序章 ⑧

 勝手に投票されて失格になっていたなんて最悪だ。五日間、体調には気をつけよう。

 続けて、先輩が手を挙げる。


「投票会議以外でのゲームに関する言及は禁止とありますが、演劇部以外の人と話す際もでしょうか? 突然演技したらびっくりさせると思って」

「部活動の一環であることは話してもらって全然構いませんが、ゲーム内容は伏せてください。興味を持った生徒たちが介入する事態になってはゲームの根幹を崩しかねないので。先生たちにはすでに許可を取っているので安心してください」


 よくこんな企画を許してもらえたな。かえで先生って意外と人望が厚いのか。


「なので基本的には授業中も演技してもらいたいのですが、人間関係や学校生活に支障をきたさない程度に行ってください。もし何らかのアクシデントが発生した場合は、即刻ゲーム自体を中止にします」


 そこで質問は止み、沈黙が流れる。

 俺は黒板に書かれたルールを改めて確認しながら、『生徒』の一日の動き方を頭の中でシミュレーションする。

 登校してからフレンドリーなキャラを演じる。

 投票会議が始まる前までにお題をクリアしつつ、他プレイヤーの動向に注意を配る。

 放課後この部室で行われる投票会議に出席し、『悪魔』が誰なのかを推理しながら自分が疑われないよう立ち回る。

 ……と、こんな感じか。簡単なような難しいような。


「他に質問はないようですね。では来週の月曜日からスタートですので、明日からの二日間で自身の役柄を調べて演技できるようにしておいてくださいね」


 休日を挟むのはそのためか。たしかに今日の明日やれというのは酷だ。

 やっぱり演技が一番のネックか。ふかもりと話すときを想像しただけで恥ずかしくなる。

 それはまだ部活に入って二ヶ月しか経たないリョウたちも同じ気持ちのようで、顔に不安の色が滲んでいる。特に二人は人気者だから人との交流が多いしな。つらそう。

 そんな俺たちの様子を心配してだろう、かえで先生が朗らかに言う。


「一年生はまだ演技に慣れていないだろうからできるかぎりで大丈夫ですよ。特にしばくんは無理せずにね」

「はい! ありがとうございます」

「…………」


 そのやり取りが少し気にかかったが、あえて訊ねるまではしなかった。

 ちょうど下校時刻が差し迫っていることもあり、そこで部活は終了した。


***


 その日の夜。

 晩飯を食べたあと、自室でフレンドリーな人の特徴を調べていたらスマホに電話が掛かってきた。

 着信名には〝リョウ〟と表示されている。


「…………」


 どうせ放課後の件について掛けてきたのだろう。出たくねぇ。

 だがこのまま無視した結果、ゲームに私怨を持ち込まれては堪ったもんじゃない。

 しかたなく通話を繫げた瞬間、


『おいとお、放課後のアレはなんだ! 危うくバレるところだったじゃないか!』


 果たして、思わず受話口から耳を遠ざけるほど喧しい怒号が聞こえてきた。


「……もしもしぐらい言わせろ。あれは悪かったって。無事にごまかせたんだからいいだろ」

『よくないっ! お前との関係がバレたらオレも同じ目で部活のみんなから見られるんだぞ、そもそもなんで参加してんだよ!?』

「そりゃ先輩に誘われたからだ」

『それは知ってるわっ。なんで断らなかったのかって訊いてんだ!』

「だって面白そうだったし。それに想像してもみろ。あの先輩に『一緒にやろ』って上目遣いで懇願されてお前だったら断れるか?」


 どうやら反論できないようで無言になる。まったく、先輩の可愛さを舐めないでほしい。

 やがて降参したように『くそぉ……なんでとおにあんな素敵な彼女が……』と恨み節をいたあと、


『はぁ。ただでさえ悩んでるってのに……』

「ん? なんか困りごとでもあんのか?」

『たった今、お前にな! 頼むからもう渾名で呼んだりなんかするなよ!』

「はいはい」

『あとゲーム中だからって極力話しかけてくるな!』

「へいへい」

『ほんとに分かってんのか? 二度と失言しないよう、せめて学校にいる間は心の中でも常に苗字で呼ぶ癖をつけとけ!』

「わかったわかった。じゃあな」

『あ、おい──』


 強引に通話を切り、スマホの電源を落とす。これ以上話しても確認を繰り返すだけだ。

 ついこの前までは俺の悪評を晴らすのに協力するとかカッコいいことを言ってたくせに。

 やっぱりあいつは自己保身の塊だな。めんどくせぇ。