一章 ③

 入学したて特有のわいわいがやがやにぎやかな教室。

 あちこちでしんぼくを深めようとぎこちないやりとりが行われている中、俺はこうを気取る痛いやつという評価をおそれることなく自分の席で考えごとをしていた。

 ゆきしろひめこうりやくされたあとのおくがあった。あの喜びようを見るに俺と同じくプレイしたというわけではなく現実として経験したのだろう。

 ひめは俺のことが好きだと思うけど、俺は別にそうじゃないんだよなぁ。

 いくら画面の外でブヒブヒ言ってようが、現実と同じだけのれんあい感情をいだけるかというと否だ。

 俺は単にゲームでれんあいしただけ。俺にとってれんあいと現実のれんあいは全くの別物。実際にれんあいしたわけでもないのに、実際にれんあいしたひめと同じだけの気持ちを持てようはずがない。

 だからおもいには応えかねる。

 それにひめの気持ちに応えればひめルートが進行してしまう。

 ひめルートでは様々な困難が待ち受けるが、中でもゆきしろ家のあと争いによって命がねらわれるという展開がある。そこで俺は暗殺者からひめかばってじゆうだんを受けることになるのだ。

 知識があるためその展開はけることは出来るかもしれないが、むしろけたら別の方法でねらわれておぶつという可能性も考えられる。

 そういうわけで命の危険があるひめルートにどうして入らなければならないのかという話。へいおんな学園生活を送るためにはひめとは関わりたくないという話だ。

 ただヒロインたちをこうりやくしておいて何て無責任な話でもあるけれど……あれ? ヒロインたち?

 他のヒロインのおくはどうなっているのだろう、と俺はとなりの席を見た。

 まだ空席。ここには別のヒロインが座る予定。海外出身のぎんぱつへきがんギャルとかいった欲張り属性のむすめが座る予定。

 最初の出会いイベントはたしか……。


となりになったんだ、よろしくな』

『は? 話しかけないで、キモ』

ずいぶんと冷たいな』

『そりゃそうでしょ。ここにいるのはみなしつ、メイドの座を争う敵。気安くなんてなれるわけない』

『よくしやべるじゃないか』

『────ッ!? うっさい! 馬鹿!』


 だった気がする。

 そう思ってまもなくとなりの席のが引かれ、女の子が席についた。

 かがやぎんぱつとおるマリンブルーのひとみ、色素がうすとうめいはだ。森の氷張る湖にいるようせいのようなめぐまれた顔にはギャルっぽいメイクがほどこされている。だれでもわいくなれるギャルメイクといううたもんに、じゃあ美少女がしたらどうなるのか、と疑問をいだいたことがあるが、その答えが彼女。おにに金棒を体現している。

 スタイルもモデル体形でばつぐん。読モのカリスマ感まであふれているのだからりよくは暴力的ですらある。

 そんな彼女の名前はひめと同じくゲームのヒロインだ。

 この子もおくがあるのだろうか、と内心ひやひやしながら様子をうかがう。

 おや?

 しばらくの間目を向けていたけれど、特に不自然な様子はない。

 もしかして、もしかして……おくが、ない!!

 おどりしたくなったしゆんかんほおが染まった。


「うぅ、そんなに見ないで。デレデレになっちゃうぅ……」

「えぇ……」

「そんなに見られたらもうくしたくなる。せ、せっかく、入学式の朝にもどったんだから関係リセットしてを甘やかす立場をやめようと思ってたのに」


 。ルートに入って結ばれると、彼女はツンケンギャルからくしてくれるこいびとに変わる。

 ということは、にもおくがあるってことか……い、いや、万が一があるかもしれない。

 俺はわずかな可能性にけてたずねる。


「もしかして、おくがある?」

「うん! にもおくがあるってことだよね!」

「まあ……」

うれしい。今度は最初からこいびととしてくせるんだね」

「さっき甘やかす立場をやめようとか言ってなかった?」

「そ、そうだから! 私、を甘やかすのはやめるから! 私も甘やかされたい! あ、ところで、お昼持ってきた?」

「いやないけど」

のために、お弁当作ってきたんだ。いつしよに食べよう?」


 ぐいぐいくるを見て、どうやったら関わらなくて済むかはわからなくなった。ただ、が甘やかす立場からけられないであろうことはわかった。

 きようだんに立ったスーツ姿の教師が厳格なふんで口を開いた。


「諸君、入学おめでとう」


 にぎにぎ。


さつそくかれているところに水を差すようなことを言うが、この学園に入学したからには気をめてもらいたい」


 にぎにぎ。


「この学園はつうとはちがう。君たち使用人クラスの生徒は、貴族クラスの方々の手となり足となる従者だ。君たちのはじは主人たる貴族クラスの方々のはじになるため、かれず品格を持って行動するように」


 にぎにぎ。

 ……ずっと俺の左手をつかまえたが、肉球を楽しむように両指でにぎにぎしてくるんだけど。

 困って顔を見ると、はへへっとほおを染めて笑った。

 へへっ、じゃないんだよな。こいびとなら『こいつぅ〜』となるだろうけど今は他人。わいらしさなんてなく、見知らぬ人に手をにぎにぎされるきようしかない。

 どうしていいかわからないから放置しているが、一向にはなされる気配がない。

 どうしよう本当に。


「えー、で、あるからして……」


 あ、先生がこっち見た。


「……気をめて、学園生活を送るように」


 おい、先生目ぇそらしたぞ。

 いやまあそりゃそう。こんな真面目な話の最中にずっと手をにぎにぎしてるヤバいやつがいれば、見なかったことにしたくなる。


「ではこれから入学式場の体育館に向かう。全員、ついてくるように」


 先生に従ってクラスメイトがぞろぞろと動き出すと、も立ち上がった。


「私たちも行こ?」


 小首をかしげるの見た目はとてもわいい。ぎんぱつがさらりとれるたびにかがやき、青色のひとみの深さにはまれそうになる。

 れてもおかしくないが急にこいびとつなぎで手をつながれたきようまさり、そうはならなかった。

刊行シリーズ

ギャルゲー世界にニューゲームしたら、ヒロイン全員攻略された記憶があって修羅場です……2の書影
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