一章 ④

「どうしたの?」

「いや、何でもない……いや、何でもないということはない」

「ん? なんか、変なとこあった?」


 あるだろ、入学式におててつないで入場って何? 6年生と1年生? てか、手をはなしてください。

 とは言えるはずがないので、


「ほら、手をつないでるとこ見られるのずかしいから」


 代わりにそう言った。


「何言ってるの、みんなの前で『は俺の彼女だって知らしめてやる』ってずかしがる私の手を引っ張ったのはじゃん、あぁ、あの時の、格好良かったなぁ」


 そうだった……。ルートで俺は文化祭を回るときにそんなことをしていた。

 何やってんだ、未来の俺……。

 ってあれ? 見られる?

 と手をつないでいるところをひめに見られたらどうなるだろうか。

 ぶるり、とふるえる。


、ま、まだ手をつなぐのは早いって」

「早い?」

「そう、ほら、えーと、あれ。またこいびと未満の関係を楽しみたいって言うか、ね?」

「友達以上こいびと未満……いいかも。昔の私はのことが好きなのになおになれなくて。でもも私と同じだったんだ……うれしい」

「そうそう」


 うそである。

 ストーリー上のみなとは、気持ちがおさえきれなくなったの告白に心うごかされて好きになる。だけど手をはなしてくれたので、下手なことは言わないことにした。

 の何でもない話を聞き流しながら歩いて体育館にたどり着く。

 バスケットボールのコートが二面取れるたい付きの体育館には、パイプがずらっと並べられていた。馬鹿みたいな設定の割につうの入学式って感じがする。多分、CGの都合だろう。


ぅ、はなれたくないぃ〜」

だいじよう、すぐにまた会えるから」


 上京するこいびととの別れくらいしむと入学式が終われば本当にすぐ会う約束をわして、出席番号で定められた自分の席に座った。

 席に座ってしばらくして入学式が始まったが、話なんか頭に入ってこず、ただただじようきように頭をなやませる。

 ひめも俺のことをこいびとだと思ったまま近づいてきてるよな……。

 関わりたくないが、こうなったらけるのは難しい。

 仕方ない。あなたたちとは関わることが出来ません、と正直に言おうか。

 このゲーム、関係が進まなかったヒロインには何の事件も起きないし。そうじゃん! どのルートにも入らなければだれも不幸にならなくてすむのでは?

 よし、そう言ってみるか。シミュレーションしてみよう。


『俺、君らをこうりやくしたけど、関わりたくないんだ』

『は? 死にたいの?』


 ……ダメだ。ミンチにモザイク、大量のこいが口パクパクしてるところまで見えた。

 さらにいやな想像は止まらず、俺のことをこいびとだと思った二人がはちわせてしまう展開まで想像してしまう。

 どういう関係なの? とめられたとき、どちらも俺のこいびとでした、と事実をけば俺はどうなるだろう?

 ゆきしろひめ。日本の財界、政界に大きなえいきよう力を持つゆきしろ家の未来の当主。

 いつぱん家庭で育ち使用人クラスにいるが、実はこのゲームにしか存在しない国レシステンシアのひめぎみ

 みな相当な権力者で、うわなどと思われたら消されてもおかしくない。

 しかもこのゲームのヒロインは三人。ふたまたでさえ消される未来が見えているのに、さんまたならどうなるだろうか……うん、おそろしくて仕方ない。

 いつたん、考えないようにしよう。メンタルがもたない。

 に座り直し顔を上げると、ちょうど新入生代表のあいさつの最中だった。


「私たちはこの三年という貴重な時間、部活動に、学業に、夢に、青春に、れんあいに、れんあいに、大体れんあいに日々しようじんしたいと思います!」


 こんなあいさつだっけ……。

 たい上の新入生代表を見上げる。

 黒に近いせいはつさわやかなショートカット。あふるキラキラしたふんは、白いすなはまに青い海、真夏の太陽といった背景が見えるほど。貴族クラスだけれどおじようさま感はなく、清純派トップアイドルのような顔立ち。しゅわしゅわのラムネをほっぺたにくっつけてきてニカっと笑う。そんな姿が似合いすぎる彼女はヒロインのきさらぎわかだ。

 あ。

 わかと目が合った。

 遠くからでもわかる、熱っぽい重たい重たーい愛情のこもった目。

 ……俺はうつむいた。

 それから入学式の間ずっとうつむき続け、式が終わるとかたを落としたまま立ち上がる。


、帰ろ?」

「……うん」


 終わってそく俺のところにきたと歩き出す。こういうところでも接近を許すほかなく、本当にどうすればいいのか頭をなやませる。


わか、元気そうだったね」


 元気そう、それは未来からもどってきたからこその言葉だろう。それにファーストネーム呼びの親しい感じも、共通ルートでわかと課題にいどみ、友達になった未来から帰ってきたからこそだろう。


「うん。まあ元気そうってのもおかしいけど」

「あはは、そだね。で、ところで?」


 たずねられたので、に顔を向ける。

 そこにあったのは冷たいがおとどす黒いやみの目。


「あのぎつねに色目使ってたように見えたけど、あれ何?」

「……気のせいじゃない?」


 俺はから顔をそむけた。

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ギャルゲー世界にニューゲームしたら、ヒロイン全員攻略された記憶があって修羅場です……2の書影
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