序章 ⑦

「三つ目、お題についてです。

『生徒』には一日一つ、計五つのお題があります。内容はそれぞれのプレイヤーで違うものを用意していますので投票会議が始まる前までに達成してください。もし達成できなかった場合、その日のお題は未クリアとなります。

 滅多にないと思いますが、もし生き残った『生徒』のお題のクリア数も同じだった時は、他の失格したプレイヤーの話し合いのもと優勝者を選出しましょう。

 ちなみに『悪魔』にはお題がありませんので、そこを上手く利用してゲームを進めてください」


 なるほど。『悪魔』にとっては存在消しをしやすくなり、『生徒』にとっては投票会議の時の推理材料として活用できるわけか。


「また、お題クリアの成否は自己申告制とし、ゲーム終了後にまとめて確認します。各自クリアしたお題をメモにとっておくなどして覚えていてください」


 はなから不正を疑っていない感じ、よほど部員たちのことを信頼しているようだ。

 かえで先生は【④演技】と書いて説明を続ける。


「そして四つ目、これが演劇部にとって一番肝心なルールです。学校生活中──正確にいえば登校してから下校まで、それぞれに定められた役を徹底して演じてもらいます。口調または行動で示してください」

「え、学校生活中ずっと……」


 演劇部で開催されるゲームだから演技の類いはあると予想していたが、まさか学校にいる間ずっとだとは思っていなかった。部員たちや元演劇部の先輩は慣れているだろうが、一切経験したことがない俺にとって人前で演技するのは厳しい。


「心配しなくても大丈夫です。役といっても細かに設定された固有の人物ではありませんから」


 そう言ってファイルケースの中から何枚かのプラスチック製カードを取り出す。


「百聞は一見にしかずです。今からこの配役カードを渡します。これには役柄と五つのお題、それに『生徒』か『悪魔』かの役割の記載がされていますので、他の人には見えないよう注意してください。念のため一旦席を離しましょうか」


 言われたとおり間隔を空けて座りなおすと、かえで先生が一人一人の元に行って手渡しする。

 やがて渡された配役カードなるものに目を通す。

 トランプよりも一回りほど大きいサイズ。あらましのホラーチックな雰囲気を再現したかのような白黒で統一されたデザイン。

 表面には〝Theaterシアター clubクラブ gameゲーム〟とオシャレっぽい英文と、不気味に微笑む悪魔のイラストが印刷されている。なんと手の込んだ作りだ。

 続いて裏面。文字がびっしりと並んでおり、上部には大きな字で役柄と役割、下部には日数とともにお題の内容が書かれている。

 上部から確認していく。

〝フレンドリー〟な『生徒』。

 まず『悪魔』じゃなくてホッとする。存在を消されないように注意して推理しつつ、他の『生徒』たちから無用に怪しまれない行動を心掛ければいいわけだ。

 そして役柄フレンドリー。友好的という意味か。たしかに細かい設定等はないようだが、これは逆に抽象的すぎる。人当たりの良い役を演じればいいのだろうか。

 次に下部のお題。


1日目、クラスメイトと合計十分以上会話をする。

2日目、先生の頼みごとを完遂する。

3日目、球技大会で優勝する。

4日目、クラスメイトの手伝いをする。

5日目、クラスメイトの悩みを解決して感謝される。


 ゲームが始まってからの日数に続いてその日の内容が記載されている。3日目以外は役柄に沿った内容だ。

 てっきり一人でできることだと思っていたが、甘い考えだったか。他人が関わってくるとなれば不良の噂が付きまとう俺には難しいな。

 先輩とのデートという夢が遠ざかったような気分になりながらも、他の人の様子を窺う。

 反応は俺と似たり寄ったりだ。真剣な面持ちで食い入るように見たり、顔をしかめていたりとゲームの難易度に四苦八苦している感じ。……先輩だけは胸を躍らせるように楽しげだけど。

 静まり返る中、突然リョウが声を上げた。


「あのっ、これはかえで先生が考えたんですよね?」

「ほとんどはそうですよ。お題に関しては他の先生に少しアドバイスを頂きましたが、役柄に関しては先生が見たい……もとい、普段の性格とはあえて異なるようにと意識して考えました。なにか問題がありましたか?」

「い、いえ。大丈夫です。ただ知りたかっただけなので」


 そう言うと、ふたたび配役カードに視線を落とす。

 なんだか妙に慌てた様子だったが、意外な内容でもあったのだろうか。

 それから少し時間を置いたあと、かえで先生の「把握できたでしょうか?」という質問に、各々配役カードから顔を上げることで肯定を示す。


「大丈夫そうですね。それでは最後に禁止事項についてです」


 そう言って【⑤禁止事項】と書いたあと列挙していく。


 ①ゲームの進行を妨害する。

 ②投票会議以外でのゲームに関する言及。

 ③役の放棄。

 ④配役カードを見せ合う、または盗み見る。


「──この四つが禁止事項になります。まず最初の三つですが、GMの判断により合計二度の注意を受けたプレイヤーはその時点で失格です。一度目は大目に見たいと思いますが、二度目は厳しく判断しますので気をつけてください。四つ目に関しては、ゲームの優劣を著しく変えてしまうので行為が発覚した場合は即失格とさせてもらいます」


 そこで、先輩が訊ねる。


「質問です。役の放棄の判断基準は何ですか?」

「これはせんせいの裁量にってしまう部分も大きいのですが、ことですね」


 なんだか回りくどい言い方な気がした。要するに素の性格を出すのはご法度ということか。


「また、失格になったプレイヤーについてですが、ゲーム終了まで演技は続けてください。その間、他プレイヤーに情報を与えるなどの助言は一切なしでお願いします」


 大体は納得したが、二つ目の事項だけは厄介だ。おそらく協力プレイを防ぐために定めたのだろう。先輩と勝利に向けて情報共有するという企みが潰えてしまった。

 かえで先生は伝え忘れがないか確認するように説明用紙を見返したあとで顔を上げた。


「以上で、ルールの説明は終わりです。駆け足で話したので、もし分からないことがあったら遠慮せずに質問どうぞ」


 早速、つき先輩が質問する。


「学校を欠席した場合はどうなるんですか?」

「失格にはなりませんが、プレイヤーとして存在することにはなりますので投票会議のときに不利になることは覚悟してください」