた思い出しかないのだ。……うん、罪悪感で胸が痛い。


「ん? どしたの?」


 どうやら顔に出ていたようで、がひょこと背を曲げて俺の顔をのぞき込んできた。


「い、いや何でもないよ。屋上に行こう」


 階段を上りきって屋上へのとびらを開く。


「うわっ」


 けた青空が視界いっぱいに広がっていた。

 出てみると、少し冷たい風にはだでられてそうかいな気分を味わう。やわらかい春の日差しもねむりたくなる暖かさで、立っているだけで気持ちいい。

 がった桜の花びらがくるくると目の前を通り過ぎる。追いかけるように際まで行って見下ろすと、広大な学園の至る所にく桜に目をうばわれた。

 知らずして開いていた口を閉じようにも閉まらないので、口元を手で押さえる。いや、れいだと、そんなちんけな感想を口に出すことがはばかられたのかもしれない。

 少し視線を上げてみると遠くに混み混みとした街並みが見えた。この学園は山の上にあり、屋上はこのあたりで一番高いところにある。どうして何でもない風景であっても高いところから見下ろすと絶景に思えるのか、そんななぞが深まる景色にかんたんのため息をらす。

 プレイヤーとして画面しに見ていた景色だけど、実際に目にしてみるとこんなにもちがうのか。


「どしたの、?」

「景色がれいだなって」

「何度も屋上に来てるのに。ってば、わいいなぁ」


 すずが転がるような笑い声をあげる。彼女のがおはあまりにも屋上の景色にえていた。絵画を切り取ったよう、なんて月並みな表現が似つかわしい。人をとりこにするためだけに作られた青春アニメ映画のワンシーンのようで、ろくな青春を送ったことがない人が見れば何日もうつくつとした気分にさいなまれるようなりよくがある。

 心臓が高鳴る。バクバクと脈を打つ。

 そうだよ。よくよく考えてみなくともゲーム世界のヒロインが現実にいるんだ。りよくあふれる彼女のとりこにならないなんて現実的じゃない。


「さぁ、ご飯食べようよ」


 屋上のベンチに座ったにちょいちょいと手招きされおそおそとなりに座ると、桜に引っ張られて甘い香りにこうをくすぐられる。しようにそわついてきて、心臓のどうがさらに速まる。


「今日入学式だったけどさ、きんちようしなかった?」

「いや、特には」

「えー、私はきんちようしたんだけど、ずる〜い」


 なんて何気ない会話は次から次へと風に運ばれていく。

 言葉を口にする。言葉が耳に届く。それだけでりんのようなみずみずしいあまっぱい空気が流れてくる。

 開放的な屋上がそうさせるのだろう。気分はこうようしていた。だからかたを寄せてくるに俺もかたを預けた。

 きやしややわらかな女の子の体がれる。体温が伝わってきてここよく、このままけてしまいそうな感覚におちいった時、はしにつまんだ卵焼きを差し出してきた。


「あ〜ん」


 口を開けてむかれる。あまじょっぱいはずの卵焼きはひたすら甘い。

 が「えへへ」と笑うと、れたかたの温度が上がった気がした。流れる空気もキャラメルを転がしているようにく甘くなる。

 ……そうだよ。ちゃんと生きている人間。現実のりよくあふれる美少女。こわがっていたけれど、甘い生活を送るのはいいかもしれない。

 なんて思った時、屋上のとびらが開いた。


「……何してるのかなぁ? くん?」


 出てきたのは、本来屋上で向日葵ひまわりいているのが似合いそうな美少女。今はてついたがおわかだった。


「それに。何してんの?」


 れたかたこおりつきそうになってあわててはなれる。


「は? わかこそ何?」


 どすのきいた声を聞いて思う。

 あ、やっぱかんちがいだったわ。全然良くない。関わりたくない。というか、このじようきようどうしよう。


?」

くん?」


 前言てつかい。やはり四月じようじゆんの屋上は寒い。外に出ているとをひいてしまうので、ここは帰らなければならない。決してこわくなったわけではないが、帰らなければならない。


「ちょっと寒くなってきたから帰るね。それじゃあ」


 とベンチを立つが、ぐいとうでつかまれてひきとめられる。


、どこにげるつもり?」


 こうりやくされる前のように冷たい。


くんが屋上に行ったと聞いて来てみれば、ねえくん? 私という彼女がいながら、これはどういうことかなぁ〜?」


 ねこごえわかみちふさがれる。

 きさらぎわか。代々政府の要職をになってきた一族、警察庁長官のむすめ

 あれ? んだ?


「私という彼女がいながらって何? こいびとは私なんだけど?」

「ん? 何かにゃ? は頭がおかしくなっちゃったのかな?」

「は? おかしくなったのはわかでしょ?」


 ぴきぴき、と二人のこめかみに青筋が立つ。

 ひっそりげようとしたが、うではガッチリとつかまれたままでげられそうにない。


「いやいや、は私のこいをサポートするのにくんと二人きりにしてくれたよね?」

「そんな事実ないし。むしろ私の思いに気付いたわかが、四人で遊びに行こうってさそってドタキャンして、私とのデートをセットしたじゃん」


 しばらくの無言ののち、二人は同時に口を開いた。


「「頭でも強く打った?」」


 二人の息ぴったり! これは仲良くやれそうだな! 安心安心! じゃっ、ここらでおじや虫は退散……出来ない。わかに視線だけで足を止められた。

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ギャルゲー世界にニューゲームしたら、ヒロイン全員攻略された記憶があって修羅場です……2の書影
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