序章 ⑥

 どうやら通常版とは異なるらしい。わざわざ説明だけに一日の部活時間を費やすのはそのためか。

 かえで先生は「それではそのルールを説明しますね」とホチキスの針で留められた用紙の束を手に取って黒板に向かう。


「先生は進行を務めるGMゲームマスターで、皆さんはプレイヤーです。プレイヤーは『生徒』八名と『悪魔』一名に分かれてもらいます。誰がどちらになるかは事前にランダムで決めてあるのでその通りに分かれてください」


 八対一……『悪魔』が圧倒的に不利だ。この人数なら二人いないとゲームバランスが崩れてすぐに終わってしまうが、さすがにそこは考えているのだろう。


「『生徒』は誰が『悪魔』なのかを推理して投票時に指名してください。『悪魔』は『生徒』にバレないよう上手く立ち回り、プレイヤーの人数を減らしましょう」


 ここまでは配役の名前を変えただけの人狼ゲームだ。


「そしてここからが演劇部オリジナルです。いくつかあるので順々に説明していきますね。もし疑問に思ったことがあったらその質問してもらって構いません」


 黒板に【①リアルタイム】と書き、授業のように話しながら続きを書いていく。


「まず一つ目、このゲームはリアルタイムで進行します。卓上で話し合うだけではなく実際に行動してもらうということです」

「つまり勝敗が決まるまで全てゲーム時間内ってことですか? 私生活や学校生活中も?」

「はい。つきさんの言うとおりで、来週の頭から始めて終わるまでその間ずっとです。といってもルール上、私生活でやれることはないので主に学校生活中になりますね」


 ただ放課後に集まってお遊び程度でやるんじゃないのか。想定していたよりも大々的だな。


「ゲーム期間は四、五日を予定していて、毎日の放課後の部活時間(17時から17時30分)に投票会議を開きます。各自、自分以外の誰かに無記名投票してください。時間内に誰の名前も明記しなかった、つまり白紙で出した場合は投票権を捨てたことになります。投票の結果、票数が多いプレイヤーは失格です。もし複数人が同数になった場合は新たに五分の投票タイムを設けて決選投票とし、全員が投票権を放棄した場合のみその日の投票会議は無効となります」


 俺は手を挙げて疑問を挟む。


「投票会議については分かりましたけど、ゲーム期間が四、五日っていうのは? 『悪魔』は一人なんだから早ければ一日目の投票会議で失格にして終わりますよね?」

「いいえ。勝敗がつくのは最短でも四日かかります。なぜなら既存のルールとは勝利条件が異なるからです」

「勝利条件?」


 かえで先生は「そうです」とにこやかに言って【②勝敗】と黒板に記入する。


「では二つ目、勝敗についてです。

 まず『悪魔』の勝利条件ですが、これは既存と同じで『生徒』と同数になることです。

『悪魔』は一日に一回、『生徒』一人の存在を消す(失格にする)ことができます。実行可能な時間は登校してから完全下校までの間とし、場所は学校敷地内とします。実行する時は対象となる『生徒』に軽く抱きつき、耳元で〝消した〟と呟いてください。

 存在を消された『生徒』はその瞬間ゲーム失格となり、その旨を他プレイヤーに他言してはなりません。また、次の投票会議が始まったときに席から外れてください」


 標的の隙を突きながら、『生徒』にその場面を目撃されないよう実行しないといけないのか。やはり『悪魔』は不利に思える。


「そして『生徒』の勝利条件は、ゲーム終了──五日目の投票会議後までことです。仮に早い段階で『悪魔』を失格にできたとしてもそこで終わりではなく、その後もゲームを続行してもらいます」

「続行って……『悪魔』がいない状況で『生徒』は何をやればいいんですか?」


 あらましで言うなら危機は去っているのだからそれ以上ストーリーは続かずエンディングだ。

 俺の質問の返答はれい先輩から返ってきた。


「決まってんでしょ。ゲームが終わるまで疑い合うのよ」

「それに何の意味が?」

「まだ『悪魔』が潜んでるかもしれないじゃない」

「でも『悪魔』は一人だって……」

「だからどうやって投票で選ばれたプレイヤーが『悪魔』だって確認するのよ?」

「……ってことは、『悪魔』が失格になってもGMからのアナウンスはないと?」

「そういうこと。発表されるのは五日目のゲーム終了後よ。ただし投票と『悪魔』による存在消しが毎日行われた場合、必然的に四日目で『生徒』と『悪魔』が同数になって終わるからゲーム期間が四、五日ってわけ」


 意味は分かったが、やっぱり意図が分からない。


「だけど連日で存在消しが行われなかった場合、『悪魔』が失格になったのは明らかだろ。とても疑い合う状況にならないと思うんだけど」

「だからわざと『悪魔』の嫌疑をかけて失格にさせるのもアリよ。まぁもし『悪魔』が残っていたら狙われる確率が上がるから自殺行為だけどね」

「……? 逆に疑いをかけられる羽目になるかもしれないのに、わざわざそんなことしないだろ。投票さえされなければ勝利条件を満たせるんだから」


 そもそも生き残るという条件自体がおかしい。『悪魔』が失格になった時点で『生徒』側の勝利は揺るがないのに、続行してまで無用な争いをすることに何の意義があるのか。


「ああ、まだ説明してないけど、この演劇部ゲームでの勝者は一人よ。そうよね、かえせん?」

「その通りです。そして勝者は、秋に開催される文化祭での主役に抜擢します」


 かえで先生がそう言った瞬間、部員たちの目の色が変わった気がした。

 ゆめ先輩が「それホントっ!?」と興奮気味に立ち上がる。


「ええ本当です。やはりゲームには報酬がないと意欲も湧きませんからね」

「やったぁ! やる気は元からあったけど、より出る出る!」


 他の面々も気持ちは同じようで、楽観的だった様子を引き締めている。部員でない俺には分からないが、それほど主役は貴重な体験らしい。


「ちなみにゆうなぎさんとふじしろくんのどちらかが勝った場合は、先生自腹で一日のデートに掛かる費用を贈呈しちゃいます」

「え、マジですか?」

「はい。お食事から娯楽施設その他諸々の代金すべてです。もちろん限度はありますが、可能なかぎり叶えますよ」


 つまりゲームに勝てばお金の心配をせずに先輩と休日デートを満喫できるわけか。

「がんばろうね」とニコニコして言う先輩に大きく頷く。俺の中で負けられない戦いが始まった瞬間だった。


「これで分かったでしょ。このゲームは『生徒』側になったとしても個人戦なの」


 たしかにこれなら誰かを『悪魔』に仕立てることもいとわない。なんと貪欲で殺伐としたルールだ。

 相変わらず表情の読めないまどか先輩が「質問いいか」と手を挙げた。


「『生徒』が複数人生き残った場合はどうなるんだ?」

「その場合は、お題のクリア数で競います」


 また新たな単語が出てきた。

 かえで先生が【③お題】と黒板に書く。