第一章 無題 ~イエロー・エンデミック~ ⑤
しかし、
「いまのうちに……切って……」
消え入りそうな声は絶望に暗く、彼女は痛々しいほどに体を震わせていた。
「な、なに言ってるんだよ。そんなことしたら君が」
「いいんです! あんな本、この世にあっていいわけない! お母さんも、友達もみんな消した、あんな本なんて……!」
「一応あなたが命ずれば被害者たちは帰ってきますが」
「そんなこと……」
淡々と吐いた言葉がいかに残酷であるかをアーカイブは理解していない。
きっと《
「いや、もうあれは破壊しない。対象の無力化を確認して、コントロール可能なこともわかった。君と一緒に保護させてもらう」
精一杯優し気な笑みを浮かべて、
だが、
「今回の任務は対象の破壊です。規定違反では」
アーカイブから発せられた言葉。感情のない瞳が
「なら、お前は殺したほうがいいって思うのか」
「私は何も思っていません。それに、少なくとも私がそうするとも決まっていません。ただ、規定の話をしただけです」
アーカイブは静かに目を閉じて口をつぐんだ。
しかし、
「……アーカイブさんの言う通りです。このまま切ってください。こんなのあり得ないよ……。私もう……こんな姿で、生きているとも言えるか分からない状態で……存在していたくない……」
ピクリと、
「それに、町の人たちも私のせいで消しちゃって……そんな私がこれからまともな人生なんて、送れるわけないじゃないですか……送っていいわけが……」
「甘えるな」
ビクリと少女は
「消えた人は戻ってこない。たとえ理不尽であっても君が惨事の引き金になった事実も変わらない」
「あの本は確かに危険だ。消すべきだって考えも正論だ。でもそれを君は現実から逃げたいためだけに言っている」
「でも……!」
「俺は君を殺さない。
脳に
血だまりに倒れ伏す切り刻まれた死体。その中心に立つ自分自身。優しくしてくれた人、襲い掛かってきた人、その誰もが絶命している。他ならぬ、
「……じゃなきゃ、君の家族も友達も、本当にただ無意味に死んだことになるぞ」
「……!」
少女は息を
「君はちゃんと生きられるはずだ。俺達と違って君の運命はまだ決められてないんだから」
少女はその場にくずおれ、ただひたすらに泣き続けた。
こうして、《
とはいえ、移送までの手続きは時間がかかるので、
豪勢なリビングで二人はテレビを前にしたソファに腰を下ろしていた。
しっかりと弾力を返してくるシートに身を沈めながら、アーカイブはノートパソコンに報告書を書き込んでおり、
「……はい。だから残りの手続きをお願いします」
『おーけー。それにしても、本当に破壊しなくていい理由を見つけてくるとはね』
「……たまたまですよ」
『たまたま、ね。君が言うととても悲しい言葉に聞こえるよ。手続きは任せなさい。デスクワークが上司のお仕事だからね』
「……ありがとうございます。
『なんだい急にしおらしく。いいさ。じゃ、ちゃんと
通話が切れる。
「お疲れ様です」
隣で作業をしていたアーカイブが伸びをしながら口を開く。
「今回のあなたの不幸はティルフィングをどれだけ満足させられましたか?」
「…………」
「それなりに満足したらしい。《
「自ら強いた運命でしょうに、なかなかいい性格をしていますね」
「全くだ」
脇に置いていた
「……そういえば、あの子の友達にもいたけど、事件当時消えなかった人も何人かいたんだよな? あれはどういうことだったんだ?」
「ああ、その件ですか。私も不思議に思っていましたが、この家にあったいくつかの本を見たときにわかりましたよ」
「え、マジで?」
「ええ。《
「その文字って?」
「『藤』、『中』、『朝』、『日』の四文字です」
「……おいおい」
《
かの男は



